第786話 クロニクスの木 *95000匹突破*

 やはり機械は偉大である。


 人力なら何十日とかかるところを数時間で耕してしまった。


「オレ、農業に向いてんじゃね?」


 なんて自画自賛したくなるほど綺麗に耕すことが出来た。まあ、こっからどうすればいいかわからんけどね!


「豆って適当に蒔いていいのか?」


 下手にオレがやるよりミサロに任せるか。


 タイミングよくルースカルガンが降りてきたので、発着場に向かい、一号艇のヤツらに農業ができるドワーフを連れてきてもらうようお願いした。


 ミロイド砦の開拓もあるだろうが、ドワーフがロンレアの農地を耕すならミロイドにも回す理由になる。今のうちに入植させておこう。


 トラクターの場所に戻ると、ミサロとエクセリアさんがいた。


「もう終わったのか?」


「ええ。当分のものは渡したわ」


「このお礼はゴブリンを駆除することで返すわ」


「それはありがたいですが、山崎さんのほうはいいんですか?」


「大丈夫よ。わたしの娘を残してきたからね」


 娘? この人、娘いる歳なんかい! って表情は出しません。ミシニーで学んだからな。


「そうですか。なら、あちらのほうにいるゴブリンを駆除してもらえますか? 固まっている気配がするので」


 察知範囲外だが、北西方向からゴブリンの気配が流れてくるのだ。もしかすると集まっているんじゃないか?


「あちらね。わかったわ」


「無理なら速やかに退いてください。請負員にも稼がせてやらないといけないので」


「そうするわ──」


 と、エクセリアさんが消えてしまった。テ、テレポーテーションか!?


「……す、凄いな……」


 ダメ女神もああいう能力をくれたらいいのに。そしたらわざわざ道なんて造ることもないのによ。


 まあ、ないもねだりをしても仕方がないか。どちらにしろ道は必要なんだし、今は空輸ができている。それ以上求めるのは我が儘ってもんだ。


「タカト、トラクターを教えて」


「あ、ああ、わかったよ」


 山崎さんの仲間なら死ぬこともないだろうとミサロにトラクターの扱いを教えた。


 やはり好きなことには驚異的な成長を見せるミサロさん。耕運機も使いこなしているから三十分もしないで覚えてしまった。


 さすがに一人にはできないので見守っていると、報酬が急激に動き出した。


「……一匹一匹倒しているのか……?」


 報酬の上がり方から大量虐殺系の魔法ではなく、一匹一匹倒す系の魔法だ。いったいなんの魔法なんだ?


「もう五十万円突破かよ」


 三十分もしないで三百匹を倒すとか、魔王と戦う人の仲間は非常識だよな。魔王を倒せとか命令されなくてよかった。いや、だからってゴブリンを駆除することに納得できてねーがな!


 ──ピローン!


 ん? もうか。


 ──九万五千匹突破でーす! 大台までもう少し! セフティーブレットよ、ゴブリンを駆逐せよ!


 どこの漫画に影響されてんだよ。駆逐じゃなく駆除だろうが。


 ──あ、その土地にはクロニクスの木が適していますよ。エクセリアが向かったところに生えてますから移すといいですよ。


 クロニクスの木? なんじゃ、それは? と疑問に思っていたらバチン! と映像が頭の中に刻まれた。


 ……な、なに、さらしてんじゃい! クソが……!


 痛みに悶え苦しみながらダメ女神を罵った。


 プレートキャリアからスキットルを出して安ウイスキーを飲んだ。気つけにはこれが一番だぜ。


「ったく。ゴブリンに殺されるよりダメ女神に殺されるほうが先かもしれんな」


 安ウイスキーを飲み干してやっと痛みが消えてくれた。ふー。


「クロニクスの木か」


 頭の中にある木は細い木で、なにか実るのかまったくわからない。オレは植物に強くないんだよ。映像ばかりじゃなくどんなものがの情報を──いや、いらないです。また叩き込まれたら気絶する自信があるわ。


 ホームに入り、シエイラがいつも使っている室を借りて冷たい水を浴びて酔いを冷ました。ふぇっくしょん! 寒っ!


 このまま風邪を引いてベッドに入りたいが、回復薬を飲まされて強引に回復させられるだけだ。


「そう考えると、回復薬ってえげつないよな。休む暇なく働けってことなんだからな」


 シャワー室を出て余市十年のお湯割りを飲んで落ち着いていると、ミリエルが入ってきた。


「あ、タカトさん。エクセリアさんに会いましたか?」


「ああ、会ったよ。今はゴブリン駆除に出てもらっているよ」


「それはよかったです。こちらは新しく伯爵となったロンドク様と城下町の復興に入ります」


「了解。オレはエクセリアさんのところに向かうよ。また女神から変な情報を叩きつけられたからさ」


「ゴブリンのことですか?」


「いや、クロニクスの木ってのがロンレアの地に適したものらしくて、それを運んできて植えようと思ってな」


「クロニクスの木ですか? どんな木なんです?」


「いつもながら肝心な情報は寄越さなかったよ。なのに、女神が言うと無視できないから嫌になる」


 重要なことなのに、肝心なことをなにも伝えないという苛立たさ。血管を切らせにきているとしか思えねーよ。


「そうですか。海は魔物に覆われているのでしばらくロンレアの復興に力を入れたほうがいいですね」


「そうだな。冬になる前には畑を復活させておきたいしな。そうするとしよう」


 ゴブリンはまだまだいる。冬に襲ってこないようできる限り駆除しておくとしよう。

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