第797話 どうしようもねー

「魔力炉、稼働しました!」


 マーリャさんの見立て通り、魔力炉が稼働した。


 まあ、これと言って音や振動があるわけではないのだが、どうなるかと見守っていると、管制室の窓に文字が浮かんだ。


「クリーン作業に入ったみたいですね」


 まずはターミナルの清掃から始めるようだ。


 窓から外を見ると、灯りが点き始めているようで、うっすらと明るかったのが徐々に明るさを増していくところだった。


「魔力炉から管制室の魔力道を確保しました。空気浄化始めます」


 ぶおんと空気口から風が出て浄化を始めると、心なしか空気がよくなっていった。


「魔力炉の力で食糧って生産されないんですか?」


「できないこともないが、味気ないものしか作れんな。眠る前はほとんどそれで嫌な毎日だったよ」


 味気ないものを毎日食わされるとか拷問でしかないな。


「眠る前は不安で仕方がなかったが、あの選択は間違いでなかったと思わせてくれる。美味いものが食えて上級民しか飲めなかった酒も毎日飲める。こうしてわくわくできるんだから最高の毎日さ」


 それはなにより。オレもそんな毎日にしたいものだ。


「まだ本格的に動かないのなら外を見回ってきますよ。生き残っていた人たちの様子も気になりますしね」


「おれもいこう。マーリャ、いいか?」


「大丈夫です。今はまだ見守っているしかないですからね」


「なにか必要なものがあればホームから持ってきますよ」


 ただ見守るだけでは辛かろう。必要なものがあるなら遠慮なくどうぞ。


「では、お菓子をお願いします」


 ってことで、菓子とクーラーボックスに飲み物を入れてホームから運んできた。


「では、いってきます」


 ヤカルスクさんと管制室を出た。


「あ、これを渡しておきますね」


 玄関に置いていたプリジックを渡した。


「おー。プリジックか。始めて見たよ」


「使ってなかったんですか?」


「武器を使うには許可が必要で、鎮圧部隊か守護部隊くらいしか持てなかったんだよ。そもそもエウロンでは武器使用は厳重な法の下にあったんだ。マイセンズのように武器を大量に造るのが異常だったのさ」


 マイセンズってかなり過激な都市だったんだな。だから滅びたのか?


「タカト殿!」


 なにやら慌てたようなカルザスさんと仲間たちが駆けてきた。


「一体なにが起こっているのですか?」


「ここの施設を動くようにしました。皆さんに害はないので安心してください。それより、移動する準備はどうです? 必要なら武器も提供しますよ」


 この世界で仕入れた武器も少しはホームに入れてある。ちょっと邪魔だし、いると言うなら提供しても問題ないさ。


「それはありがたい。早くいきたい者がいるが、武器がなくて困っていたのだ」


 気の早い者はどこにでもいるか。よく十年以上保てたものだ。


「では、持ってきますね」


 ホームにあるだけの武器を運んできてカルザスさんたちに渡した。


「申し訳ありませんが、食料は自分たちで調達してください。食料がもうないんで」


 買えばあるけど、在庫はないんですよ。港町や城下町にも出しているんでな。


「ああ。なんでもかんでも頼っていられないからな。弓があるなら狩りもできるさ」


 十年以上サバイバルしてきた人たち。道具さえあれば力強く生きられるんだろうよ。


「ロンレアまでの道がわかるようにしていってくださいね。いずれここまでの道を通そうと思うので」


「ここを使うのか?」


「ええ。少しでも早くロンレアを復興させたいですからね。使えるものはなんでも使っていきますよ」


 魔力炉さえ動いてくれるならマナックを生産できる。プレクシックやルースカルガンを気にせず使えるようになるんだから優先して復活させましょう、だ。


「カルザスさんもいくんですか?」


「ああ。ロンドク様にお会いしたいからな。マルス様が生きていることをお伝えしなければならん」


 ミリエルから言ってもらってはいるが、本人のやる気を阻害するのも申し訳ない。お気をつけてと見送った。


「警備兵が掃除を始めたようだな」


 円錐形の物体が列をなしてやってきた。


「あれが施設を回復したりするんですか?」


 マイセンズの情報にないタイプの警備兵だ。


「ああ。第五世代のだから性能はいいはずだ。魔力炉さえ動けば生産も可能なはずだ」


「凄い技術があっても毒は消せなかったんですね」


「恐らく神の仕業だろうとの意見が大半だったな。どんなことをしても浄化はできなかった。きっと戦争ばかりするオレたちに見切りをつけたんだろうってな」


 あのダメ女神ならやりそうだ。命なんて将棋の駒にしか思ってないんだろうよ。


「人もそうなりそうで怖いですね」


 このままいけばエルフより先に自滅するんじゃないか? なんて心配しても残り五千年。オレが心配したってどうしようもねーよ。


「そうだな。でも、おれたちはお前を信じて生きるだけだ」


 ほんと、オレを救世主みたいな扱いにするの止めて欲しいよ。こっちはしがないゴブリン駆除員なんだからよ。


「戻りますか」


 さらに警備兵が出てきた。ターミナルが復活するまで管制室で待つことにしよう。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る