第796話 世代

 思いの外、技術者のマーリャさんがやってきた。ヤカルスクさんと一緒に。


「すみませんね、きてもらって」


「いえ、ロンレアではなんの役にも立てなかったので気にしないでください。さっそく調べてみます」


 生き生きと管制室を調べ始めるマーリャさん。できることがあって嬉しそうだ。


「ヤカルスクさん。密封された倉庫があるのはわかったんですが、開け方がわからないんですよ。わかります?」


 オートマップであることはわかるのだが、タッチパネル的なものがないのだ。マイセンズの知識にもないから困っていたのだ。


「恐らく、第五世代の技術だからだな」


 なんでも古代エルフが生きて時代には八つの世代があり、マイセンズは第七世代で、ここは第五世代の技術で造られているそうだ。


「古い技術ってことですか?」


「そうとも言えない。都市間戦争が起こった第五世代は技術力が高かったそうだ。だが、技術が高いだけに一旦破壊されると復旧に時間がかかる。第六世代からはあえて技術を下げて回復力を上げたそうだ」


 へー。技術も上がればいいってもんじゃないんだ。長く生きるエルフならでは、ってことなんだろうよ。


「そうなると魔力炉を復活させるか、バッテリーを稼働させるしかないな」


「艇長。魔力炉、動かせるかもしれませんよ」


「本当か!? 魔力炉の稼働限界値は千年のはずだろう?」


「第五世代なのが幸いしました。職員が全員死亡した時点で休眠状態に入って、ロードン塗布が発動しています。着火させれば動くと思います」


 着火? 専門用語か?


「着火できるのか?」


「その前にパスコードを入力しないとダメです。しかもここだけ手動ときてます」


「なんだそれは? わざわざここだけ変えたのか?」


「そうだと思います。ここだけ材質が違うので」


 なんだか不穏な状況になってきたな。これは無理か?


 その入力法を見せてもらったら、頭の中にその方法が浮かんできた。


「少し、やらせてもらっていいですか? マイセンズの情報が出てきたので」


 不可解な表情をしながらも場所を譲ってくれ、その前に立った。


 パネルは魔力が切れて真っ黒になっているが、それを下にスライドするとクリスタル的なキーが収められている。


 これは非常用発動キー。これを差すと、魔力が機器に送られ、空中に本当の起動パネルが映し出された。


 ここに十桁の数字とパスワードを入力。機密ってわけじゃないようで、本当に非常用のものとして造られたものらしい。


「動いた」


 起動シークエンス的なことが起こり、管制室の計器が灯り出した。


 マーリャさんがオペレーター席に座り、持ってきたキーボードを接続して叩き出した。


「各予備バッテリーも生きてます。着火まで一時間です」


 なかなか時間がかかりそうだが、こんな大施設を運用する炉が一時間くらいで動くことが驚異的なことだよな。作業機械でも長期間休みのあとは立ち上げまで十分くらいらかかるんだからな。


「やはり第五世代の技術は凄いわ。まったく壊れてないじゃない」


 なにが起こっているかは理解するが、マーリャさんのようにわくわくはしない。へーって感じだ。


 とりあえず、一時間はかかると言うのでホームからコーヒーセットを持ってきて飲みながら待つことにした。


「警備兵に魔力充填開始。約五分で出動します」


「警備兵?」


「文字通り、警備を主としたロボットで、他にも設備修復もしたりする。これがあることが一番の収穫だな。アルセラと違い、自立思考しながらも攻撃手段がなく止めることも簡単だからな」


 情報を探ると警備兵のことはあったが、そこまで重要視されているようなことはなかった。たとえるなら清掃ロッカーにル◯バが仕舞ってあったってくらいだ。


「マルラスが多少不足していますが、魔力炉が動けば生産できますね」


 マルラスとはマテリアル的な感じか? 古代エルフを支える万能金属的なものだ。魔力で造られるものらしい。


「この世界の魔力量って減ったりしないものなんですか?」


 魔力炉はこの世界に満ちた魔素を集めているそうで、炉ってより収集機みたいなものだな。


「昔、魔力はどこから発生するかを突き止めようとしたことがあった」


 ん? なに、いったい?


「研究に研究を重ねた結果、魔力は異次元から供給されていることを知った。その供給源を解明することができたのは異界から連れられてきた者だと言われている」


「……つまり、女神が魔力を供給していると」


 なぜエレルダスさんが駆除員のことや女神のことを知っていたのはそれか。


「ああ。どんな理由で魔力を供給しているかまではわからないが、女神が停止しない限り、魔力は尽きることはないだろう」


 すべての命は女神に握られている、か。まっ、今さらって感もあるがな。


「女神が口を出してこないってことは使えってこと。遠慮なく使わせてもらいましょう」


 なにを考えて──いや、知的生命体が一万年続くことしか考えてない存在。異世界から連れてくることも厭わないのだから手段は問わないのだろう。


「お前は逞しいな」


「寿命で死ぬと決めましたからね。使えるものはなんだって使いますよ」


 手段は問わないでは女神と同じになってしまう。使えるものは使うで生き抜いてやるさ。

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