第768話 生存者

 朝、外に出たらいい感じに焼け野原となっていた。


「いい感じに乾燥しているし、周辺を燃やすか」


 ここからなら街まで四キロくらい。ルースカルガンの発着場にするにはちょうどいいだろう。なだらかな土地だしな。


 機動歩兵G兵器をホームから引っ張り出し、コネクトして乗り込んだ。


 魔力は満タンなので火炎放射もよく吹き出てくれる。ラダリオン。風が吹いて燃え移ったらすぐに消してちょうだいな。


「お、熊までいんのかよ!?」


 灰色の熊が炎に驚いて逃げていった。


「完全に野生の王国になってんな」


 必死に生きているところ申し訳ないが、ここは人間に返してもらうよ。君たちは山奥で生きてくれ。


 火炎放射しながら街道を進むと、人の骨が大量に転がっていた。


「……大量殺戮って感じの転がり方じゃないな。バラバラすぎる。なにがあったんだ……?」


 変な病気が蔓延したか? それだと諦めざるを得なくなるな。


「とりあえず、燃やしておくか」


 もう病原菌は死んでいるだろうが、念のため消毒しておこう。燃え上がれ!


 運よく風がないので遠慮なく燃やし尽くし、お昼には城門のところまでやってこれた。


 城門は堅く閉じており、何年と開いた形跡はない。マーダたちはもう中に入ったのかな?


「ラダリオン。扉を開けてくれ」


「壊していいの?」


「構わんよ。壊してしまえ」


 しばらくは巨人にいてもらうんだから門がなくても問題ないだろう。復興するにしてもこんな朽ちた状態では使い物にならんからな。


 ホームからバールを持ってきて扉の隙間に突き立て、ゴリゴリと捩じ込んで門を破壊した。


 年月に負けたのかラダリオンの力に負けたのか、城門扉としては役目をこれにて終了。これまでお勤めご苦労様です。


「ラダリオン。城門前を掃いてくれ」


 扉を開けたものの、いきなり入ることはしない。巨人たちがくるまではここで待つことにする。


 ホームからパイオニア五号とキャンプ用品を運び出し、テントやタープを立てた。


 それが終わればコネクトして別の場所を火炎放射して自然に還った大地を焦土化させた。


 なんだか巨○兵になった気分を味わっていると、大きな川に出た。


「こんなでっかい川があったんだ」


 向こう岸まで軽く五十メートルはありそうだ。


「川にも魔物とかいるんだろうか?」


 土手の上でしばらく川面を眺めていたが、魚が跳ねるくらいで魔物らしき生物は現れなかった。


「マスター。九時方向に熱源。熱量からして人間です」


 ぼんやり眺めていたらG子(AIのコネクトのことね。新たに名づけました)が声を発した。


 そちらを向き、プランデットでその熱源を探った。


「確かにいるな。二人か」


 コネクトを解除して外に出る。


「オレはアシッカからきた冒険者だ! あんたらはロンレアの者か!」


 こんなところまでくる冒険者がいたら銀か金の冒険者だろう。だが、そうでなければロンレアの者だ。いや、ロンレアの生き残りのはずだ。


 しばらく待つが隠れている二人は出てくる様子はなかった。これまでの過酷な暮らしが警戒心を強くしているんだろう。


「オレらは城門前で野営している。気が向いたらきてくれ。食料くらいなら分けてやるから」


 そう告げてコネクトしようとしたら一人が出てきた。


「マリン、カレン、手を出すなよ」


 オレ、そんなこと見せてないのに草むらに隠れる二人に注意した。


 出てきた男が驚くも逃げることはせず、警戒しながら近づいてきた。


「オレは孝人。冒険者でありゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターでもある。アシッカ伯爵の依頼でロンレアにやってきた」


「ほ、本当にアシッカからきたのか?」


 男は四十過ぎくらい中年で、冒険者のような身なりと小剣を装備させていた。


 ……いつでも逃げられるような感じだな……。


「ああ。と言っても証拠らしい証拠は持ってないがな。本当はコラウス辺境伯領の冒険者だ。コラウス辺境伯領は知っているか?」


「いや、わからない。アシッカは辛うじて知っているくらいだ」


「もしかして、結構若かったりするのか?」


「二十八だ」


 二十八なんかい! 見た目、完全に四十代だよ!


「じゃあ、グロゴールが襲ってきたときはまだ十代か。ちなみにオレは三十一な」


「見た目が若い割りに貫禄があると思ったら年上だったのか……」


 オレ、貫禄あるんだ。そんなこと初めて言われたよ。


「まあ、そう歳が離れているわけじゃないんだ、畏まるのは止めてくれよ。面倒だからよ」


 オレは基本、先輩扱いされたり敬われたりするの苦手なんだよ。そんな大した人間じゃないんだからよ。


「ああ、わかったよ」


「あんた、名前は?」


「ダイロスだ。弟と食料調達をしている。ニック、出てこい」


 そう呼ぶと、二十歳前半くらいの男が出てきた。


 ……ダイロスが老けてんだな……。


「二人で食料調達を?」


「ああ。食料調達は男の仕事だからな」


 ほとんど石器時代の暮らしをしているみたいだな。魔物天国じゃ無理もないけどよ。


「とりあえず、城門前まで移動しよう。食料なら分けてやる。ロンレアのことも聞きたいからな」


 せっかくの情報源。飯でも食わせて詳しく聞かせてもらうとしよう。

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