第781話 プロプナス
ロンレア伯爵様は病気と言うより老衰と言った感じだった。
「さすがに人の寿命を延ばすことはできません」
はっきりとロンドク様に告げた。
「……そうか……」
答えたのはベッドで死んだように眠っていたロンレア伯爵様だ。起きていたのね。
「はい。もう長くはありません。なにか残しておきたいのなら今のうちです」
恐らくはっきりしゃべれるのはこれが最後でしょう。最後の命が消える瞬間の一瞬の輝きでしょうね。
「ここにいる者が証人になってくれ。伯爵の位を息子、ロンドクに譲る。あとはお前に任せる」
本当に死ぬ直前とは思えないほどはっきりとした口調だった。
「父上。あとはお任せください。必ずロンレアを復興させてみせます」
ロンドク様の決意に伯爵様は、口角を緩めるだけだった。
脈を測ると、少しずつ弱くなっていき、やがて脈が止まってしまった。本当に人が死ぬときは脈が動かなくなるのね。
「お亡くなりになりました」
わたしは教会の人間ではなく、神に祈るなんてことはしない。なので、タカトさんがときどきやっている手のひらを合わせて死者の冥福を祈った。
今は人もおらず伯爵に相応しい弔いをしている暇もない。薪はたくさん運んできているので、伯爵家専用のお墓がある山頂に運び、そこで燃やした。
籠城している間は薪がないとかで海に流すようにしていたそうだ。そのせいで海の魔物が集まってきたみたいだけど、漁に出ることもないので気にしなかったそうよ。
灰を集め、壺に入れてお墓に入れた。
「女神よ。旅立つ魂をお救いくださり来世に導いてください」
魂の先がどこにいくかわからないけど、神がいるなら輪廻転生とかあるかもしれないとタカトさんが言っていたわ。
「女神の使徒に見送られた父上は救われただろう。感謝する、ミリエル様」
とうとう、ロンドク様にも様付けで呼ばれるようになってしまった。完全に聖女として認定されたようだわ……。
迷惑なことだけど、モリスの民からは姫として見られ、希望の存在として見られている。今さらよね。
「ロンドク様。わたしになんの権限もありませんが、主要な方々に伯爵の位を受け継いだことを知らせることができます。それを手紙にしてしたためてください」
ミヤマラン公爵が認めてくれるならそれだけで正統性は認められるでしょうよ。
「わかった。お願いする」
ロンドク様が去り、わたしは海の向こうにある大陸を見るために端に向かった。
眺めは抜群にいいけど、さすがに向こう側の大陸は見えないわね。
「よく渡ってこれましたね」
エクセリアさんの話では二十から三十キロは離れているとか。そこをどうやって渡ってきたのかしら?
「簡単よ。まず空に転移して滑空。また空に。それを繰り返して渡ったのよ」
案外、脳筋のようね。力技で渡るとか。
「なんだか凄い魔物が住み着いているようですね」
プランデットで眺めていたら島のようなものが浮かんでおり、たくさんある触手がサメを絡め取っている光景が目に入った。
「プロプナスとは。まだ生きていたのね」
口にしたのはエレルダスさんだ。
「なんです、プロプナスって?」
「生体兵器の一つで、拠点防御用に造られたものよ。対魔法能力に優れ、地上にも上がってこれるわ。仮に爆破しても分裂して増殖してしまう、最悪で最強の生体兵器ね」
それはまた厄介なものを造り出してくれる。どうやって倒せと言うよ?
「倒す方法はあるのですか?」
「今の状況では手の出しようもないわ。どこかに移動してくれることを願うしかないわ」
「プレクシックを出したら敵認定されませんか?」
「そうかもしれないわね。あれは敵都市の生体兵器だから。恐らくプレクシックも記憶されているかもしれないわ」
五千年も生きる超生物か。グロゴールが可愛く見えるわね。
「タカトさんと相談してみます。タカトさんならなにか方法を見出だすかもしれませんしね」
過大な期待はよしてくれ! と言いそうだけど、そう言いながら攻略法を見つけるのがタカトさんだからね。
「とりあえず、タカトさんに海を見せないようにして、ロンレアの復興を進めましょう。急げば豆を植えられるでしょうからね」
十年以上、放置していた田畑を蘇らせるには豆を植えたりタラミナ草を植えたりするといいらしい。
「そうね。復興している間に移動してくれたらよし。ダメならタカトさんと相談するとしましょう」
タイムリミットがあるわけでもなし。まずはロンレアが復興して、商売ができるようになってくれないと他の領地をサポートできなくなる。来年には麦を植えれるようにさしたいわ。
「エクセリアさん。ゴブリン駆除をするならタカトさんのほうにいくといいですよ。ロンレア周辺の山を回ってゴブリンを根絶やしにするそうですから」
まだ群れている気配があるそうで、根絶やしにすると言っていたわ。
「では、そうするわ。ソレガシもタカトことを知りたかった様子だからね」
同じ世界からきた人。気になるのは仕方がないわよね。会えないのが可哀想だけど。
「港町の教会か巨人のところにいけば会えると思います」
今はプレシブスを運んでいるはず。そう難しくなく会えるはずだわ。
「ありがとう。では、いってみるわ」
シュッと消えてしまった。
「転移って便利ね」
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