第798話 ガーゲー(中継局)

 魔力炉が完全に稼働すると、五千年の長い眠りなど関係ないとばかりに清掃が始まり、風化した外壁などを修復していった。


 とは言え、ターミナルの規模が規模なので、完全復旧までは時間がかかるそうだ。警備兵の生産も始めているので二十日から三十日はかかるんじゃないかのことだった。沈んだプレクシックまでとなると一年はかかるだろうだってさ。


 それでも驚異なことで、第五世代の技術だから可能だとのことだ。


「ガーゲーの情報をプランデットに送ります」


「ガーゲー?」


「ここのことです。ガーゲーは中継とかの意味です」


 まあ、ターミナルって意味で捉えておこう。


 ガーゲーの情報が送られてきて見取図を開いた。


 少人数で動かした割りには部屋数が多いな。


 管制としての仕事以外は別の要員だが、それでも二十四時間体制で動いているにしては多い。白骨死体も十はなかったのに。


 ガーゲーを大きく分けると、生活区、倉庫区、格納庫区、警備兵保管庫区、ってところか。案外、すっきりしてんだな。


「生活区から見ていくか」


 時間はあるので管制官たちが暮らしていたところを見にいくとする。


「結構狭い部屋なんですね」


 一人部屋みたいだが、ベッドと机があって布製のものや私物は完全に風化してなんだったかわからないほどだ。


 それでもしばらくは空調や除菌機能は働いていたようで埃っぽさはない。そして、空調が動き出したからさらに空気がよくなっている感じだ。


「これでもいいほうだ。身分の低い者は集団部屋で、ベッド一つしか与えられなかったからな」


 ヤカルスクさんたちが生きていた時代は身分社会で、結婚も子供を産むことも管理されていたとか。選ばれた者しか自然妊娠、自然分娩ができなかったそうだ。


 それ以外の者は人工的に生まされ、生産職として一生を捧げるらしい。エウロン都市はそれを嫌っていた都市で、身分差、出産、仕事の自由はあったみたいだ。


 それ故に都市は小さく、端に造るしかなかったんだってさ。ほんと、世知辛い時代だよ。それは今もだけどさ。


「台所がないんですね」


「ここを押せば飲み物と食い物が出る」


 復活したので給水器みたいなところのボタンを押すと、紙コップらしきものが出てきて白い液体が注がれた。カル◯スか?


 飲んでみたらスポーツ飲料的な味がする。


「不味くはないですが、これだけってのも悲しいですね」


「こっちを食えばさらに悲しくなるぞ」


 自販機みたいな箱のボタンを押すと、カロリーバーみたいなものが皿に乗って出てきた。


 包みを破いて食べる。


「うん。悲しくなりました」


 サクッとした感触はいいのだが、味が薄い。たまごボーロみたいな味だ。


「こんなもの食べてたら発狂しそうですね」


「逆に萎えてきて、感情が死んでいたよ」


 嫌な時代だ。発展すると食事もこんな風に効率化されるのかね? 


「今は美味いものが食えるってだけで幸せだよ」


「そうですね。なんとかやれているのは美味い飯と美味い酒があるからですからね」


「まったくだ」


 今日の夜は美味い飯と美味い酒で乾杯しようと約束して倉庫区に向かった。


「倉庫が多いですね」


「ガーゲーだからな。他がなにかあったときの倉庫も兼ねているんだろう。もしかしたらサバイバルキットがあるかもしれんな」


 サバイバルしたりするんだ。できるのか、古代のエルフに?


 まあ、技術が劣る世界のオレもサバイバルしろって言われてもできないがな。ホームがなかったら確実に死んでいた自信しかないよ。


「手分けして探しましょうか」


「そうだな。あったものの情報を共有しよう」 


「わかりました」


 物資の情報はあるだろうが、この目で確かめておくのも大事だ。


 まずは細かいものが収まっている倉庫1から見ていくとしよう。


 棚に収まったコンテナボックスを出してみると、衣服が入っていた。


 マイセンズで見つけた下着類もあり、かなりの数が保管されているようだった。


「種類はないが、下着類は助かるな」


 この倉庫は男性用のものが収まっているようで、数からして千人分はあるんじゃなかろうか? 万が一にしても保管しすぎじゃね?


「これならマナックもありそうだな」


 女性用はマーリャさんに任せるとして、次に見つけたのは外に出る用の防護服が収まった倉庫だった。


 オレの頭の中の情報ではそこそこ丈夫に造られているようで、マナックを使えば筋力補助や潜水機能もあったりするものだった。


「これはいいな。いくつかホームに入れておくとしよう」


 またミサロに怒られそうだが、これはあったほうがいいもの。怒られたら誠心誠意謝って許してもらいましょう。


 サイズはSMLな感じにわかれ、MとLのをホームに運んだ。これは、獣人にはちょっと合わない。まあ、エルフに合わせて造られたものだから仕方がないわな。


 パレット一枚分だから怒られないだろう。


「ちょっと着てみるか」


 外に出てLサイズのを着てみると、体に合わせる機能もあってぴったりとフィットした。


「裸で着ないといけないのが難点だな」


 いや、これを着ていればトイレにいかなくていい機能がついているので便利っちゃ便利なんだが、なんだか全身オムツをしているようで抵抗があるよ……。

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