第793話 誓い
つくづくこの世界の人間は強いな~って思うよ。
食事を与え、体を洗わせたら尊厳ってものが復活したように思える。どこからか笑い声まで聞こえるほどだ。
「タカト殿、助かった」
ぼんやり眺めていたらカルザスさんがやってきて礼を言われた。
「礼などいりませんよ。ロンレアの復興要員を手に入れられたんですからね。こちらが得しました」
ここに何人いるかまだわからないが、ざっと見ただけここには二百人はいる。他にもいるそうなので最大五百人と言ったところだろう。
復興要員としては少ないが、それでもロンレアの人口が増えるのはありがたい。数は力だからな。
「どうしてそこまでロンレアに力を注いでくれるのだ?」
「ロンレアからコラウス、ミヤマランまでを道で繋ぐ。それがオレの目的です」
「道?」
「はい。オレはゴブリンを駆除しないといけません。そのためにはすぐに駆けつけるための道がないといけないのですよ」
まったくわからないって顔をするカルザスさん。まあ、無理もない。初めての人には理解できないことだからな。
「ロンレアの歴史を知っていますか?」
「あ、ああ。大まかなことなら」
「異世界から連れてこられたゴブリン駆除員がロンレアを作ったことは?」
「いや、そんな話は聞いたことがないぞ」
「ってことは、伯爵家の者だけに伝わることなんですかね? 伯爵様とその息子さんは知っているようでしたが」
よくよく考えたら異世界人なんて一般人には夢物語。いや、異世界なんて概念もないか。身内で受け継がれるものとして受け繋いでいく真実になっちゃうかもな。
「それならマルス様に会ってくれ」
「マルス様?」
誰や?
「こっちだ」
カルザスさんに手首をつかまれ、ターミナルの奥に連れていかれた。
ホテルも兼ねていたのか、エントランス的なとこれに入り、階段を昇って四階に。ロードン処理が剥がれたようで、カビやら水滴が垂れており、完全に洞窟的な感じになっている。これは数百年で朽ち果てるかもしれんな。
「結構な人数が住んでいるようですね」
廊下にたくさんの人がいて、家族単位で暮らしているようだ。
いいところ五百人かと思ったが、これは千人近くいそうだな。ほんと、 食糧はどうしてたんだ? 人々の様子から飢餓に陥っている感じはしないぞ。
さらにもう一階昇ると、ロードン処理がまだ残っていたようで当時の姿を残していた。
……さすがにライフラインは死んでいるから臭いけどな……。
「カルザス様」
部屋の中から三十前後の女性が出てきた。
「ミリシア様。マルス様は?」
ううんと頭を振るミリシア様と呼ばれた女性。様って呼ばれるってことは地位のある人なのか?
「こちらはロンレアからきたタカト殿です。マルス様に会わせたくて連れてきました」
「ロンレアから!?」
ん? 情報が伝わってない? こんなところにも格差があるのか?
「はい。ロンレアは解放されたそうです」
「わ、わかりました。中へ」
ってことで中に通された。
ジメジメしているのかと思ったらそこまでジメジメしていない。植物を置いていることと関係あるのか? ちなみに明かりは光る石が至るところに置いてあります。
キングサイズのベッドには三十前後の男性が寝ており、今にも死にそうなほど痩せこけていた。
「これを飲ませてください。かなり効果がある薬です」
プレートキャリアから回復薬大を一粒出してミリシア様とやらに渡した。飲ませるかはそちらの判断に任せる。
「わかりました」
一瞬、躊躇いは見せたもののマルス様に囁き、回復薬大を飲ませた。
十数秒後、マルス様が瞼をかっ開き、ガバッと起き上がった。
いつもながらどんな成分が含まれているか不安になる効果だよな。DNA、改造されてたりしないよな?
「……おれは一体……」
「文字通り、神薬を飲ませました。ただ、栄養が足りてないのですぐに立ち上がったりしないでください」
ベッドの側に寄り、手持ちの水を渡して飲ませた。
「……あなたは?」
「オレは、一ノ瀬孝人。女神によりこの世界に連れてこられた異世界人です」
この人がロンレア伯爵家の人間なのは間違いないだろうが、ロンレアの流れを聞いているかまではわからない。が、聞いていると判断してしゃべった。
「女神様の使徒ですか!?」
ロンレア伯爵家、教育がいき届いてんな。
「ええ。不本意ながら女神の使徒として認識されています」
どんな教育されているかわからんが、ロンレア伯爵家の中では女神の使徒は感動する存在なんだろう。涙を流しながら手を合わせて女神に感謝しているよ。感謝されるべきことなんもやってないんだがな。
「ロンレアは復活します。新しく伯爵となった方とともに人々を導いてください」
「新しく? お祖父様は亡くなったのですか?」
「オレの家族が最後を見届け、新しい伯爵の場面にも立ち会いました。笑って眠りについたそうです」
「……お祖父様、最後にお会いしたかった……」
辛いものだな。家族の最後に立ち会えないというのは。
「生きてください。亡くなった人たちのためにも。それが報いとなりますから」
オレも寿命で死んでやる。二度と会えない家族に誓ってな。
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