第753話 ミジャーの影 *91000匹突破*

 なんだかんだとオレたちはキャンプ地に止まっていた。


 なぜかって言えば大雨となってしまったからだ。いや、今年は雨が少ないんじゃなかったの?


 ──ピローン!


 ん? どこかでゴブリンが溢れてんのか? あ、報酬が爆上がりしてる。二日酔いでゲロってたからわからんかったわ。


 ──九万一千匹突破でーす! ペンパール組もがんばってて偉い偉い。あ、その雨は季節外れの台風が原因ね。これから内陸部は雨が降らなくなるでしょう。ミジャーも爆増中。麦が食べられてますね。まったく、気候管理は難しいわ~。


 なんだか不穏しかない言葉を吐きやがる。まあ、ダメ女神から不穏なことしか聞いてねーけどな!


「……ペンパールか……」


 まあ、あちらにはミシニーがいてロンダリオさんたちもいる。万単位でも問題ないだろうよ。


 這うようにホームに入り、回復薬中を飲んだ。


「どうしたの?」


 回復したとは言え、半日以上ゲロっていたから体力が落ちている。玄関先でラダリオンの菓子を食っていたらシエイラがホームに入ってきた。


「腹が減ったからラダリオンの菓子をつまみ食いしてた」


「またラダリオンに怒られるわよ」


 ちゃんと買い足しておきますから大丈夫です。

 

「ミサロは?」


「またペンパールに向かったわ。なんだかでぃーなんとかに目覚めたみたいよ」


「DIY──日曜大工な。ミサロはなにかを作るのが本当に好きヤツだよ」


 オレは必要なら買う派だから自分で作る楽しさはよくわからんわ。


「あ、女神からのアナウンスでミジャーが増えるそうだ。雨も降らなくなるから水を溜めておくよう領主代理に伝えてくれ」


「……とうとうくるのね……」


「なに、そう心配するな。これはチャンスなんだから」


 ミジャーが襲来してコラウスが貧すれば王都にいるコラウス伯爵に金を送れない理由ができる。それでも送れとコラウス伯爵が戻ってくるならさらに好都合。病気にして隔離してやればいいさ。


「ほんと、悪辣なんだから」


「悪辣で結構。シエイラたちが笑っていられるなら大多数の憎しみだって喜んで受け止めるさ」


 本当に守るべき者がいたらそれでいい。この世界にオレと繋がる者はシエイラたちしかいないんだからな……。


「もー! そういうところよ!」


 なぜか怒られてしまい、なぜかキスされてしまった。情緒不安定か。いや、口を濯いでからでよかった。菓子の味はしそうだけど……。


「……ミジャーのこと知らせてくるわ」


 名残惜しいが、オレものんびりしていられない。リヤカーに弾薬を積み込んでいると、ミサロが入ってきた。


「あ、ちょうどよかった。ゴブリンの巣を見つけたの。今、皆で襲撃しているわ」


「ご苦労さん。女神からのアナウンスで聞いたよ。弾薬は用意したが、他になにか必要なものはあるか?」


「巣が洞窟だからEARがいいって言われたわ」


「洞窟か。それは厄介だな。ルンは多めに持っていくといい」


 長時間潜るなら常にシールドを展開するはず。ルンはたくさんあったほうがいいだろう。


「空のヤツ、山崎さんに充填してもらわんといかんな」


 定期的にルンを充填してもらっているが、使用頻度が高くて追いついてないんだよな。


 空になったルンを集めてボックスロッカーに入れようと開いたら、革袋と手紙が入っていた。なんだ?


 革袋は金貨が詰まっており、手紙には仲間がそちらにいくので金を渡して欲しいとのことだった。


「ピンク髪のエルフのことか?」


 さらに読むと、その仲間をオレの側に置いて欲しいとのこと。なんでも元の世界のものが欲しいからゴブリン駆除で稼がせてもらいたいそうだ。


 必要なものなら代価として渡すのに、と思うが、ボックスロッカーは小さい。大量にやり取りはできないのだから仲間を一人寄越すほうが早いのかもしれないな。


「でも、海を渡った向こうの大陸にいるのにどうやってくるんだ? 船か?」


 ロンレア伯爵領が壊滅したのに船なんて往来できるんだろうか? グロゴールが出てから海の魔物もよく出るとアルズライズは言ってたが。


「まあ、ダメ女神もいるようなこと言ってたし、どうにか渡ってきたんだろうよ」


 山崎さんのことも聞きたいし、やってくるってんなら大歓迎だ。ってことを手紙にしてルンとゴブリン王の魔石を入れて閉めた。


「──タカト!」


 と、雷牙がホームに入ってきた。


「お疲れさん。どうかしたか?」


「輸送部からの連絡でミジャーがライダンド伯爵領に出たって!」


「やっぱりあちらから流れてくるか」


 萬田光一さんの時代もライダンド伯爵領から流れてきた感じだった。


「水筒をライダンド伯爵に届けるようシエイラか輸送部の誰かに伝えてくれ」


 セフティーホーム連動型の水筒を雷牙に渡した。焼け石に水だが、ないよりはマシだろう。


「わかった!」


 元気に返事してホームを出ていく雷牙に笑みが溢れてしまう。雷牙がいるとこちらまで元気になれるな……。


「さて。オレはオレのやるべきことをやりますかね」


 コラウスはカインゼンルさんに任したし、ペンパールはミサロに任せた。オレは海を目指すことに集中するとしよう。


 まずはさっぱりするかとユニットバスに向かった。

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