第772話 オレたちの仕事
腹が満たされ物資が充実したら人の心にゆとりが生まれるもの。教会に満ちていた絶望の気配も消えたように見えた。
まあ、生産性はないので消費するばかりだが、生きるためには惜しみなく消費するときがあるもの。利益を生む日を夢見てグッと堪えましょう、だ。
文字を書ける者に生き残った者の名簿を作らせ、戦える者を選び出し、さらに覚悟がある者を選び出して自警団を組織した。
「セフティーブレットが自警団の後ろ盾となり法となる。これから街の秩序を回復するために動き、破る者には鉄槌を下す。但し、私利私欲のために鉄槌を下すことは許さない。街を復活するために働いて欲しい」
団員に選んだ者を請負員とし、スコーピオンを持たせた。
ド素人に銃を持たすとか危険など言わないように。ド素人のオレが銃を持って生き抜いてきたんだ、一年使ったオレが教えるだけ遥かにマシってもんだろうが。
一時間の講習のあと、一人ずつ付き添って五発撃たせる。
十五人いるから一日かかったが、かけた成果はあった。てか、司教さんからオレが使徒だと伝わったせいか、なんか自分たちは選ばれた的? 感じを持ったらしく、やる気マックスで覚えてしまったよ。
なんか変な組織を生んでしまったような気がしないでもないが、未来に責任を負えるほど長生きではない。悪いことしたらエレルダスさんに排除してくれるようお願いしておこう。
五人一組になってもらい、まずは教会と城門──西門までの道を確保するために往復してもらうことにした。
ちなみにダイロスとニックの兄弟はセフティーブレットがいただきました。ロンレア支部の支部長と副支部に任命です。
教会正面は破壊されたり朽ちたりしていたので、煉瓦造りのまだ使えそうな家を司教さんの名で接収してもらいました。ビバ権力!
兄弟には妹もいたので、職員兼受付嬢として働いてもらい、人を集めてもらって家の掃除をお願いした。
「タカト」
支部の壁を直していると、ロイスたちがやってきた。
「ご苦労さん。結構時間がかかったな」
「途中でバカデカい狼が率いる群れに襲われてな、しつこくて倒すのに手間取ったよ」
「怪我人は?」
「軽傷者は出たが、重傷者は出なかったよ」
モニス辺りが活躍したんだろうよ。巨大な狼と対峙できるのはモニスくらいだしな。
「魔石なんかはラダリオンに渡しておいたよ。毛皮は巨人たちが使うそうだ」
狼の毛皮か。それは頭になかったな。次はちゃんと確保しておくとしよう。
「ロイス、まだ街の記憶はあるか?」
「ああ。細かい道とかは記憶にもないが、大通り沿いなら覚えているぞ」
「じゃあ、街を探索してきてくれ。いくつか生き残りがいて徒党を組んでいるらしい。話の通じないゴブリンなら殺して構わない。こっちには司教がついているから罪にはならんから」
教会はこちらについたと断言してもいい。仮にロンレア伯爵が敵に回ろうと壊滅した伯爵に教会を敵にすることはできないだろうさ。
「わかった。任せてくれ」
「寝泊まりする場所も見つけてくれ。接収許可は司教からもらっている。なんならロンダグ男爵家の持ち物として構わないぞ。往来が増えればロンダグ男爵家の価値も上がる。もしかしたらアシッカ伯爵の代理としてロンレア伯爵と会うかもしれない。今のうちに人を集めておくのもいいかもな」
世紀末的環境で生き残ったヤツらに人間性を求めるのは愚の骨頂だが、中には理性的なヤツもいるはず。そういうヤツを引き込むと一大勢力を築けるだろうよ。
「ゴブリンはさっさと殺しておけ。次の時代に不要だ」
世紀末的環境で生き抜いたことは賞賛する。だが、時代が変われば害悪でしかない。次の時代を生きられない者は去るか排除するしかないのだ。
……オレも排除されないよう気をつけようっと……。
「お前は、常に前を見ているな」
「過去には戻れないからな」
別に前向きってわけじゃない。死への恐怖からだ。オレはまだ死にたくないんだよ。なら、未来に希望を持つしかないじゃないか。今を生きる者に明日は明るいと信じる必要があるんだ。オレが生きるためにもな。
「未来を潰すゴブリンは駆除しろ。それがオレの仕事だ」
「皆がお前を信じる理由がよくわかったよ。明日が楽しみだ」
明日が楽しみか。そうだな。今日を精一杯生きて、楽しい明日にするとしよう。
「じゃあ、街の探索にいってくるよ」
「ああ、気をつけてな」
ロイスたちが出ていったらオレも西門に向かう準備をする。
「ダイロス。夜は気をつけろよ。下の命はお前にかかっているんだからな」
安全な教会から危険な街に出た。武器は強力でもそれを使うのは人だ。少しの油断が命取り。そうならないようにするのがダイロスの役目だ。
「わかっているさ。ここまで生きたんだ、嫁をもらって子供をたくさん産んでもらうさ」
「いい目標だ。結婚式には呼んでくれ。祝儀は弾ませてもらうからよ」
「あはは。そんときは頼むよ」
こういうヤツはモテる。そう遠くない日に結婚しそうだから羨ましいよ。
「じゃあ、あとは頼むよ」
マリンとカレンを乗せ、西門に向かった。
───────────────────
2024年1月1日 今年もよろしくです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます