第747話 ホグルスゴブリン軍 *86000匹突破*

 なんだかんだとその日はそこで野営をすることにした。


「……こんなことをずっと続けているんだな……」


 夕飯の席でロイスがそんなことを呟いた。どうしたん?


「いや、あれだけの数と戦って、こうも平然といられるのはずっと続けていたということだろう。アシッカにくる前から」


「そうだな。この世界に連れてこられて八万匹ものゴブリンを駆除してきたよ」


 オレが別の世界からダメ女神に連れてこられたってことは耳にしているだろう。もう大魔法使いがーって設定もどっかにいってしまったよ。


「まあ、何千人とこの世界に連れてこれた駆除員の中でオレはまだまだの存在だがな。一番ゴブリンを駆除した者は一国巻き込んで何百万匹も倒したよ」


「……一国を巻き込んで? とんでもないな……」


「そうしないといけなかったみたいだな。それ故にゴブリンは見つけた側から駆除しないといけない。最悪に見舞われないようにな」


 海までの間には万単位のゴブリンがいるだろう。時間をかけても駆除していく。それを怠れば背後から襲われる恐れがあるのだからな。


「細かい問題を疎かにすると、その先にある大事に対処できなくなる。だから些細な群れでも見逃すことはできない。問題は簡単なうちに片付けておくものだ」


 ハインリッヒの法則とか工場作業員のとき教えられたっけ。重大事故の背後には細かい事故がたくさん隠れているってな。


「ロイスはアシッカを支える一人になるだろう。小さな火種は消えることもあれば大火となるときもある。それを見逃さないのが上に立つ者の責務だ」


 伯爵はまだ若くてなかなか回りに目を向けるのは無理だろうが、ロイスくらいの年齢なら回りに目を向けられるだろう。その素質もありそうだからな。伯爵の右腕として育ってもらうとしよう。


 なるべくロイスと親交を深めていくことを心がけて四日。特異種たるホグルスゴブリンが率いる赤肌ゴブリン軍団が現れた。


「ニンゲン、コロセ」


 しゃべるゴブリンがいるってことは王がいるってことだろう。


「お前が死ね」


 リンクスを構えていたラダリオンがホグルスゴブリンの顔を吹き飛ばした。


「残念だったな。そこはラダリオンの領域なんだよ」


 てか、巨人がこれだけいるんだから奇襲とかなに考えてんだ? バカなのか? 数で押し切れると思ったのか?


「殺れ!」


 オレの号令で皆が一斉に撃ち出した。

 

 ロイスたちもゴブリン駆除に慣れてきたので、安く買えたストアーAUGA1を貸し出した。


 AUGっていいよな。バレルが簡単に交換できるからコストがいいよ。値段も十二万円だから十二分に採算が取れるわ。


 巨人による散弾タイフーンでゴブリンどもが肉片と変わっていく。魔石集めとかもう面倒臭くなって集めてません。


 巨人たちの弾が切れたらラダリオンとモニスに突っ込んでもらい、オレとロイスたちで撃ち漏らしたものに止めを刺して回った。


 あれ? なんだか初心に返ってなくね? とは思ったが、止めを刺して回るのも一苦労だ。今はこれで体と精神を鍛えることにしよう。


 ──ピローン!

 

 あ、ちなみに八万二千から八万五千匹まで大したアナウンスでもなかったので流させてもらいました。


 ──八万六千匹突破! この先の町に王がいるからがんばってね~!


 何匹いるかくらい教えていけや。まあ、何匹いようと駆除するんだけどよ。


「ダン! 片付けを頼む!」


 そう言ってホームからブラックリンを引っ張り出してきた。


「ラダリオン。この先に王がいるらしい。ちょっと偵察してくる。警戒しててくれ」


「わかった。なにかあったらすぐ逃げてよ」


「ああ。無謀に突っ込んだりしないさ」


 ブラックリンに跨がり、空に舞った。


 上空三百メートルくらいまで上がら、自動操縦にして進んだ。


 しばらく飛ぶと、要塞みたいな建物が見えた。


「あれがブランジック要塞か」


 何百年か前に造られたこの国の要塞で、かなりの数の人が住んでいたそうだ。


 だが、グロゴール襲撃以降、往来が途絶え、やがて立ち行かなくて住民は逃げ去ったそうだ。 


「それでゴブリンに住み着かれたら堪ったもんじゃないな」


 ここからでもゴブリンが埋め尽くしているのがわかる。ざっと五千か六千匹はいそうだな。


「いつも思うが、こいつらなに食って生きてんだろうな?」


 田畑を耕すこともせず、狩りをするにも限界がある。自給自足するにしてもなにか主食となれる食い物がないと滅ぶだろう。


 まあ、なにを食っていようと死ぬ運命の害獣。どうでもいいわ。


 空を旋回して要塞の状態や周辺の情報を集めて戻った。


「よかった。またトラブルに巻き込まれているのかと思った。」


 戻ったらラダリオンに安堵されてしまった。さすがにそう何度もトラブルに巻き込まれないよ、と言えないのが悲しいところ。今回は運がよかった──いや、もうトラブルに巻き込まれているってことか? それは勘弁して欲しいんだけど!


「ま、まあ、とりあえず、要塞を攻める作戦を考えるとしよう」


 要塞一つ簡単に潰せるが、巨人やニャーダ族、ロイスたちに稼がせてやらないといかん。安全確実に駆除できる作戦を考えるとしよう。

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