第776話 接触

 そう太い木もないので進みは順調だった。


「マスター。十時方向に熱源多数。こちらに向かってきます」


 モニターの十時方向に熱源が多数表示された。


「狼かしら?」


 都市周辺に狼が大量に発生し、巨大な狼が率いていたと報告が上がっていた。


「ロケットランチャーで一掃しますか」


 距離は約五百メートル。固まっててくれるなら都合がいいわ。


「エレルダスさん。十時方向から狼襲来。一掃します。警戒してください」


 外の人たちに警告し、十時方向を向いてロケット弾を全弾放った。


 すぐに次弾を生成するべく魔力を送った。


「確かに魔力がない人では動かせないものだわ」


 感覚的に半分違い魔力を持っていかれた。これでは長時間戦闘なんて無理だ。わたしでも魔石を持っていなかったら三十分も戦えないでしょうよ。


 魔石で魔力を吸収し、カロリーバーを食べ、スポーツ飲料を飲んだ。魔力は補充されるけど、補充するにもエネルギーを消費する。小まめな水分補給とカロリー補給をしないとダメなのよ。


「撃ち漏らしたのが数匹いるわ。各個撃破して」


 機動歩兵の携帯兵器は失われており、今は両手にマチェットを持っているから戦えないのよ。戦うとしても周りに人がいないところじゃないと味方まで殺してしまうわ。


 皆が各個撃破している間にわたしは休憩させてもらう。まだ三割しか移動してないのに魔力を半分失うことしちゃったんだからね。


 モニターを見ながら三十分くらい過ぎると、狼の熱源が0になった。


 ライカやロイズたちにはプランデットをかけさせているから草木に視界を奪われても熱源探知できる。戦いにも慣れたし、そう難しい相手ではないでしょうよ。


「ご苦労様。弾薬の補給をしたら十五分の休憩よ。警戒はわたしがするわ」


 そう無理して急ぐことはない。なんなら途中で一泊したって構わないわ。安全第一、命大事に、だからね。


 とは言え、城下町まで五キロくらいの道のり。小まめに休憩してもお昼前に城下町の前までやってこれたわ。


「凄いものね。確かに外界と遮断されても生き延びただけはあるわ」


 五百年前の駆除員が関わっているからか、難攻不落の要塞って感じがする。斜面には畑もあり、自給自足できる感じだ。


 ただまあ、そう大人数を生かせるほどではない。恐らく千人もいないのじゃないかしら? 下手したら五百人を切っていても不思議じゃないわね。


「本当によく生き延びたと思うわ」


 十年。その重みを知ると奇跡としか思えないわね。それとも特筆したリーダーがいたのかしら?


「エレルダスさん。港町側の草木を焼き払いますね」


 いきなり城下町に入れるとは思わない。マーダさんたちなら城壁くらい簡単に乗り越えるでしょうが、わたしたちでは無理だし、無理に入る必要もない。あちらからしたらわたしたちは謎の集団なんですからね。


 城下町と港町の間にも町はあったそうだけど、十年以上の年月がそれを完全に消しており、今は城下町と港町を遮断する緑の壁となっていた。


 まずはその壁をなきすために火炎放射で薙ぎ払った。


 海から風が吹いてくれているので、煙はすべて山のほうに流れてくれる。


 タカトさんは山火事になっても構わないと言ったけど、ならないで済むならそれに越したことはない。薙ぎ払ったところはライカたちに消火剤を撒いてもらった。


 さすがに一時間以上火炎放射をすると魔力が尽きてきた。


「ここまでにしておきましょう」


 もうちょっとだけど、さすがにこれ以上は無理だ。なにかあるかわからないし、余力は残しておくべきね。


 コネクトを解除して外に出ると、焼けた臭いが充満していた。


「ミリエル様。これを」


 すぐにメーとルーが駆け寄ってきてマスクを渡してくれた。


「ありがとう」


 マスクを受け取り、すぐにかけた。


「ミリエルさん。城下町の門が開きました」


 あら、行動が早いこと。こちらが接触するまで黙りを決め込むと思ったのだけれど、城下町を仕切る人は優秀だけじゃなく決断も早いようね。


「皆を集めて」


「はい」


 煙から逃れていた皆を集め、交渉はロプスさんに任せる。わたしのような小娘では信じてもらえないからね。


 ロプスさんに前に立ってもらい、わたしは横に。ライカ、ロイズたちに左右に立ってもらい、エレルダスさんとマーリャさんは機動歩兵の横にいてもらった。


 城下町からやってきたのは兵士風の男たちで、数は八人。武装はしているけど、こちらと戦う様子は見て取れなかった。


 あちらの代表は五十過ぎくらいの体格のよい男性。カインゼルさんを筋肉盛り盛りにした感じの人ね。


「わたしどもはコラウス辺境伯領の商人、ロプスと申します。失礼ですが、もしかしてロンドク様でしょうか?」


「ああ。ロンドクだ。そなたの顔、うっすらと記憶がある。晩餐会でコラウス辺境伯殿の書状を運んできた者だったな」


「商人の端にいる者の顔を覚えてくださりありがとうございます。とても名誉なことです」


「顔を覚えているだけだ。さすがに名前までは覚えておらん」


「それでも顔を覚えていただき感謝します。十年以上繋がりが途絶えたところとどう接触するか悩んでおりましたから」


「こちらも顔を知る者で助かった。まず、聞かせてくれ。教会に旗を立てたのはそなたらか?」


「はい。正式には、コラウス辺境伯領主代理、ミシャード・ミシャッド様、マレアット・アシッカ伯爵、ミヤマラン公爵の任を受けたタカト・イチノセ様です。わたしたちは先行して参りました」


「ミヤマラン公爵の任を受けただと?」


「はい。それだけの方ということです。あの方がいなければロンレア伯爵領にくることもなかったでしょう」


「英雄でも連れてきたのか?」


「英雄というより救世主といったほうが正しいかもしれませんね。女神様がこの地に遣わせてくださいましたから」


 なんて言われて信じる人なんているのかな? と思ったらロンドク様は驚いた顔を見せた。


「使徒様がご光臨なされたのか!?」


 え?

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