第780話 匂い

 エクセリアさんを連れて城下に向かい、エレルダスさんと合流した。


「ローニクスの子孫ですか。案外、都市間戦争を生き残った都市があるのですね」


 エクセリアさんを見たエレルダスさんが驚いたような顔をした。


「……ローニクスを知っているの……?」


「今のローニクスではなく、五千年前のローニクス都市をね。二度、いったことがあるわ」


 戸惑うエクセリアさんに、エレルダスさんは五千年間地下都市で眠っていたことを説明した。


「……おばあ様から聞いたことがあるわ。ローニクスの祖の話を。太古に栄えた都市の出だと……」


「興味があるなら当時の姿を見せてあげるわ」


 エレルダスさんが生きた時代は都市のほとんどが地下にあったそうよ。


「お願いするわ。もうローニクスの民は滅びかけているから……」


「エルフは種として終わっているからね。次に残りたいのなら人と交わりなさい。下手に種族維持に拘ると滅ぶのが速まるだけよ」


 マイセンズ系のエルフは人間、異世界人と交わることで新たな種となったところがある。エレルダスさんもそれを知って、人間と交わるよう仲間に言っているみたいよ。同種で繁栄するのは無理ってことなのかしらね?


 わたしにはよくわからないけど、タカトさんに害を与えないよう注意するだけ。タカトさんは、誰構わず手を出す人ではないし、持ってしまったら必ず守ろうとする。これ以上、負担になることはわたしたちがさせないわ。


「まあ、話は落ち着いてからにしましょうか。ミリエルさん。食糧が足りないわ。わたしが見た感じだと二千人くらい生き残っているわ」


「わたしもそのくらいだと感じました」


 どこにいたのかわからないくらい人が現れてくる。地下にでも隠れる場所があるのかしら?


「食糧はエクセリアさんが用意してくださるそうです」


「確か、魔王と戦う者の仲間だったわね。あちらは豊かなの?」


「豊かとまでは言えないけど、草原は多いから家畜はたくさんいるわ。魔王軍の一将に獣王バイルグが支配していた地をソレガシが解放したからね、家畜だけは人間より多いわ」


 魔王軍も家畜業とかやるんだ。奪うことで成り立っているのかと思っていたわ。


「麦は足りてない感じ?」


「ええ。でも、芋と豆はたくさん植えたからこちらに回せるわ」


 タカトさんと交渉するためにアイテムバッグに大量に入れてきたそうで、馬車十台分くらいの芋を出してきた。


「まだまだあるわ」


 よくこれだけの量を入れたものだこと。なにか方法はでもあるのかしら?


「五千年前はまだ異空間収納技術は未発達だったのに、まさか魔法で完成させるとは思わなかったわ」


「駆除員の能力だったのではないですか? 駆除員はいろんな能力を与えられて送り込まれているみたいですから」


 血に刻まれているのか、子孫には駆除員に与えられた能力が受け継がれている。エルガゴラさんも付与魔法を受け継いでいるしね。


「そういう考えもできるわね」


「それ故に駆除員を狙うやからが多くて困ります」


 それだけじゃないけど、タカトさんを狙う女の多いこと。タカトさん、そういうの嫌いだっていうのに。


 ……本人、気づいてないことが多いけどね……。


「ふふ。周りが堅いから大丈夫でしょう。本人も呆れるほど堅いですしね」


 女神に縛られたとシエイラは言っていたけど、タカトさんは好みがはっきりしている。いや、好みの匂い、かしらね? 好きじゃない匂いには興味を示さない。シエイラだって最初は見向きもしなかったのに、食生活やお風呂に入るようになってから警戒を緩めたところがある。


 ラダリオンによれば臭いのが嫌いなそうよ。最初の頃はよくお風呂に入れとうるさかったようだからね。


 本当に臭いのが嫌だとしたらよく何年とお風呂に入ってなかったわたしを抱えたものだわ。あのときは本当にごめんなさいよね。


「早くビシャたちと合流しないととは思います」


 あの二人もタカトさんを異性と見ているとこはあるけど、タカトさんはまったく見てない。タカトさんの中では年齢で区別しているからビシャとメビに欲情することは絶対にないわ。


「そう言えば、アルズライズさんたちはいませんでしたね?」


「はい。恐らく別のところで問題に当たっているのでしょう」


 ゴブリンを駆除していれば報酬が入る。それでなければ別の魔物と対峙しているのでしょうよ。別行動したのはビシャとメビを鍛えるためだからね。


「エレルダスさん。芋を配分してください。わたしは、またお城に戻ります。

エクセリアさんもきてください。ロンドク様に紹介したいので」

 

 海の向こうの人で、あちらのことも聞かせてもらいたい。グロゴールがやってくる前は定期船があった。なら、あちらからも食糧を調達できるということ。情報があるならもらいたいわ。


「それはありがたいわ。ロンズ王国から手紙を預かっているのよね。伯爵は病気とかで困っていたのよ」


 エクセリアさんとしてはロンレア伯爵のことはついで。わたしたちと接触することが第一だったのでしょうね。リミット様からロンレアにいればわたしたちがやってくると神託を受けていたんだってさ。


「では、参りましょうか」


 エクセリアさんを連れてお城に上がった。

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