第763話 うっきうき *94000匹突破*
結局、察知範囲にいるゴブリンはエルガゴラさんが駆除してしまった。
「なんだかな~」
ってのが素直な気持ちだった。
「エルガゴラさん。それでは、マリンとカレンの学習になりませんよ。てか、魔法を覚えさせたほうがいいんじゃないですか?」
「それは以前にやった」
ん? 以前に? なんか長いこと考えていたようなこと言ってませんでした?
「銃が手に入ったからな、銃を装備したメイドにしたい」
なんの拘りだ? とか突っ込みたいが、人の拘りなんて人それぞれ。他者がどうこう言うべきじゃない。オレだってウイスキーなんてどれも同じでしょう、とか言われるし。いや、ウイスキーはロマンでできてんだよ! なんて叫べたらどんなにいいか。毎日ウイスキーを飲めるようになりたいよ……。
「でも、そうしたらゴブリンの報酬は入りませんよ」
あくまでもメイドゴーレム(?)は請負員じゃないし。
──ピローン!
ん? なんか嫌な予感が……。
──九万四千匹突破だー! やるね、駆除員の子孫くん! よし! 君にだけゴーレムを武器と見なしましょう。どんどんゴブリンを駆除してくださいな!
なんか、うっきうきだったな。ん? 君だけ? と、エルガゴラさんを見たらこっちもうっきうきだった。ま、まさか、エルガゴラさんにも聞こえるようアナウンスしたのか?
「……い、今のが、め、女神様か……」
やはりエルガゴラさんにも聞こえるように、いや、エルガゴラさんに向けて言ったのか。
「す、素晴らしい! 女神様の声を聞こえる日がこようとは夢にも思わなかったぞ!」
なにが素晴らしいんだろう? この世で一番下らねー存在であり、聞きたくもないアナウンスなのに。
まあ、好みも人それぞれ。信仰も人それぞれ。オレがどうこう言う資格はないさ。ダメ女神の声が聞こえてよかったね、だ。
「孝人、あれが女神セフティー様なんだな!」
「ええ。オレや死んでいった駆除員をこの世界に連れてきた存在です」
元凶と言い捨ててやりたいが、使徒って立場と見られている状況ではダメ女神をクソ女神とは言えないよ。信じている者の信仰心を侮辱するようなもんだからな。
……心の中ではいつだって罵詈雑言さ……♥
エルガゴラさんが夢の中から帰ってくるのを缶コーヒーを飲みながら待ち、帰ってきたら少し早めに昼飯にした。まだ興奮しているエルガゴラさんを連れて歩くのは危険だからな。
「興奮して悪かった。まさか女神様の声が聞ける日がくるとは思わなかったのでな」
「お気になさらず。相手が相手ですしね」
この世界に連れてきたのがリミット様だったらもうちょっと尊敬はできたのだが、こちらの意思などフル無視。断る権限はないときやがった。これで尊敬できたり信仰心を持てるヤツがいたら見てみたいもんだよ。
「どうします? オレらとこのまま同行しますか? それとも別れてやりますか? ちなみにオレらはまずグロゴールの巣に向かったら海を目指すのを優先します。ゴブリン駆除を続けたいのならあちらの方角にゴブリンの群れがいる気配がしますよ」
結構、固まっている気配がする。首長が纏める群れがいるんじゃないかな?
「うーん。そうだな……」
まあ、オレはどちらでも構わない。山を歩くだけでも訓練になるからな。
「よし。別れて駆除しよう。他のメイドも作りたいが、マリンとカレンをまず完成させたいからな」
「なら、弾を渡しますよ。弾は安く買っているから使ってください」
弾はオフパーシールを使ってパレット買いしている。管理も大変だし、古いものは使ってもらうとしよう。
「助かる。ありがたくいただくよ」
ホームに入り、二千発くらい作業鞄に詰め込んだ。重っ!
持ち上げるのが大変なので数回に分けて外に運んだ。
「いいところで海を目指してくださいね」
「ああ。ロンレアには三年くらいいたから迷うことはないさ」
百年も生きているといろんなところにいってんだな。羨ましいよ。
「他に必要なものはありますか? 遠慮なく言ってくださいね」
「大丈夫だ。快適に野宿できるテントもあるしな。欲しければ自分で稼いで買うよ」
前世の知識とオタク魂があると長生きできるのかね? どうやったらオタク魂を持てるんだろうな? いや、エルガゴラさんみたいなオタク魂はいらんけどよ。
「じゃあ、わしはいくよ。マリンとカレンは連れてってくれ。孝人の命令を聞くよう付与を施してあるから」
付与魔法、どんだけ汎用性に満ちてんだよ? なんでもありすぎんだろう。
「お気をつけて」
「そっちもな。まだまだ頼みたいことがあるんだから死ぬんじゃないぞ」
オレの命はオタクにも必要とされるらしい。まあ、それで生きられるのなら本望ってものだ。
「ラダリオン。オレたちもいくか」
「うん」
装備の確認をしたら皆の気配を目指して歩き出した。
エルガゴラさんがゴブリンを根絶やしにした余波か、草食系の魔物にも会うこともない。楽ではいいが、本当に山歩きになっちゃったな。
それでも警戒は怠らず進み、陽が暮れる前にミリエルたちと合流できた。ふー。
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