第794話 プリジック(拳銃)
マルス様にホームから運んできた料理を食べさせ、ゆっくり眠ってもらった。
「カルザスさん。少しずつでいいんで、ここを出る用意をしてください。元気な者は移動してもいいかもしれませんね」
港町まで二十キロってところか? 朝に出発すれば明るいうちに到着できるだろうよ。
「あちらには食糧があるのか?」
「港町の教会と西門前に用意はしています。復興の報酬として食事を提供していますんで、しばらく暮らしてはいけると思いますよ」
さすがに仕事はそれぞれで見つけてください。
「まあ、そう悲観することもないでしょう。まだ冬になるまでには時間がありますし、コラウスから商人が流れてきます。そうすれば物も増えて暮らしも楽になるでしょうしね」
この時代の人間のバイタリティーならすぐに暮らしを回復させるだろうよ。食えることが幸せって価値観を持っているからな。
「そうしよう。ここでの暮らしが限界に近づいていたからな。話してみよう」
「そうしてください。オレはマルス様が目覚めるまでここを探索させてもらいます」
まだ使えるものや隠し部屋があるかもしれない。探索して損はないだろうよ。
部屋の前で別れ、一旦炊き出しした場所に戻り、担当している者にホームから運んできた食材を渡した。
と言ってもコーンスープの素と芋だけ。ここにいる者の胃を満たせてやるほど食材は渡せない。それに、まったく食料が手に入らないってわけでもない。味変感覚で我慢してもらおう。
「タカト。豆をもらってきたわ」
エクセリアさんがセフティーホームから出てきた。
「ありがとうございます。オレ、ちょっと探索してきますね」
現在は十六時過ぎくらい。二時間くらいあれば大体はマッピングできんだろうよ。
「わたしもいくわ。興味あるしね」
断る理由もないので一緒に見て回ることにした。
ターミナルはドーム状になっており、水場は向こうまで百メートル。長さはその倍。二百メートルはあるだろうか? 水深はそんなにないのか、プレクシック似の船が三隻ほど沈んでいる。
ホテルらしきものがあることからして各地からきて、ここで乗り換えしているってことだ。なら、娯楽施設や倉庫なんかもあったりするはず。職員しか入れないところもあるなら五千年もの年月にも耐えているはず。そこにお宝があるとオレは見た。
命を懸けた冒険心はないが、お宝を見つける冒険心はある。ここなら迷宮をさ迷う魔物もいないしな。心が躍るぜ。
船はあとにして管制室らしきガラス張りのところを目指した。
マイセンズ系の技術みたいなので、プランデットをして情報がないかを探したら、簡単な見取り図を発見できた。
見取り図を見ながら管制室を目指すと、扉に塞がれていた。関係者以外立ち入り禁止かな?
こちらにはアルセラの反乱は起きてないのか、戦闘した痕はなし。でも、内側から閉めた感じっぽいな。
通路の端を探り、パネルらしきものを発見。ナイフで周辺を削っていくとハッチがあった。溝を削っていき、ハッチを剥がした。ほら、ギアがあった。
ここにはレバーがついていたので取りつけて回すと、扉が開いていった。
「詳しいのね」
「マイセンズの情報を無理矢理女神に入れられましたからね」
あのダメ女神には何度殺されかけたか。オレの頭、本当に大丈夫だろうか?
人一人通れるくらい開いたら止め、しばらくしてから中に入った。
「あ、ここから出たらこれを飲んでください。五千年前の病原菌が生きていたら大変ですからね」
エクセリアさんはエルフなだけにエルフにだけ感染するものが満ちているかもしれない。もちろん、オレも出たら飲むがな。
「わかったわ」
回復薬は山崎さんにも渡してあるので説明は不要。了承して受け取ってくた。
外の空気から完全に遮断されていたようで、中は新品のまま。ただ、所々に白骨が転がっていた。
「……アルセラではないなにかから逃げたみたいだな……」
外気が流れ込んだか?
「五千年前は、エルフだけを殺す毒が外気に満ちていたそうです」
「先祖が残した文献にもそんなことが書かれていたわ。世界は毒に満ちていた。毒に打ち勝った者だけが生き残れたとね」
「たぶん、駆除員が関わっているんじゃないですかね? 五千年前から異世界人を連れてきたみたいですからね」
五千年前から異世界人を拉致してきてんだから悪魔だよな。てか、それだけしてゴブリンを根絶やしにできないんだから諦めろよって話だわ。
管制室まで到着すると、そこにも衣服を着たままの白骨が転がっており、その近くには拳銃──プリジックが落ちていた。
「争ったみたいね」
「ですね」
どんな争いが起こったかはわからんが、エルフも人間もそう違いはない。些細なことから憎しみやすれ違いが起きて殺し合いに発展したんだろうよ。
プレートキャリアからスキットルを出して封を切り、白骨死体にちょっとずつかけていった。
オレは神に祈りたくないし、ここのエルフがどんな神を信じていたかも知らない。なら、オレなりの弔い方をさせてもらおう。
少しだけ残ったスキットルをコントロールパネルの上に置いて黙って敬礼をした。
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