第802話 発進!
ガーゲー(中継局)を一通り見て回ることができた。
使えそうなものがあるとは読んでいたが、まさかルースカルガン(型はちょっと違う)が六機もあるとは思わなかった。
「エクセリアさん。これを覚えて山崎さんのところに運んでください。これがあればかなり広範囲を移動できますんで」
魔力充填はできないが、マナックでも飛ぶことはできる。ガーゲーでマナックを生産すれば問題はない。事実、乗り放題だ。
「空を飛ぶ乗り物か。いいわね」
「マンダリンって乗り物もあるので覚えてみるのもいいですよ」
どちらかと言えばマンダリンのほうが好きだろうよ。
ガーゲーにはシミュレーション機能がついており、オレもせっかくだからと覚えることにした。
情報としては頭の中にあり、操縦することはできるが、それはペーパードライバーみたいなもの。乗り物系は肌で覚えてこそ扱えるものなのだ。
ルースカルガンが外に出せるまで十日くらいかかると言うので、その間、ずっとシミュレーションに時間を割いた。
やはり乗り物狂のほうが覚えるのが早く、五日後にはマンダリンを覚えに外に出ていったよ。
オレも負けてはおれんと練習を繰り返し、地上に出れる通路が復旧した。
「五千年間埋まっていたのによく復旧できたものですね」
可能にしている理由はわかるが、完全にSFの世界。理解はできても納得はできねーよ。
「シミュレーションではA判定を出せたが、本当の空ではシミュレーションでは起こらないことが起こるものだ。油断せず、冷静に対処しろ」
某潜入ゲームに嵌まっていたヤカルスクさん。元の世界の言葉を自然に使えるようになっているよ。
……この人は近い将来、ゲームオタクになるな……。
「わかりました。身を引き締めて訓練してきます」
冗談で敬礼したらヤカルスクさんは本気な感じで敬礼を返してきた。この人は本当に眠りについてよかった人だよな……。
「エクセリアさんは、山崎さんのところに帰りますか?」
「いえ、実践に飛んでからにするわ。マンダリンで飛ぶのとルースカルガンで飛ぶのは違うからね」
乗り物狂の割りに堅実なことを言うエクセリアさん。狂っていても冷静なんだろうよ。
「じゃあ、オレは内陸部を飛びますね」
まだ海を見るわけにはいかないんで、内陸部を飛ぶことにするのだ。
「ええ。わたしは海のほうを飛ぶわ」
衝突回避機能はついているとは言え、誰もいないところで気兼ねなしに自由に飛びたいもの。エクセリアさんも納得してくれた。
「おれは管制室にいる。なにかあればすぐに連絡しろよ」
その手に携帯ゲーム機を持ってなければ信用できるんだがな。まるで説得力がないよ……。
ルースカルガンに乗る際にパイロットスーツ的なものを着用する必要はないが、体にフィットする座席なので、防護服を着ることにした。
「裸で着るのがなんとも慣れんな」
まあ、大洪水や山崩れを起こしても平気ってのが唯一の救いだな。いや、しないけど。
「三号艇、四号艇、カルーブを移動させます」
カルーブとはルースカルガンを固定してある台で、発進位置まで移動させる装置だ。
「三号艇、了解」
これはオレ。
「四号艇、了解」
こっちはエクセリアさんね。
発進は二機同時にできるので、順番に発進位置まで動いてくれる。
発進固定位置に着いたら上部のハッチが開いていく。
ガーゲーは地下にあり、地上までは約百メートルはある。通路は地殻変動で崩れたり破損してたりしてたが、動いたのは数メートル。それを補正するために十日かかったってわけだ。
ガーゲーは元々地盤が固定していた場所であり、魔力炉さえ稼働していれば地殻変動に合わせてナノマシン的なものが働いて地盤に合わせて造り変えているそうだ。
完全にガーゲーが固定するまでには時間はかかるが、そう急ぐこともない。ここは、セフティーホームの秘密基地。ゴブリン駆除に使えたらそれでいいんだからな。
「上空に異常なし。発進可能です。カルーブ開放します」
機体に解除された振動が微かに伝わってきた。
「牽引ルース、確認。上昇します」
ロープがついた状態で三号艇を上昇させる。
ゆっくりと上昇していき、外に出た。
「牽引ルース解除」
マナ・セーラは起動しているので、ふわっと浮かび、噴射スロットルを上昇させた。
まずは基本操作──マニュアルで飛ばした。
ブラックリンと操縦方法は違うが、十日にも及ぶシミュレーションで頭に入っている。大丈夫。オレはやれる。
操縦レバーを操り、ゆるやかに旋回。機首を山の方向に向けた。
「ガーゲー。三十分後に戻ります」
ルースカルガンはフル充填で一時間半は飛べる。
普通の飛行機が何時間飛べるかわからないが、そもそも長距離を飛ぶようなものじゃない。まあ、予備のマナックを使えば二時間は飛べるらしいが。
これが初飛行なので三十分と決めた。ルースカルガンも五千年振りに動くからな。大丈夫だとわかっていても一度飛んだらメンテナンスするようにしたのだ。
「三号艇、発進!」
ちょっと曇り空に向かって三号艇を飛ばした。
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