第800話 乗り物狂

 夕方になってモニスが帰ってきた。


「お帰り。ゴブリンは駆除できたか?」


 長いこと歩き回ったようで、疲れた顔をしていた。


「いや、山黒に遭遇して酷い目にあったよ」


「山黒ってそんなにいるものなのか? オレ、十匹以上に遭遇してるんだが」

 

 なんかそんなに出会うもんじゃないようなこと聞いたことあんだけど。


「それは異常だ。わたしも長いこと山を歩いているが、山黒なんて一度だけだ。それも遠目に見てな」


 うん。異常ですね。我が身の不運さを痛感させられるよ……。


「それで、倒したのか?」


「ああ。マチェット一本犠牲にしてなんとかな」


 やはり巨人に優秀な武器を与えたら山黒を倒せるんだな。


「モニスは銃をあまり使わないよな」


 護身用にはグロック17は持っているが、ショットガンは使ったりしない。いつも槍かマチェットを使っていたっけ。


「山黒には使ったよ。ただ、ゴブリン相手なら槍を使ったほうが早いだけだ」


 まあ、巨人が銃を使う相手なんてそうはいないか。いや、いるから厄介な世界なんだったな……。


「そうそう。あれを巨人の村に運んでくれないか? 中で見つけた非常食だ。袋を開けなければ十年は持つものだ。ただ、味はそこまでじゃないがな」


「食えるものがあるだけマシさ。明日届けるよ」


 モニスにはアイテムバッグを渡しているので一回で運べるだろうよ。出し入れは大変そうだけど。


「オレはもうしばらくここにいるからロンレアに戻ってもいいぞ。もちろん、ゴブリン駆除をやるなら続けても構わないがな」


「わたしは狩人だからな。山を駆け回っているほうが性に合っている。荷物を届けたらまたこの周辺でゴブリンを駆除するよ」


 モニスがそう言うのならオレに異論はない。鍋で作った肉シチューを巨大化させて振る舞ってやった。


 食後は三人で酒を飲みながら周辺の状況を聞かせてもらい、今日はここで眠りについた。


 朝は寒さで目覚め、ホームに入ってシャワーやら食事をして外に出る頃にはモニスは出発していた。


「ロンレアに向かうのも増えてきたな」


 まだ数人規模での移動だが、出発していく集団がちらほらと見えた。夕方には着くだろうよ。


「おはよう」


 出発する集団を見ていたらエクセリアさんが出てきた。


「おはようございます。エクセリアさんは今日どうします? オレは中を探索しますが」


「わたしも中を見て回るわ。あと、あちらでも非常食を分けて欲しいと言われたのだけれど、もらっていって構わないかしら?」


「構いませんよ。非常食は海水から生成しているみたいなので無限に造れますから」


 袋は大気成分から造っている感じで、封を切ったら数日で土に還るようだ。


「それなら遠慮はいらないわね」


「ええ。遠慮なく持っていってください。そうだ、車は知っていますか? 古いのでよければお譲りしますよ」


 パイオニア二号一号がガレージに眠ったままなんだよな。マンダルーガー(車)がここにもあるみたいだし、一号はくれても構わないだろう。


「わたしにできるもの?」


「よほど適正がない人でもない限り大丈夫ですよ。この世界の者も当たり前のように運転してますからね」


「それならいただくわ」


「じゃあ、出してきますね。この辺なら練習できるでしょうし」


 丸太の柵が抜かれたのでかなり広い場所ができている。練習するにはちょうどいいだろうさ。


 ホームに入り、奥に入れた一号を前に持ってきてガソリンを満タンにしてから外に出した。


「パイオニアって車です。一年くらい使っていますが、悪路でない限りそう簡単には壊れません。山崎さんなら知識としてはあると思いますよ」


 力が力なだけに免許はもってなかったらしいが、三十年も生きていたら車のことくらいわかるはずだ。


 まずは運転席に座ってもらい、エンジンのかけ方から教えていった。


 元々頭がいい人なだけに十分もしないで覚え、運転することができた。


「おもしろいわね」


 普段、表情を変えることがない人が高角を上げて笑っていた。


 ……この人も乗り物狂か……?


「これ、セフティーホームに入れられるのよね?」


「こちらと同じく自分の荷物と思えば入れられますよ。そちらにパイオニアを入れられる場所はありますか? 玄関を広くしてパイオニアが動かせるだけの広さがあると便利ですね」


「それだと魔石が必要ね」


「モニスが取ってきた山黒の魔石を使ってください。あれ、売るには面倒なんですよね」


 やはり手頃なサイズが求められている。メロンくらいの魔石など大都市か身分のある人に売るしかないんだよな。


「なら、遠慮なくいただいておくわ」


 そこら辺に転がしていた山黒の魔石をエクセリアさんに渡した。


「少し、セフティーホームを拡張してくるから待ってて」


「ゆっくりで構いませんよ」


 たまにはのんびりするのもいいだろう。もう何日も休んでないんだからな。


「ありがとう」


 エクセリアさんがセフティーホームに入ったので、ホームからワインを持ってきて沸かしてホットワインにした。


 落ち着いて飲むのはこれが一番だな。まあ、酒が飲めたらそれでいいんだけどね!


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 2024年 1月29日 とうとう800話できたか……。

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