第759話 グロゴール討伐 3

 *エレルダス*


「見事なものですね」


 すべてがタカトさんの思惑通りに動いているわ。


 時々、あの人は予知でもできるのではないかと錯覚させられそうになる。どこまで見通しているのでしょうね。


 獣人たちによる追い立て。怒ったグロゴールを巨人たちの前まで誘導。三方から攻撃を加え、狙ったかのようにわたしたちの前に引き釣り出した。


 言葉にすれば簡単だけど、それを実行するには緻密な計画が必要となる。連携が必要となる。なのに、タカトさんは大まかな作戦を説明するだけ。こうきたらこう動け。あとは臨機応変に動いて構わない。


 雑すぎる作戦なのに、なぜかピタリと当て嵌まっている。これは、作戦が雑なのではなく、獣人の特性を知り、統率力を知り、自分の立場、獣人の事情を把握しているからできたことなんでしょう。


 獣人は立場が低い。人間からは獣と同等と見られている。地位向上を図るならタカトさんの側にいることが最良でしょう。


 タカトさんもそれを知るから獣人の矜持や名誉を上手く利用している。まあ、そのせいで自分自身を傷つけているところもあるけどね。


 巨人も同じだ。繁栄していた時代もあったが、その巨体と技術力で早々に過ぎ去ってしまった。今や滅亡一歩手前。タカトさんが現れなければ百年としないで滅んでいることでしょう。


 巨人たちもそれを肌で感じていたからこそタカトさんに従っている。命を懸けている。果敢にグロゴールと戦っている。そのすべてをタカトさんは利用している。


 もちろん、その流れにはわたしたちも含められている。


「……見事を通り越して怖くなるわね……」


 参加する種族に戦いを用意し、活躍の場を与える。連携と合同。種族間差別をなくしつつ種族間同調をこなす。最悪すら利用する計算高さ。


「英雄どころか救世主の域だわ」


 本人は激しく否定するでしょうが、救世主として遣わされたと見るべきでしょう。


 わたしたちが生きた時代から女神は異世界人を連れてきている。


 あの頃は考えもつかなかったけど、もしかすると女神はゴブリン駆除を名目に多種族世界を構築しようとしているのではないかしら? 


 一種族では限界があり、どれもが滅んでいる。一種族でも滅びているのに複数いるなんて無理どころか無謀にも思える。けど、タカトさんを見ているとそれが無謀と思えなくなってくるわ。


 どれもわたしの勝手な妄想だ。真実は眼しか知らない。だが、事実はこうして目の前にあった。


「ヤカルスク! いくぞ!」


 一号艇を操るラオルスが抜群のタイミングでグロゴールの前に現れ、急旋回で艇尾を見せた。


 ルースカルガンに攻撃力はない。ただの輸送艇なのだから。だが、昔の駆除員が残したパージパールのお陰で攻撃艇となった。


 まあ、人力で撃つので攻撃艇は言いすぎでしょうが、パージパールは戦艦の装甲すら撃ち破る。高々、大きいだけの魔物に防ぐ術なし。


 眉間に当たり、止まることなく貫いた。


「よく残っていたものだわ」


 わたしたちが眠る少し前に都市間条約で禁止となった兵器だ。すべて廃棄にしたはずなのにどうやって残ったのかしら? 女神がなにかしたのかしらね?


 そんな疑念が浮かぶくらいのものなのよ、パージパールと言う兵器は……。


「わたしたちで倒せてよかったです」


 タカトさんは、わたしたちが逃がした場合に備えて後方に配置している。グロゴールくらい敵ではないってことがよくわかるわ。


 別にわたしたちが参加しなくても倒せたことでしょうに、わたしたちの存在意義を知らしめるためにわざわざ参加させた。その思惑に応えられてなによりだわ。


「皆、ご苦労様。わたしたちの仕事は終わりよ。ラオルス。コラウスに帰りましょう」


 やるべきことをやった。タカトさんはそれで満足でしょうし、わたしたちも役目が果たせて満足だ。もう名誉も誇りもわたしたちには必要ない。これからはこの時代を生きる者として役目を果たしていくだけだわ。


「ラー」


 あとはラオルスに任せ、椅子に座った。


「エレルダス様。わたしもタカトに着いていってよろしいでしょうか?」


 格納庫から戻ってきたヤカルスクがそんなことを口にした。


「感化されたのかしら?」


 ヤカルスクはこの時代に合った性格をしている。ただ荷物を運ぶだけでは物足りないのでしょうね。


「ズルいぞ、ヤカルスク」


「次は譲るから先にいかせろ」


 まったく、もう一人いたわね。この時代に合った性格をした者が……。


「いいでしょう。どちらにしろプレクシックが転移されたら動かす者が必要ですからね」


「ありがとうございます!」


 まったく、若いとは羨ましい限りね。わたしもあと百年若ければヤカルスクのように冒険に出てみたかったわ。


「いけないわね。考えが年寄り臭くなっているわ」


 わたしはまだ二百代。年寄りと呼ばれるにはまだまだ先だわ。首府長なんてやっていたから年寄り臭くなるのよ。もう滅亡を食い止めるだけの人生ではない。繁栄するために生きるのだから年相応にならないとね。


「……なにか言いたそうね、マーリャ……?」


 言いたいことがあるならはっきり言っていいのよ?


「い、いえ、なんでもありません」


 そそくさと逃げ出すマーリャ。若い子は何を考えているかわからないわ。


「そう」


 短く返事をして顔の筋肉を揉み解した。帰ったらパックしないと。

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