第788話 オーバーキル
「モニス! ゴルグ! ちょっと山にいくから付き合ってくれ!」
生活環境を爆速で調えつつある巨人区。巨人だけ流れる時間が違うのだろうか?
「そりゃ構わんが、どうした?」
「女神からのアナウンスでクロニクスの木ってのがこの地に合うんだとさ。それを畑に移す」
「クロニクスの木か。懐かしいな」
「知ってんのか?」
まあ、家具職人だから声かけたんだがな。
「まーな。クロニクスの木の実は油が取れて、絞ったカスは家畜のエサになる。木のほうはよく籠に使っていたな」
なんか万能な木っぽいな。すぐ食えるものじゃないのは残念だがよ。
「移し替えしても育つか?」
「まあ、問題ないだろう」
「モニスはどうだ?」
てか、モニスは狩り以外なにができんだ?
「構わない。穴掘りにも飽きたしな」
「穴?」
「トイレだよ」
あー。それは大事だね。巨人は特に。
それ以上はセクハラになりそうなので、二人が準備する間にダンに話を通しておく。巨人のリーダーだからな。
用意が整ったらホームから新しく買ったKLX230Sを出してきた。
「ゴルグ。マリンを運んでくれ」
カレンはオレの後ろに乗せてバイクの運転を教えるとしよう。覚えられるかは謎だけど。
モニスを先頭に、ゴルグと二人で切り拓いてもらって進んだ。
小川が結構あって新車がすぐ汚れる。これならエルガゴラさんに魔法をかけてもらってから乗るんだったよ。
一時間くらいして山の麓に到着。まずはキャンプ地を拓いてもらって、モニスには周辺の探索を。ゴルグには木を伐ってもらい、オレは木の水分を吸い取った。
暗くなる前には屋根のある小屋ができ、釜戸も作ったのでビーフシチューを作った。
四十分もあれば仕込みもできるので、巨人になってパッパと作って、あとはゴルグに任せた。
いい匂いに釣られてか、モニスがエクセリアさんを連れて戻ってきた。
「ご苦労様です。随分と稼ぎましたね」
「最初だけよ。あとは逃げられて上手くいかなくなったわ」
「ゴブリンは逃げるのと隠れるのに特化した害獣ですからね、慣れてないと苦労しますよ」
五感が優れているかオレみたいに気配を察知できないと探すのが本当に困難だ。そこにいるのに草木に溶け込んで姿がまったくわからないからな。もうカメレオンみたいな能力を持っているのかと考えてしまうよ。
「死体はどうしました?」
「肉片にしてやったわ」
オーバーキルのエクセリアかな?
「やはりバデット化を防ぐためですか?」
「いえ、気持ち悪いから粉々にしてやったわ」
ただ、生理的に嫌だからのオーバーキルのようだ……。
「ま、まあ、バデット化しないならなんでもいいです。明日はオレが指示するんでたくさん稼いでください。古代エルフ語って使えますか?」
「専門用語でなければわかるわ」
「じゃあ、これを、マイセンズ系のプランデットです。山崎さんならなんとなくわかると思いますよ」
文字が読めて活用法がなんとなくわかるなら元の世界の知識があれば理解はできるはずだ。
「それと請負員カードも持っていってください。請負員となればエクセリアさんが出したものでも触っていれば消えずにいられますから」
魔王と戦う人らがゴブリン駆除請負員でも問題はない。副業としてゴブリン駆除をしてくれるならオレは大助かりだ。
「一応、二十枚ほど渡しておきます。もっと欲しいときは遠慮なく言ってください。カード発行は簡単にできますんで」
このカード、発行するとそのまま残っている。たぶん、一年しないと消えないんじゃないか? まあ、お陰で職員に任せられるからいいんだけどな。
「ありがとう。それは助かるわ。いちいちわたしが管理するなんて面倒だなと思っていたから」
「他に必要なものはありますか?」
「今のところは大丈夫よ。なにからなにまであなたに頼るのは違うからね」
随分と誇り高い人だこと。こちらとしてはマナックを作ってくれているだけでも恩を感じるくらいなんだがな。
「山崎さんには魔王を倒して欲しいですからね、必要なものがあるなら遠慮なく言ってください」
「ありがとう。必要なときはそうさせてもらうわ──」
そう言ってセフティーホームに入った。
「モニス。ゴブリン以外の魔物とかいたか?」
「いない。エクセリアが暴れて逃げたんだろう。あれは、バケモノだ」
巨人からバケモノと認定されるエクセリアさん。魔王と戦う人の仲間じゃなければビビっていただろうが、魔王と戦えているのだから安心しかないよ。山崎さんはエクセリアさん以上に強いってことなんだからな。
「マリンとカレンに見張りを任せるから酒を飲んでいいぞ。なに飲む? ホームから持ってくるぞ」
「あ、そうか。それはありがたい。仲間の手前、そんなに飲めないからな」
ゴルグもだが、ロンレアにやってきたのは出稼ぎだ。ゴブリンを駆除した報酬は仲間たちのために使うからと、必要品以外は貯めているそうだ。
「今日はビールかな? 汗もかいたしな」
「モニスは?」
「わたしはワインをくれ。白な」
「了解。すぐに持ってくるよ」
オレは麦焼酎って気分だな。ロックで飲むとしよう。
たまには……でもないが、仲間たちと酒を飲むのは楽しいもの。オレは飲ミニケーションが好きなんだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます