第762話 マリンとカレン

 次の日、ラダリオンとともにミリエルたちを追って出発した──ら、エルガゴラさんもついてきた。もちろん、等身大のフィギュア素体(メイド)二体を連れて……。


「それ、役に立つんですか?」


「マリンとカレンだ」


 ………………。


 …………。


 ……。


「マリンとカレンは役に立つんですか?」


 湧き出る感情を圧し殺して尋ね返した。


「役に立つのかだと? ふふ。この日のために考えに考えたわしの思いの結晶。見せてやろうじゃないか。マリン、カレン。孝人に自己紹介だ」


 はいと返事するマリンとカレン。どちらも違う声だった。


「初めまして、一ノ瀬孝人様。マリンと申します」


「初めまして、一ノ瀬孝人様。カレンと申します」


 スカートの裾をつかんでちょこんとお辞儀した。


 ………………。


 …………。


 ……。


「これはご丁寧に。よろしく頼むよ」


 なんだろう、この精神力が削れていくような錯覚は? まるでヌイグルミと話しているところを親に見られたような恥ずかしさに死にそうになるよ。いや、やったことないけどっ!


「まあ、まだ人間のように汎用性はないが、それも学習していくさ。孝人からもらったマギャ石は飛○石の代用品みたいなものだ」


 うん。深く追及しちゃダメなヤツだ。サラッと流しておこう。


「そうですか。に──二人は戦闘もできるんですか?」


「まだ持ったり走ったりはできるが、まだ戦闘は無理だな。だが、学習はできるぞ」


 アレな代用品たるマギャ石があるからですね。了解です。


「マリンを孝人に。カレンはラダリオンにつけさせてくれ。お前たちの動きを学習して成長するから」


「この二人を進化させたのがイチゴってわけですか」


「アレには夢も希望もないな」


 そりゃ戦闘用ですからね。夢も希望も持たせちゃダメでしょう。一切の情を廃しての殺戮マシーンなんだからさ。


「わしのメイドゴーレムには夢と希望しか詰まってないぞ」


 もっと大事なものを詰めて欲しいもんだが、マリンもカレンもエルガゴラさんの所有物。天元突破してようとオレが口出すことじゃないさ。アハハ。


「まあ、後ろから撃たれないのなら構いませんよ」


「その辺は安心しろ。ロボット三原則は付与してある」


 ロボット三原則? なんやそれ? いや、別に知りたいとも思わんけどさ。


「なら、銃を持たせますね」


 マリンにはオレと同じ最初に買ったAUGを渡し、カレンにはラダリオンが使っているSCAR-Lの換えを渡した。


「アイテムバッグはないからチェストリグを装備させますね」


 そこまで戦闘をさせるつもりはない。チェストリグで構わんだろうと、オレの換えを装備させた。


「おー。似合うじゃないか。戦闘メイドも作るか」


 夢も希望もなかったんじゃなかったですっけ? いや、この人なら夢と希望を詰め込みそうだけどよ……。


「じゃあ、ゴブリンを駆除しながら進みますね」


 ミリエルの報告ではまだグロゴールの巣周辺を探っているようだ。なんでも海の魔物の骨以外に水の魔石も落ちていたそうなので集めてもらっているのだ。結構ありそうなので、そう急ぐこともないので、ゴブリンを駆除しながら進むことにしたのだ。


 メイド姿の女がついてくることに戸惑うが、イチゴがついてきているものだと自分を言い聞かせてゴブリンの気配を探り、ラダリオンと協力して駆除していった。


「エルガゴラさん、大丈夫ですか?」


 道なき道を進んでいる。年配のエルガゴラさんはついてこられるかと声をかけた。


「なに、見た目は老人だが、エルフの血のお陰で二十代の体力を持っている。それに、五十歳までは冒険者として生き、金印までなった。五十年くらいブランクはあるが、このくらいで音は上げんよ」


 き、金印だったんかい! いや、駆除員の子孫なら不思議じゃないか。マルデガルさんも現役金印なんだから。


「それならエルガゴラさんもゴブリン駆除をやりますか? 結構生き残りがいるので稼げますよ」


 要塞に巣くっていたゴブリンかまではわからんが、察知範囲内に五百匹はいる。さすがにすべてを相手できない。やると言うならエルガゴラさんにも参加してもらうとしよう。


「そうだな。マリンとカレンの具合を見ていたいが、まだ学習段階。見ていなくてもいいかもな。よし。やるか」


 と、弓を出現させた。


「弓を使うんですか?」


 見た目は指輪物語に出てきそうな魔法使いスタイルなのに。あの魔法使い、名前なんて言ったっけ? 


「隠れているゴブリンには弓が最適だ」


 弦を引くと、そこに魔法の矢が創り出され、なぜか上に向けた。なに?


 しばらく空を見上げていると、なにかを感じたように目をすぼめ、弦を放した。


 魔法の矢が空に飛んでいくと、空中で爆発。幾条もの光となって飛んでいった。


 なんだ? と見上げていると、報酬が一気に十八万円プラスされた。ふぅは?


「よし!」


 満足気なエルガゴラさんの声に、やっとゴブリンを一掃する魔法であることを理解した。

 

「……で、出鱈目すぎません……?」


 一撃(?)で百数十匹倒したことになるぞ。


「これでも結構集中する技だぞ。連続で五発も射てば疲労困憊だ」


 それだって出鱈目すぎだ。軽機関銃で一掃したって百数十匹は倒せんわ。

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