第789話 殺戮魔法

 羽目を外しすぎたせいで、起きたら十時を過ぎていた。


 まあ、そう急ぐ目的ではない。午後からでいいやろ。なんて気持ちで起き上がったら、エクセリアさんがいた。


 ……あ、エクセリアさんのことすっかり忘れていたよ……。


「すみません。羽目を外しすぎました」


「構わないわ。わたしも寝坊したから。あなたたちも寝坊してくれて助かったわ」


 事実かどうかわからんが、まあ、そういうことにしてもらおう。


「ゴブリン駆除は午後からにしましょう」


 ゴルグもモニスもまだ眠っている。起きないようならオレたちだけでゴブリン駆除をやればいいさ。


 エクセリアさんから承諾をもらい、ホームに入った。


 ホームには誰もいないようで、玄関のシャワー室を使って酔いを冷まし、時間もあるのでシャワー室を掃除した。シエイラのシャワー室なんでちゃんと綺麗にしておかないとな。


 酔いも冷め、ミサロの作り置きを食べて一息。巨人になれる指輪を嵌めて栄養剤を飲んで満タンに。そしたら指輪を外した。必要なときに嵌めるほうが体に負担がないのだ。


 今日は指示がメインになると思うので、武装は軽めにして外に出た。


「ゴブリンが近くまで集まっているな」


 昨日の夜はそこまでいなかったのに、今は数百匹が集まっていた。エクセリアさんに釣られたか?


 まだ確証は得てないが、ゴブリンはエルフを好んでいるような気がする。それも魔力が高いエルフを。


 まあ、好んでいるんじゃなくて憎んでいるかもしれないが、どちらにしろゴブリンが集まってきている。確実にこちらに、な。


「エクセリアさん。なにかゴブリンを引きつける道具を持っていたり要因があったりします? 興奮しているゴブリンどもが集まってくるんですよね」


「特に持ってはいないし、要因に心当たりもないわ」


 うーん。謎は解けぬか……ま、仕方がない。今はゴブリンを駆除するとしよう。


「興奮しているならそれを利用しましょう」


 飢えている感じではないが、エサをばら撒けば食欲が勝るだろう。あいつらは欲望に忠実な害獣だからな。


 ホームに入り、処理肉を十キロほど買って外に出た。


「エクセリアさん。これを周辺にばら撒いてください。ゴブリンを引き寄せます」


「こんなもので集まるの?」


「集まります。ただ、集まりすぎることもあるので場所は選びます」


 ここなら千匹くらいなら問題ないだろう。殺戮級のエクセリアさんがいて、巨人が二人。オレ、マリン、カレンが補う。完璧な布陣、とまでは言えないまでも無難な布陣には違いはないさ。


 半信半疑ながらも処理肉をばら撒き、釣れるのを待っているとゴルグとモニスが起きてきた。


「ゴブリンを引き寄せている。顔を洗って待ってろ。二日酔いが酷いようなら少し下がっててもいいぞ」


 集まってくるのは千匹もいない感じだ。時期的に食えているからか、いまいち引き寄せられてないよ。 


「エクセリアさん。数は約八百。雑魚ばかりです。あと数分で先頭がやってきます。狂乱化するまでは手を出さないでください」


「わかったわ」


 オレの言葉に冷静に返事をする。場数を踏んでいるってのがよくわかる。魔王軍と戦う人にしたらゴブリンなんてゴミ掃除でしかないんだろうよ。


「きました。そのまま待機」


 まだ警戒しているようで、すぐに処理肉に食いつくことはなかった。


 だが、欲望に忠実なだけに一分も待てない。食欲に負けて処理肉に飛びついた。


 しばらくしてワキガのような臭いが。そして、狂乱化となった。


「こちらに流れてきたら攻撃してください。漏らしたものはオレらで対応します」


「わかった」


 嫌な臭いがしてもエクセリアさんは揺るぎもしない。ゴブリンどもがエクセリアさんに気がつき、獲物だと認識して襲ってきた。


 と、エクセリアさんの両手が光り出し、ゴブリンどもに向けた──ら、光りが爆発。光りの帯がゴブリンに向かって放たれた。


 二匹の光の龍がゴブリンを飲み込んでいく光景に絶句する。


 ……これか、報酬が段々と上がっていった理由は……。


 光の速さはないが、ゴブリンの身体能力では避けることはできず、体を噛み裂かれ、噛み砕かれ、なかなかスプラッターな光景だ。これは殲滅と言うより殺戮魔法って呼んだほうがいいな……。


 魔法の継続時間が長い。十分過ぎても威力が衰えない。もう三百匹は食い殺しているよ。


 十五分くらいして光が衰えてきて、二十分は持たずに消えてしまった。


 ……ざっと五百匹いったくらいか……。


 エクセリアさんを見れば肩で息をしている。大技なのは間違いないようだな。


「ゴルグ! モニス! いけるか!」


 うち漏らしたのが何匹もいるし、あと三百匹は残っている。狂乱化している今がチャンスだ。


「任せろ!」


「すべて駆除する! 手を出すな!」


 二日酔いが切れたようで、二人が山の中に入っていった。


「エクセリアさん。下がって休んでください。終わったら片付けをするんで」


 肩で息はしているが、そこまで疲れた様子はなかった。なら、片付けもやってもらうとしましょうかね。


「わかった。一時間くらいセフティーホームに入るわ」


「疲れが取れないときは十五時からでも構いませんよ」


 生き残りに止めを刺す必要があるからな。


 マナイーターを抜いて、オレもマリンとカレンをつれて山の中に入った。

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