第771話 解放の旗
「タカト様、ようこそいらっしゃいました。そして、ありがとうございます。皆を代表して感謝します」
跪く勢いで感謝する司教さん。人前なんだから止めてよ!
「止めてください! オレは利があるからやっているまで。純粋な気持ちから助けているわけではありません。対等な立場で付き合っていきましょう」
もちろん、対等なんだからどちらかが損する付き合いはしない。そちらが儲けたらこちらにも儲けは渡してもらいます。
「まずは荷物を降ろしてください。必要なものは運んできたので」
ミリエルからアポートウォッチを借りてきたので、トレーラーに載らなかったものを取り寄せた。
「必要な分だけ選んでください。街を取り戻すための武器も取ってください。協力金として金も渡します。冬になる前に隊商がきますからそのときに使ってください」
人がいたことはシエイラからコラウスの商人に伝えてもらった。ミジャーで忙しくなると思うが、ロンレアと繋がったとわかればなにを置いてもやってくるだろうよ。
略奪的なことは起こらず、行儀よく物資を分配している。世紀末的な状況に陥りながら理性的なものだ。
「司教さん。街の生存者はここにいるだけなんですか?」
街は破壊されているところが多々あったが、だからって教会に逃げるヤツばかりじゃないはず。集団を嫌ってはぐれる者はいるはずだ。街の外から三十分はかかった。表示だと二、三マイルは進んだから三キロはあるってことだ。
この教会が街の中央にあるならかなら広大な街となる。それで誰もいなくなるってことあるだろうか?
「いくつかの集団が纏まって生活しております。教会ほどではありませんが、立て籠るに適したところがいくつかありますので」
やはりか。人間とはしぶとい生き物だよ。
「略奪や争いは起きているので?」
「……悲しいことですが……」
まあ、無理もなかろうよ。人間としては至極全うだろよ。逆に、助け合いが起きていたらダメ女神の立場がねーよ。
「司教さん。教会の旗とかありますか?」
「旗ですか? はい。ありますが……」
「解放の日ってことで、教会の旗を立てましょう。それで、他の生き残りも希望が見えることでしょうよ」
「それはいいですな! やりましょう!」
お、乗り気でなにより。
司教さんが皆に声をかけ、他の者も乗り気になってくれ、大事に仕舞っていただろう旗を出してきた。
ポールも大事に仕舞っていたようで、教会のあちらこちらで旗を立てていった。
「中央棟がなくなったのが悔やまれます」
なんでも教会の中央に棟があったらしく、街の至るところから見えていたそうだ。
「では、代わりのものを建てましょうか」
どこまで見えるかわからないが、希望の旗として立てる意味はあるだろう。
今の教会で高いところに案内してもらう。
教会の内部は西洋風の造りで、男女別のトイレやら学校にある水道なんかが備わっていた。
「これ、使えるんですか?」
「いえ、使えません。生きているのは地下の一部だけです」
壊れていたり錆びたりはしていない。女神の力で朽ちないのだろう。それなら動力だって壊れていないはず。燃料が切れて動かないとかか? あのダメ女神なら嫌がらせみたいなことやりそうだ。
とりあえず、高いところに向かい、ホームから単管パイプを運んできた。
「な、なんですか、今のは!?」
「オレは女神にゴブリンを駆除しろと別世界から連れてこられた者です。そんな話、伝わっていませんか?」
しがない司祭だったとしても前の司教から聞いたなり文献があったりするはずだ。でないと、これを五百年も維持するとか無理だろうからな。
「……伝わっております。この教会は女神の使徒が使っていたものだと。あ、あなたも、使徒なんですか……?」
やはり伝わっていか。よく五百年も伝え続けてきたものだ。
「ええ。オレもその一人ですよ。その女神から海を目指せと言われました」
正確には誘導された、だろうな。ったく、いいように手の平で転がしやがって。いつかその手の平に噛みついてやるからな! 覚えておけ!
「……あぁ、女神よ。感謝します……」
感極まる司教さん。あんなダメ女神に感謝する価値もないんだが、夢を見ている者を無理矢理覚ますのも野暮ってもの。好きなだけ感謝しててくださいと単管パイプを組み立てた。
「単管組みも慣れてきたな。足場屋で働けんじゃね?」
ただ、この世界にないのが悲しいことだ。
まだ感極まる司教さんを端に移動させ、巨人になって旗を単管パイプに縛りつけた。
「誰か請負員にして管理させんとな」
十五日後に消えて旗が飛んでいったら大顰蹙ものだ。下手したら教会から恨まれてしまう。ちゃんとした棟が建つまでは請負員にして旗番をやってもらうとしよう。あ、雨降ったらどうしよう?
まあ、そんときはそんとき。今は旗をはためかせて解放のときを実感させてやろう。これから大いに働いてもらわなくちゃならんのだからな。
しばらく風にはためく旗を眺めた。誰か見ているかな~ってな。
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10月に函館旅行しに行ったときに思いついた。旅行はアイデアに満ちている。
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