第785話 トラクター

 新たな気持ちでロンレアに向かった。


「こっちは曇り空か」


 気温もコラウスより低く、風が吹いているので薄着だったらちょっと寒いかもしれないな。


「この気温ならサツマイモを植えられるか?」


 ミサロの話では夏前に植えるみたいだが、ここの気温ならいけんじゃないか? 元の世界なら五月くらいの気温っぽいし。


 昔、畑だったんだろうな~って感じのところに向かい、土壌酸性計を持ってきて土を計った。


「ちゃんと異世界の土も計れんだな」


 てか、ミサロも元の世界のものを使いこなせるとか頭いいよな。好きなことには異様な成長力を見せるラダリオンタイプだな。


「PH六ね。微酸性って感じか」


 ミサロの話を聞いているとなんとなく学んでしまったよ。


「麦を作ってたからなのかな?」


 休耕地みたいな感じになってたのにPHは変わらんのか? まあ、耕してみて、適当に豆でも植えておくか。


「ラダリオン。ここら辺を適当に掘り返してくれ」


「わかった」


 オレも装備を外し、鍬だけを持って巨人になった。


 今のところ最大、四十分が限界だが、それでもそこそこは掘り返せることかでき、あとラダリオンに任せて耕運機を持ってきた。


 ガソリンがなくなるまで耕すが、まだ土が荒いし、大した広さも耕すこともできなかった。


「家庭菜園用のじゃ仕方がないか」


 てか、よくこんなので耕してたな、ミサロのヤツ。時間かかりすぎだろう。


「ラダリオン! 休憩しよう!」


 未だ元気に鍬を振るうラダリオンに声をかけ、ホームに入った。


「あら、耕してたの?」


 入ってきてオレらを見たミサロが一発でなにをしていたか見抜いた。


「ああ。サツマイモを植えようと思ったが、PHが六あったから豆を植えようと思ってな。だが、耕運機じゃ大した広さも耕すこともできなかったよ」


「じゃあ、トラクターを買いましょうよ」


「トラクター?」


「うん。あれならたくさん耕すことができるわよ」


 トラクターの知識がまるでないので、タブレットでトラクターを調べてみた。


「こんなにすんのか、トラクターって?」


 下手な高級車より高いじゃんか! 百馬力以上のは一千万円もすんじゃねーかよ!


「七十パーセントオフシールならあるわよ」


 完全に買わせるよう攻めてくるミサロさん。まあ、七十パーオフがあるなら問題ないか。クボタ製のロータリーがついたので、一千万円に収まるくらいのを選び、ミサロのゴーが出たら七十パーオフで買うことにした。


 トラクターなんて映像の中でしか知らんから説明書を読むのに夜までかがってしまったが、なんとか理解はできた。


 ミサロもトラクターを覚えたいと言うので、ペンパールを抜けることを伝えさせ、朝にロンレアへダストシュートさせた。


 外に出ると、ピンク髪のエルフがいた。


「山崎さんの仲間でエクセリアさん、ですか?」


 本当にピンク髪なんだ。現実で見るとスゲー髪色だよな。


「ええ。そうよ。あなたがタカトね」


「はい。一ノ瀬孝人です。山崎さんの仲間がきてくれて助かります」


 ロッカーボックスでやり取りするには限界がある。もちろん、便利だからこれからも使うが、やはりセフティーホームに入れる者がいてくれたらさらにやり取りが多くできるしな。


「ミサロ。用意してたものを渡してくれ」


 ミリエルの置き手紙にエクセリアさんが欲しいもの揃えてくれと書いてあった。まあ、まだ用意はしてないが、女性用のものなのでミサロにお願いするとしよう。


「わかったわ。少し待ってて」


 少し離れた場所からホームに入った。


「なにをするの?」


「豆を植えようと思いましてね、この荒れた土地を耕そうと思いまして。石が飛ぶかと思うんで離れててください」


 トラクターを運転するのはこれが初めて。なにが起こるかわからない。離れててもらうとしよう。


 キーを回してエンジンをかけ、スイッチ類の再確認。レバーの確認。左右ブレーキが連結しているのを確認。まあ、ホームから出るときもやったが、初めては緊張するもの。何度再確認したって問題はない。


「副変則、主変則はよし。ロータリーは上げてある。んじゃ、出発」


 いきなり耕すのは怖いので、まずはトラクターの運転に慣れることにする。


「なかなか軽快に走るな」


 映像の中のトラクターはゆっくり田んぼの中を走っていたからスピードが出せないかと思ったが、荒れたところでも四十キロは出せる。揺れは酷いけど。


 ラダリオンが耕したところを走り回り、一時間もすると慣れてきた。


「アハハ! おもしれー!」


 元々車両系は好きだったので、トラクターのおもしろさを理解したら覚えるのも早い。って、遊びすぎた。目的を忘れるんじゃない。


 一旦、トラクターを停め、ロータリーを下げる。


 まだ深く耕すのは怖いので、表面を削るくらいの位置にしてロータリーを回転させた。


「おー! 凄い凄い」


 これはカインゼルさんもやりたくなる楽しさだな。まだ稼げたらカインゼルさんにもプレゼントしてやろう。いつになるかわからんけど。


 さすがに四十キロでは走れないので、まずは五キロくらいで進んでみた。


「ラジカセでも買うんだったな」


 音楽を聴きながらやるのも楽しいかもしれんな。


「余生は農業でもして暮らしたいものだ」


 ゴブリンを駆除する人生より農作業をする人生のほうが何億倍も豊かだぜ。

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