第792話 ターミナル

「オレは一ノ瀬孝人。冒険者と言いましたが、正確にはゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターです。ゴブリンを殺して金を稼いでいる、ってことは今は横に置いておきましょう。ロンレアに戻るなら今が好機ですよ。この周辺のゴブリンや魔物はいなくなりましたから」


 暴れに暴れたからゴブリンも小動物もいなくなっちゃったよ。


「もし、食糧が不足しているならいくばくかの量なら渡せますよ」


 集団が維持できているのならこちらから手を差し伸べる必要もないが、港町にいく気力もないのも困る。生き残ってくれたのなら復興の一員となって欲しいからな。


「それは助かる。もう食糧が尽きているのだ」


「では、まずカルザスさんたちが腹を満たしてください。もし、仲間が切羽詰まっているならこちらから向かいますが?」


「食糧を持っているのか?」


 モニスに目を向けるカルザスさん。荷物持ちとおもわれたかな?


「オレは荷物を別のところに仕舞える魔法が使えるので、大きい荷物はそちらに置いてあるんですよ」


 もう女神の使徒と認識されてからはホームのことを誤魔化す気にもなれなくなったよ。超常の存在と繋がりがある時点で超常の相手と見られちゃってからな。


「そ、そうか。では、仲間のところにきてくれ」


「わかりました。モニス、村に向かってくれても構わないが、どうする?」


「お前に付き合うよ」


 と言うのでカルザスさんに案内してもらって仲間たちのところに向かった。エクセリアさん? 我関せずな感じでG兵器のバックパックの上に座っております。


 コネクトしてカルザスさんのあとに続くと、隠れていた仲間たちがわらわらと出てきた。


 不安な顔を見せているが、誰も声を上げることはなかった。


 十年以上、外界と遮断され、食糧危機に恐れて暮らす。オレには理解できないが、集団として纏まっていたことには称賛に値するよ。


 三キロほど山の中を進むと、丸太を集めた柵が張り巡らせており、獣の死体が吊るされていた。


 ……本当にサバイバル──いや、弱肉強食をやっていたんだな……。


「モニスはここにいてくれ。暇なら十四時方向、一キロくらいのところにゴブリンの群れがいるから駆除してきていいぞ」


「そうする」


 モニスが十四時方向に向かうのを確認したら柵の間を縫うように進むと、洞窟が現れた。


 なるほど。十年以上いきのこれた理由はこれか。でも、食糧はどうしてたんだろう? 畑なんかなかったのに。


 コネクトを解除して外に出る。


「凄い臭いだな」


 保健所が出動するレベルの臭いだ。マスクしておこう。


「わたしにもちょうだい。堪らないわ」


 エクセリアさんも堪えられないようなので、予備の防臭マスクを渡した。


「すまないな。魔物避けのためにわざと臭くしているんだ。中に入ればマシになる」


 中に入ると、奥から風が流れてきているので、多少臭いは抑えられた。


 松明の灯りに照らされながら奥にに進む。


「人工的に掘られた穴ですか?」


「いや、遥か昔に造られたものらしい。ロンレアでは冒険者が初めて目指す迷宮とされている」


 迷宮? そんなもまであるのか?


「また古代エルフの地下都市か?」


 エレルダスさんからロンレアに地下都市があったとは聞いてないが、地下に都市を移して五百年くらい続いていたらしい。知らないうちに都市ができていても不思議ではないだろうよ。


 いつの間にか下っており、壁に施された手摺を使わないと下りられなくなった。


 どこまで続くんだって思った頃、やっと底についた。


 さらに十分くらい歩くと、明るい空間に出た。


「……なるほど。マイセンズの水路がどこに続いてんのかと思ったらここか……」


 港のような造りとなっており、プレクシックに似た船がいくつか沈んでいた。


「ターミナルって感じか?」


 船が通れるほどの扉が三つある。その一つがマイセンズに繋がっていたんだろうよ。


「潮の香りがするな。やはり海まで繋がっているようだな」


「たまに海の魚が現れる。それで生き残れたようなものだな」


「巨大魔物は現れるので?」


「いや、小さな魚ばかりだ」


 ってことは崩れているか網目状の扉で塞がれているかだな。


「飲み水はありますか?」


「ああ、それだけは豊富にあるよ」


「わかりました。少し待っててください──」


 ホームに入り、ディナーロールを大量に買い、コーンスープの素、キャンプ用品をリヤカーに載せて外に出た。


「その鍋に水を入れて沸かしてください。パンの分配は任せます。足りないのならまた持ってきますので。赤ん坊はいますか? 母乳の代わりになるものやおしめなんかもありますんで持ってきますよ」


 意外と、と言うか当然と言うか、粉ミルクや哺乳瓶、おしめなんかは重宝されるので、棚一つ分は用意してあるのだ。


「お願いする。なにもかも不足しているのだ」


「わかりました。あるだけ持ってきますよ」


 ついでに石鹸も持ってくるか。もう何年も風呂に入っていないヤツらばかり。臭くてたまらんよ。


「わたしも食料を運んでこよう。豆と芋ならすぐに持ってこれるからな」


 エクセリアさんもそう言ってセフティーホームに入った。臭くて逃げたんだな。


「赤ん坊を集めておいててください」


 空になったリヤカーを引いてホームに入った。

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