第770話 五稜郭
完全に暗くなったら安全のために帰ってもらい、朝になったら教会にいくことにした。
次の日の朝、外に出たらダイロスとニックがいた。
「早いな」
「ああ、司教様の指示でな。タカトを迎えにきた」
本当は一介の司祭だったが、上が順番に死んでいって仕方がなく司教になったそうだ。
「それはご苦労さん」
「朝は食ったか? 食ってないのならそこのを食っていいぞ」
大鍋で作ったシチューはすぐに食い尽くされ、四回に渡って作り、五回目に作ったものが余ったはずだ。
「あ、タカトが出てくる前に食わしてもらったよ」
「そうか。足りなかったら持ってくるぞ。今日のために大量に作っておいたからな」
昨日、ガレージで作ったものがある。温めてないが、小鍋に移せばすぐ食べれんだろうよ。
「いや、大丈夫だよ。長いこと食えなかったから大量に食えなくなっているよ」
確かに十年以上、まともに食えない日々だったのだから胃も小さくなっていることだろうよ。この世界にきて、ちゃんと食えているオレは幸せ者だな。ウイスキーも五千円台のを飲めてるしな。
「胃が元気になったら酒を飲ませてやるよ。もう長いこと飲んでないだろう?」
「酒か。もうどんな味をしていたか覚えてもいないよ」
もう酒がない人生なんて考えられない。飲めないとなったら生きる気力が激減するな。
「これからロンレアは復活する。また当たり前のように酒が飲める日がくるさ。それまで死ぬんじゃないぞ」
「そうだな。ここまで生き抜いたんだ、早々死んでられないな」
「その意気だ。んじゃ、教会にいく準備をするよ」
ガレージに準備をしているからこのままいっても構わんのだが、物資があるのを見れば生き残ったヤツらも希望が持てるはず。視覚的効果ってヤツだ。
フォークリフトで荷物を積んだトレーラーを出してきてパイオニア五号に連結させた。
「ラダリオン。留守を頼むな」
もうそろそろ巨人たちがくるはず。ラダリオンにここにいてもらうとしよう。
「わかった」
マリンとカレンを乗せ、ダイロスとニックには先に歩いてもらって教会まで導いてもらった。
街の中にハイリコンダ魔物がいるようだが、まったく姿を見ることなく街の中央にある教会までやってきた。
「……なんかどこかど見たような造りだな……?」
教会は水堀で囲まれており、城の石垣のような造りをしていた。
「あ、五稜郭だ!」
昔、まだ景気がよかった頃にいった社員旅行。函館にいったときに見た五稜郭の造りだぞ、これ!
……また駆除員が関わってんのか……?
こんなのが偶然できるわけもない。元の世界から連れてこられた駆除員が関わっていると見たほうが自然だわ。
「凄いな」
「だろう。五百年も前に造られたってのに、グロゴールの攻撃にも耐えたんだ。神のご加護を宿した教会として有名だったよ」
神のご加護ってヤツほど碌でもないものはないな。オレから言わしてもらえば呪いでしかないよ。
しかし、グロゴールの攻撃にも耐えた、か。五百年前にいた駆除員はどんなチートをもらったんだ? まあ、それで五年も生きられないんだから哀れでしかないよ……。
「で、どうやって入るんだ?」
橋らしきものは見て取れないが?
「こうやってさ」
と、ダイロスが向こうにいるヤツに手を振ると、水堀の中から石橋が浮上してきた。どんな仕組みやねん!
「水堀になにか危険なものでもいるのか?」
「エリカ様がいる」
別に、とか言っちゃう人か?
「教会を守る人魚さ」
「人魚?!」
この世界、人魚までいんのかよ! 命、生みすぎだろう!
「ここの水は海から引いていて、エリカ様が教会の地下に住んでいるのさ。おれたちが生き残れたのはエリカ様が魚を捕ってきてくれたからさ」
それでも教会にいる者のすべての胃を満たすこたとはできなかったようだが、十年以上生き抜けたのはエリカ様のお陰だそうだ。
「エリカ様は一人なのか? 仲間とかは?」
「昔はいたそうだが、今はエリカ様だけだ」
一人なんだ。それは辛かろうよ。オレなら心を病んでいることだ。
石橋が完全に浮上すると、水堀から女性が顔を出した。
……あれがエリカ様か……。
水の中に入っていたのに、なぜか金髪がサラサラとさており、濡れた様子がない。どんな体になってんだ?
エリカ様がこちらを向き、目が合った。
……綺麗な目をしてんな……。
ずっと見ていたらエリカ様が顔を水面に沈めてしまい、尾びれが出て水面を叩いて潜ってしまった。
「マジで人魚なんだな」
空想上の生き物を見てもなんら驚きはない。まあ、これまでたくさんの種族やら魔物、理不尽に遭遇してれば人魚くらいじゃ驚きもなか。
「タカト」
ダイロスに声をかけられ我を取り戻し、アクセルを踏んで石橋を渡った。
石橋はすぐに乾く素材なのか、まったく濡れておらず、苔がついている様子もない。ほんと、五百年前の駆除員はなにを望んだんだ?
城門には生き残りの者たちが集まっており、喜びの表情で迎えてくれている。
……まるで救世主でも迎えるような勢いだな……。
救世主にされるのは面倒だが、この状況は活かさせてもらうよ。
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