第787話 ゴールにしてスタート地点
時間があると言うので、ミリエルと情報交換をした。
「ロンレアには二人の駆除員がいたのか」
教会は駆除員の能力で作ったものだとはわかっていたが、まさか城も駆除員の能力で作られたものだとは思わなかった。
「はい。教会は五百年前。お城は六百年の駆除員だったようです」
百年毎に異世界人を送り込んでいるのは確定として、場所も目的があって決めていることが濃厚になってきたな……。
「百年毎に異世界人を送り込んでおきながら五年としないで死んでいるんだから選択を間違えているよな、あの女神は」
オレが正しい選択だったとは言わないが、せめて二十年は生きられるだけの才能を持ったヤツを選んで送り込めよ。まるで逐次投入の愚をやっているようにしか思えねーよ。
「でもまあ、失敗例はいくつあっても構わないさ。不運にも死んでしまった先達には申し訳ないがな」
失敗したには失敗するなりの原因があったってことだ。なら、その無念をオレが活かさせてもらうさ。それが不運にも死んでいった先達たちへの報いってものだ。
「やはり一ヶ所に止まるような駆除は命を早めるだけ、と言うことですね」
「ああ。止まっていては攻めることも逃げることもできない。攻めることも逃げることもできるだけの生存圏を築くことだ。まあ、広げすぎても失敗の元となるがな」
自分の能力に適した生存圏で生きていく。そして、それ以外には請負員を送り込む体制を調えていく。それがベストだとオレは思うのだ。
「コラウスは守るべき拠点。アシッカは中間点。ロンレアは最前線。五年以内に強固なものとする」
それがオレが目指すゴール地点であり、本当のスタート地点でもある。
「そう言えば、伯爵に子供はいないのか?」
「います。グロゴールがやってくる前に王都に出たそうです。生きているなら三十二歳だそうです」
オレと同年代か。生きていてくれるといいんだがな。
「誰か王都に送り込むか?」
「そうですね。ロンドク様と相談してみます」
「そうしてくれ。あと、守りが必要ないのならマーダたちをこちらに寄越してくれ。巨人も連れてエクセリアさんのところに向かってみるよ。あ、マリンとカレンもな」
「わかりました」
「そうそう。農業をしたことがあるヤツを探して寄越してくれ。ミサロに預けて豆でも植えさせるよ」
「ミサロ、すっかり農業に嵌まっているみたいですね」
「そうだな。ミリエルも暇があったらガレージのものを触ってくれな。雷牙にも伝えてあるが、ミジャーが現れたらそうもいかなくなるしな」
「ミジャーが現れた気配はあるんですか?」
「ライダンドには現れ始めているそうだ。もうそろそろだろうよ」
心配と言えば心配だが、カインゼルさんやマルデガルさんがいる。コラウスも領主代理の支配下に入っている。横槍が入らない限り甚大な被害にはならないはずだ。
「今年中に豆と芋が収穫できればコラウスにも送れる。仮に甚大な被害が出ても食料さえ見せれば人々の希望となる。オレたちはロンレアに集中するとしよう」
「はい。タカトさんは内陸部に集中してください。今海を見るとプレクシックが転移されてしまうので」
そういやそうだった。オレがトリガーとか迷惑な話だぜ。
「了解。海を見るときはミリエルに伝えるよ。あ、ラダリオンをそちらに向かわせるか。ラダリオンの腕なら海の魔物が顔を出したとき狙撃とかできそうだしな」
ラダリオンは銃弾をばら撒いているイメージが強いが、あれでいて狙撃も上手かったりする。千メートル以内なら百発百中だろうよ。
「それはいいですね。陸に上がってくる魔物もいるそうなので」
そんなのまでいんだ。異世界の海、コエー! まあ、巨人になったラダリオンが対物ライフルを撃つとか魔物のほうがコエーよ! って感じか。
「じゃあ、ラダリオンをそちらに向かわせるよ」
「わかりました」
装備をつけて外に出た。
「ミサロ!」
止まることを知らないミサロをなんとか呼び止め、城下町からくる者に豆蒔きをさせるようにお願いした。
「イチゴを護衛に出す。肌の色で侮辱されたらイチゴに排除させろ」
「大丈夫よ。肌の色をなんと言われても気にしないわ」
「ダメだ。それを許したら他の種族にも示しがつかない。ゴブリンを駆除してなんだが、種族で差をつけるわけにはいかない。その地で暮らす者は等しく領民として扱わせる。それはロンレアの伯爵にも飲ませる」
譲れないことは絶対に譲らない。それは領主代理にも言ったし、アシッカの伯爵にも言い含めた。これが飲めないってんなら病気になってもらうさ。
「……わかったわ。タカトの言うとおりにするわ」
「それでいい。なにかあればすぐにホームに逃げろよ」
「ええ、わかっているわ」
「うん。安全第一、命大事にだ」
ホームに入り、イチゴにミサロを第一に守れと厳命してから外に連れ出した。
「耕すのはほどほどにしろよ」
放っておくとロンレア中を耕しそうなミサロに注意し、軽油が入ったドラム缶を出したら巨人のところに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます