第779話 ピンク髪のエルフ

 ま、まあ、なんと思われようとわたしのやることに変わりはない。タカトさんがきたとき、そのまま受け渡せるように環境を調えるまでよ。


「祈るよりまずロンレアを復興することに力を注いでください。祈るのはすべての力を尽くしてからです。神は己を救う者を救います」


 いい言葉よね。自分の力で生き残ったのに神の手柄となるんだから。


「マリーヌ様。ここをお願いします。わたしは、城下を見てきます。動ける者は城下の復興をお願いします」


 マリンとカレンは、ホームに戻し、ライカを連れて城下に下りた。


 港町外(?)から物資が届いているようで、至るところから煙が上がっており、炊き出ししている匂いが届いた。


 城下を往来する人の顔から絶望はなくなり、希望に満ちた顔になっている。人は未来が見えるとこうも変わるものなのね。


「結構、人がいるわね」

 

 五百人もいればマシだと思っていたけど、この人の往来を見ると、二千人くらいいそうな勢いだ。どうやって食糧を確保していたのかしら? まあ、衣服は足りてないのは感じるけど……。


 歩いてみると城下はかなり広い。端から端まで一キロはあるんじゃないかしら? 畑もそこそこあり、野菜が植えられていた。


 まあ、さすがに麦は植えておらず、芋や豆が主って感じだけど。


「木は完全に伐採されているわね」


 樹齢何十年と思われる木はまったくなく、細い木ばかり。駆除員の遺産があっても二千人もの人間を支えるには十年と保てなかったみたいね。


「アルズライズさんやビシャたちがいないわね?」


 タカトさんの話ではもう到着してても不思議ではないと言っていたのに。どこか別の場所にいったのかしら?


 地上に海に魔物が溢れている。どこかで問題に巻き込まれているのかもしれないわね。


 まっ、あの三人なら心配するだけ無駄ね。一騎当千が三人も集まっているんだから。


 食糧状況や城下の暮らしを端からまで何度も見回っていると、海岸で釣りをしているピンク髪の女性がいた。


「……もしかして……」


 ピンク髪なんて見たこともないし、エルフの髪は金髪だったり青髪だったりする。駆除員の血が混ざっていれば黒髪もあるだろうけど、ピンク髪なんてあり得るのかって色だ。本当に地毛なのかしら?


 声をかけようとしたら海から首の長い竜が現れた。え?


「ミリエル様!」


 カエラの声に我を取り戻し、グロック19を抜いた──が、首の長い竜は一瞬にしてバラバラに。ど、どうやったの?!


 いや、魔力の刃で斬ったのでしょうが、なんのモーションもなかった。普通、あれだけの魔法を発動するときは魔力を高めたり構えたりするもの。わたしだって眠りの魔法を発動させるときは祈るような動作を行う。そのほうが集中できて効果が増すからだ。


 でも、ピンク髪のエルフは、発動するまで自然体だった。魔力の高まりもなかった。目の前に現れた虫を払うかのようだったわ……。


 アイテムバッグでも持っているのか、斬り刻んだ首の長い竜が一瞬にして消えてしまった。ミシニーさん級の大魔法使いだわ。


 ピンク髪のエルフさんがわたしたちに気がつき、こちらを向いた。


「ミリエル様」


 ライカがわたしの前に出るけど、ミシニーさん級の実力者に勝てるわけもなし。いや、わたしの範囲に入れば勝ち目はある。まあ、戦う気はないんだけどね。


 グロック19をホルスターに戻し、ライカにもP90の銃口を下げさせた。


「ヤマザキソレガシさんのお仲間でしょうか? わたしは、ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのミリエルと申します」


 ゆっくり近づいてピンク髪のエルフに尋ねた。


「ええ。ソレガシの仲間でエクセリアよ。やっと会えたわね」


「女神からエクセリア様がロンレアにいるとアナウンスされましたが、どういった理由からですか?」


「ソレガシの世界のものが欲しいからよ。こちらはセフティーホームに入る人数が増えて異世界の品の消費が激しいの。稼ぐためにわたしがきたのよ」


 あちらはホームに入る人数が決められていないとは手紙に書いてあった。何人かまでは書いてなかったけど、こちらも六人で結構かかっている。こちらより多いのなら一千万円なんてすぐなくなっちゃうでしょうよ。


「それではエクセリア様を請負員にします。よろしいですか?」


「ええ、お願いするわ。それと、しばらくあなたたちと行動をともにさせてもらうわ」


「いいのですか? エクセリア様が抜けても」


 魔王軍はまだたくさんいるという。なのに、火力大のエクセリア様が抜けたら戦力が格段と落ちるのでは?


「大丈夫よ。今は国を取り戻したことで国内を固めるために動いているからね」


 タカトさんもだけど人を集めるのが上手い人みたいね。魔王には勝って欲しいからがんばって欲しいものだわ。


「申し訳ないけど、取り急ぎこれをいただけないかしら? 代金として牛肉を用意できるわ」


 アイテムバッグらしきものからブロック肉を取り出した。


「こちらは牛肉、牛乳、チーズの生産地。今も増え続けているわ。どうかしら?」


 リストをもらい中を見ると、女性が使いそうなものばかり。あ、女王陛下も仲間になっているから侍女にも使わしているのね。


「わかりました。取引致しましょう」


 リストを仕舞い、請負員カードをエクセリア様に渡した。

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