第757話 グロゴール討伐 1
*マーダ*
グロゴール討伐計画がタカトから説明され、第一陣としておれたちニャーダ族が命じられた。
作戦は簡単。グロゴールを翻弄して怒らせる。もし、可能なら倒しても構わない。だが、固執はするな。余力は残しておけ。順番が回ってきたときのために。
確かに簡単だが、血の気が多いヤツらを纏めるのは難しい限りだ。おれの力量を問われているようで胃が痛くなるぜ。
だが、やらねばならない。これは、ニャーダ族、いや、引いては獣人としての立場を確立するための戦いでもあるんだからな。
「何度でも言うぞ。これは狩りだ。セフティーブレットと言う群れで行う狩りだ。誰かが一番を目指すものではない。一人一人の仕事を確実にこなせ。名誉は仕事を果たしてこそだ。一人の身勝手がニャーダ族全体の悪評となる。そして、これはタカトを勝たせるものだ。絶対に死なせるな。だが、自分たちの命も守れ。生きて勝つことがニャーダ族の名誉だ」
これはニャーダ族の力をタカトに示すものだが、そのタカトが死んではもともこうもない。いや、タカトが死んでしまえばニャーダ族の未来もなくなる。また獣に戻ってしまうのだ。それはもうニャーダ族の死だ。それだけは絶対、阻止しなければならないのだ。
「もちろんだ。タカトの下でニャーダ族を繁栄させるために、必ず仕事をまっとうするさ」
ジャーズの言葉に全員が頷いた。
「マリューシャ。お前たちは不満だろうが、これは、ニャーダ族は獣ではないと示す戦いでもある。タカトもおれたちを人と見ている。人として動けよ」
ミヤマランに捕まっていた者も何人か参加している。これまでのゴブリン駆除で野外での戦闘には慣れただろうが、今回の敵は強大だ。慣れてなければ足手まといになる。今回は強大魔物に慣れてもらう。タカトといればこんなことまたやってくるんだからな。
「わかっている。今回はマーダたちに学ばせてもらうよ」
さすがあの環境で生き抜いてきた女だ。タカトを狙っているのは止めて欲しいがな……。
「RPG-7とグレネードランチャーは覚えたか?」
タカトから貸し出された強力な武器だ。マイセンズで戦ったときにも有効だったそうだ。もちろん、当たれば、だがな。
「ああ。試し撃ちはしたかったがな」
「それは仕方がない。グロゴールにバレたらもともこうもないからな。ぶっつけ本番でいくぞ。グレネードランチャー班はどうだ?」
六連撃ちのグレネードランチャーはおれも使ったことがある。撃つだけなら子供にもできるものだ。
「問題ない。試し撃ちはさせてもらったからな」
機動力があるヤツはグレネードランチャーを持ち、狙うのが得意なヤツがRPG-7を持たせてある。
「必要なら武器は捨てても構わないと言われているが、無駄に捨てることは許さんからな。ゴブリン百から二百匹はするものなんだから」
おれたちにすればゴブリンなど百も二百も余裕だが、一人でゴブリンを狩る大変さは知っている。早々捨ててはいられない。捨てるのは一目散に逃げるときだ。
「グレネードランチャー隊はマリューシャに任せる。囮みたいな形になるが、機動力が優れてないとグロゴールは翻弄できない。不満なら代えるぞ」
「いや、やる。与えられた仕事だからな」
奴隷として長く生きた割に仕事には忠実だ。タカトに言って活躍の場を作ってもらわないといかんな。おれたちと差別されていると思われたらニャーダ族が纏まりないと思われてしまう。
「もう一度確認だ。使い方を頭に入れておけよ」
おれもタカトから借りたリンクスの扱い方を体に覚え込ませないとな。おれもRPG-7を撃つ者のサポートと指揮をしなくちゃならない。
……まったく、上に立つことがこんなにもどかしいものだとは思わなかったぜ……。
指揮官クラスを育てているタカトの気持ちがよくわかる。あれやこれやとおれの仕事が増えて前線に立てなくなってくる。おれはタカトほど上に立つ才がないってのによ。
だが、そんな顔や態度は見せられない。仲間を鼓舞するためには自信に満ちた顔をして、勝てる雰囲気を与えなくてはならないのだ。
タカトは弱くてもいざってときの腹の据わりようが違う。体を震わせていても勝つ意気込みや確信が見て取れた。
だからこそタカトを信じられるし、死なせてはならないと思わせるのだ。
「よし。準備が整ったら出発するぞ。合図を忘れるなよ」
おれたちはあまりプランデットを使えない。設定してくれたら使えはするが、数もないのでチームのリーダーにだけかけさせ、あとは笛で合図をすることにしたのだ。笛での狩りはよくやっていたからな。
参加する者らを集め、円陣を組む。いつもタカトがやっていることをおれたちもやることにしたのだ。
「おれらタカトの牙であり爪である。相手がなんであれ牙を剥き、爪を立てろ。おれたちは神に選らばれし守護の獣人だ」
おうっ! と皆が吠えた。
「いくぞ! おれたちの力を見せつけるぞ!」
グロゴールがいる巣に向かって駆け出した。
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