第799話 大歓迎

 次に向かった倉庫でエクセリアさんに出会った。


「きてたんですね」


「わたしの故郷も似た場所だったのよ」


「案外、残っているものなんですね。まあ、エルフがいる時点で生き残りはいたってことなんですが」


 ダメ女神がやり直したと言っている割りにたくさんの種族が生き残っているよな。なんか意図があるのか? よけい複雑な世界になっているようにも思えるんだが。


「そうね。数は少ないけど、大抵の都市にはエルフがいるわね」


 長命種だと性欲どうなんだ? と思うが、マサキさんはたくさんのエルフと子供を残している。あ、人間とも残してたな。あの人、どんだけ性欲のバケモノなんだか。


「駆除員は百年毎に送られてきてますからね、生き残ったエルフと繋がって生き残ったんでしょう」


 女神の思惑が見え隠れするが、そこまでオレが気にしても仕方がない。なるようになって今があるってことにしておこう。


「なにか使えるものがあるなら好きに持っていって構いませんよ。魔力炉で造れるそうですから」


 一番食糧を造って欲しいが、あれでは非常食──あ、それをロンレアの生き残りたちに食わせればいいのか。食糧が乏しかったならまだ美味いと感じるだろうよ。


 カロリーバー(仮)とスポーツ飲料パックをパレットに載せ、一旦ホームに戻してから外との出入口付近に向かって運び出した。


「これ、非常食なんで好きなだけ持っていってください。まだ持ってくるんで」


 食糧不足なせいか集まってきた人たちがたくさん持っていく。袋に入っているなら消費期限は十年だ。しばらくは食うに困らないだろうよ。オレはノーサンキューだけど。


 三度ほど運ぶと、大体の人に行き渡ったようで、誰も持っていかなくなった。


「モニスにも運んでやるか」


 舌の肥えた今の巨人が喜ぶかはわからんが、非常食に持っててもらうとしよう。食えるものがあるなら心に余裕も出るだうからな。


 坂を登って外に出ると、丸太の柵がなくなっていた。どうしたん?


「ロンレアまでの矢印を作るために巨人にお願いして引っこ抜いてもらったんだよ」


 そこにいた人たちに訊いたらそんな答えが帰ってきた。


 モニスがやったのか、拓けた場所があってテントが張ってあり、生活感が出ていた。


 今はいないようなので、装備を外せるだけ外し、カロリーバーを持てるだけ持って巨人になった。


 作りが単純なのか、それほど負担はなかった。これなら四回くらいいけるなと、コンテナボックス二十個ほど巨大化させた。


 さすがに腹が空いてきたので栄養剤中を一粒飲み、帰ってきたら温かいものでもと思い、人間サイズの肉シチューを作り始めた。


「あなたは料理ができるのね」


 音も気配もなくエクセリアさんが隣にいた。


 請負員の気配はわかるはずなのに、まったく感じさせない強エルフさんたち。なにか技術でもあるのか?


「シチューとカレーだけですよ。他は玉子焼きすら作れません」


 焼くならできるが、厚焼き玉子的なものは作れないよ。目玉焼きも潰れるし。


「山崎さんは作るんですか?」


「最初の頃は作らなかったけど、今はこったものを作っているわ。力を抑えられる部屋を作ったから」


 あちらは望む部屋ができていいよな。魔力は膨大に使うみたいだけど。


「山崎さんは豆な人なんですね」


「力があってできないことが多かったみたいだからね、今は感情豊かになっていろいろやっているわ」


 魔王と戦える人が現代社会で生きるのはさぞ大変だろうよ。感情を抑えて生きていくのもわかるってものだ。


「いい加減、タバコは辞めてもらいたいものね。臭くてたまらないわ」


 山崎さんにとってタバコは精神を落ち着かせるもの。長年吸ってきたのだから今さら辞められないんだろう。オレも酒を辞めろと言われたら家出する自信しかないわ。


「それくらい許してやってくださいよ。山崎さんにとって大切なことなんですから」


 ただですら禁煙禁煙ってうるさい時代で吸ってきたのだ、異世界にいるなら許してやってよ。


「そうね。わたしは、山崎の部屋にいくこともないしね」


 部屋にいく女性がいるってことか。まあ、感情を殺してきたなら恋人も作ってこなかったはず。包み込んでくれる女性がいるなら幸いってところだ。


「ここをどうするつもり? かなり大きな施設だけど」


「セフティーブレットの基地として使います。魔力炉が動いてくれてますからね」


 マナック生産も山崎さんに頼らなくて済む。食糧生産はアレだが、それは外から持ち込めばいいだけのこと。プロパンガスだって運び込めるのだから基地にするにはもってこいだろうさ。


「一つお願いがあるわ」


「いいですよ。なんです?」


「……まだなにも言ってないわよ」


「オレに言ったってことはオレにしかできないことなんでしょう? なら、構いませんよ」


 それでエクセリアさんの信頼を得れるなら安いものさ。この人はずっとオレを見極めようとしていたからな。


「わたしの同胞をここに住まわせて欲しい」


「それは願ったり叶ったり。好きなだけ連れてきてください。なんなら、町でも造りましょうか? 許可なら得てきますよ」


 基地にするなら町も必要となる。それをやってくれるというなら大歓迎さ。

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