第801話 オタク部屋

 やはりこの人も乗り物狂だった。


 それだけならまだいい。この人の場合、チートみたいな力を持っているのがいけない。


 道は自分の前にあるとか、道は自分の手で築くとかの性格っぽくて、魔法で木々を吹き飛ばし、土魔法で地面を固めていくという離れ業をしながら六十キロくらいで走っているのである。


 チラっ横目で見れば笑っている。心底楽しんでいる笑いだ。


 運転は任せているのでどこに向かっているかはわからないが、方角からして海を目指しているのだろう。


 一時間ほど走ると魔力が切れたようで、拓けた場所で停止した。


「少しはしゃぎすぎたわね」


 水を差し出すと、一気に飲み干した。


「いい趣味ができてなによりです」


 趣味にするかは知らんけどさ。


「あなたが道を築こうとしている意味がよくわかったわ。車があるならすぐに目的地へいけて問題に対処できる。情報もいち早くわかってさらに問題の本質を理解できるようになるわ」


「そうなったらなったでさらなる問題が生まれてきますが、ゴブリン駆除だけを見たら道があることは有利に働きます」


「確かにそうね。道がよいのなら敵だって使うことだからね」


「そのために重要都市の長をこちらの味方として抑えておく必要がありますけどね」


 それさえできたらまず怖いものはない。出費はかさむけどな。


「お互い、ホームで休んできますか。パイオニアの見張りはマリンとカレンにさせますので。一時間後に落ち合いましょう」


「そうね。興奮しすぎてかなり汗をかいわ」


 ってことで、マリンとカレンにパイオニアを守るように命じてからホームに入り、一時間後に出ると、エルガゴラさんがいた。


「お疲れさん。なんか爆走していると思ったらタカトか」


「正確には魔王と戦う人の仲間で、物資補給のためにやってきたエルフですね」


「ヤマザキとかいう男だったか?」


「はい。あ、タイミングよく出てきました」


 よかった。早めに出てきて。初対面の二人が遭遇したら戦いになっていたかもしれないしな。


 警戒したエクセリアさんに駆除員の子孫であるエルガゴラさんを紹介した。


「よろしく。見た目は人間だけど、中身はエルフのようね」


「ああ。逆ならよかったんだが、まあ、オタク活動に支障はないから構わんけどな」


 本当にオタク活動しかやってないからエルガゴラさんは凄いよな。


「ゴブリンは駆除できましたか?」


 あれからまだダメ女神のアナウンスはないが、ちょっとずつは報酬が入ってきている。そろそろこの周辺で群れているゴブリンは駆逐されてんだろうよ。


「ほどほどだな。だがまあ、そこそこ稼いだし、本拠地探しをしようかと思うよ。ライフラインが整ったところはあるか? 電気ガス水道なしは嫌なんだが」


 この世界で百年も生きててライフラインとか言っちゃう辺りがエルガゴラさんらしいよな。


「それならいいところがありますよ。エクセリアさんはどうします? まだ走り足りないならここで解散しますが」


「いえ、戻るわ。本当にはしゃぎすぎたしね。少し落ち着かせるわ」


 ってことで、オレはパイオニア五号を出してきてエルガゴラさんを乗せてガーゲーに戻った。


「案外、近くにあるものなんだな、古代エルフの遺産は」


 まだガーゲーから地上に出る通路は塞がっているので、洞窟から中に入った。いずれここも塞がれるとのことだったよ。


「こっちです」


 管制室ではなく、ホテルとして使われている区画に向かい、VIPが泊まりそうな部屋に案内した。


「まだ修復されてませんが、一月もあれば完全に修復すると思います。好きなように使ってください。ただ、問題は厨房がないんですよ、ここ。なので、付設しないといけないんですよ。どうします?」


「ここにするよ。食事はメイドにやらせればいいんだしな。問題はない」


 確かにそうだな。マリンやカレンは万能だし。


「じゃあ、マリンとカリンは返しますね。なにを覚えたかは知りませんが」


「気に入らなかったか?」


「オレは別にメイド好きってわけじゃないですしね、気に入る気に入らないもないですよ」


「日本人のクセに変わったヤツだ」


 いや、日本人すべてがメイド好きではないんですけど。誰だ、エルガゴラさんに変な日本人のイメージを与えたヤツは?


「エルガゴラさんにはいろいろ付与を施して欲しいんで、生活必需品はこちらで用意しますね」


「そうだな。オタクではあるがニートにはなるなと教えられたからな。やるべきことはやるさ」


 誇り高きオタク魂ってことか? いや、適当に言ったけどさ。


「とりあえず、発電機を頼む。長いことアニメを観てなかったからな、二、三日はゆっくりさせてもらうよ。仕事はそれからだ」


「わかりました。とりあえず発電機を出したら料理でも運んできますよ。酒はいりますか?」


「いや、炭酸ジュースを持ってきてくれ。冷蔵庫ってここにあるか?」


「たぶん、それじゃないですかね? 上級民は冷たいものや温かいものが飲めたそうですから」


 厨房はないが、冷蔵庫や冷凍庫はあったりする。古代のエルフは冷凍食品のようなものをチンして食っていたとヤカルスクさんは言ってたよ。


「そのようだな。まだ動いてないが、氷くらいは自分で買うから炭酸ジュースだけでいいよ」


「わかりました。では、運んできますね」


 ホームに入り、必要なものを運び出した。

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