第758話 グロゴール討伐 2
*ゴルグ*
「……始まったか……」
RPG-7の爆発がここまで聞こえてきた。
ゴブリンとは違い、今回は町をいくつも滅ぼしたバケモノだ。金印の冒険者やサイルス様たちが連携し、タカトがバカをしてやっと倒したものだ。
タカトにあんなこと言ってしまったが、おれたちにそんなもんを倒せるのか?
おれたち巨人はデカいだけの種族。ニャーダ族のように闘争心はない。自ら戦うことはしない。そのせいか、ずっと昔から人間に使われてきた。
別にそれが屈辱ってことはなかった。お伽噺では人間のように巨大な都市を築いていたってことだが、ご先祖様がコラウスに住み着いたときはもう三十人もいなかったってことだ。
幸い、そんときの領主様がわかる人だったらしく、巨人を迎え入れてくれ、今の数まで増えることができた。
だが、今の領主様はダメだ。巨人のことなんてなんも考えてない。いや、自分の領地すら見てない領主だ。領主代理様がいてくれなきゃおれたちの暮らしは貧していただろうよ。
言ってはならないとわかってはいるが、領主代理様が領主様になってくれたらな~と、酒の席で何度か出たこともあった。
だが、おれたちにどうこうできる力もなければどうにかしようとする意志もなかった。ただ、流されるままに生きるだけだった。
そんなとき出会ったのがタカトだ。
巨人の少女と旅をする黒髪の人間。最初は変わったヤツらとしか思わなかったが、タカトはおれたちの生活を一変させた。
精巧な道具、美味い酒、安い布、おれたちの生活を豊かにしてくれた。
タカトもラダリオンのことがあっておれたちに取り入っているんだろうと考えていたが、タカトたちと過ごすようになって、いろんな種族を受け入れるようになって、タカトが女神の使徒だと知って、タカトの価値が高まるにつれ、おれたちに必要な存在だと理解した。
おれたち巨人がこの世界で生きていくために女神様がタカトを遣わせてくれたのだ。
なんて、タカトを知らないヤツらはそう思っているだろう。
あいつはそんなヤツじゃない。ただ、女神に強制されてこの世界に連れてこられた普通の男だ。
英雄みたいなことをやっているが、それは自分とラダリオンたちを守るため。そうしないと生きられないからやっているまでだ。
今まで育った環境も価値観も違う。種族もサイズも違う。だが、一人の男として気持ちいいヤツである。同年代の友として気が合うヤツなのだ。
これはおれたち巨人のためでもあるが、一人の友として死なせたくない。あいつが死んだら酒が不味くなる。
「ダン。そう緊張するな」
おれたちを仕切るのがダンだ。
この中で正式にセフティーブレットの職員はダンだけであり、タカトにリーダーを任された者だ。
まあ、ダンはまだ若い。下っぱだったヤツに十数人の年上を指揮しろってのがメチャクチャなんだがな。
「おれたちはグロゴールを痛めつけること。無理に倒すことはないんだ。お前はやれることをやれ」
「そうだぞ。お前はこれからのヤツなんだ、失敗を恐れんな。細かいことはおれらで支えてやっからよ」
「ドンといけばいいんだよ」
他のヤツらもわかっている。タカトの側にダンがいる意味を。いや、セフティーブレットの中に巨人がいる意味をな。
タカトはおれらを仲間と見てくれるが、ゴブリン駆除と言う女神様の大役を仰せつかってない。巨人族が輪から外されているってことだ。
これから巨人族の立場を確立させるためには誰かがセフティーブレットに入らなくちゃならん。
おれもセフティーブレットの一員みたいなところはあるが、おれはいい年齢だ。家庭もある。とてもじゃないが、あっちにこっちにと動けない。息子もまだ小さいから連れ回すこともできない。
他のヤツも同じだ。家庭を蔑ろにしてあっちにこっちにと動くわけにはいかない。今回は、巨人の生存圏を増やすために多くの者が参加したのだ。
血が濃くなると早死にしたり病気を持ったりして種として滅ぶだけだ。血を広げるためにもおれたちは広がらないとダメなんだ。
ダメとわかっていてもおれたちだけで動くことはできない。人間が同行してくれ、その先で食料を調達してくれないとダメだ。
タカトと一緒ならそれが解決するばかりか、新たな土地を与えてくれた。暮らせるように物資を運んでくれる。こんな機会は二度とないだろう。
おれら巨人が生きるためには誰かがタカトの下に入り、欠かせない立場にならないとダメなのだ。
「今はまだなにもできなくてもいい。少しずつ経験していけばいいんだ。お前の失敗はおれらが補う。間違ってもいいから毅然と振る舞え。お前は女神様の弾丸なんだからな」
セフティーブレットとは女神の弾丸って意味らしい。つまり、女神様の敵を撃ち払えってことだ。
「お前は女神様の使徒たるタカトに認められた男だ。セフティーブレットの名を汚すな」
ダンの背中を叩くと、閃光弾がいくつも上がった。それは、おれの出番だってことだ。
「──い、いくぞ! 巨人族の力を見せてやれ!」
ダンのかけ声に、おう! と応えて駆け出した。
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