第748話 コネクト

 ──変身ベルト。


 数百年前の駆除員が持ち込んだチートだ。


 危険に満ちた異世界になにを持っていけると考えたとき、変身ベルトを選ぶのもわからないではないが、オレは絶対に選ばないものだな。


 仮面なライダーに興味がなかったってのもあるが、あんな見た目がこの世界で受け入れられるわけないし、駆除ばかりやっていられるわけがない。町に変身後の姿で入ったら兵士が団体で集まってくるわ。


 戦闘に特化したものは戦闘にしか役に立たないってこと。日常ではなんの役にも立たないってことだ。


 孤高にゴブリンを駆除するならいいが、そんなストイックにやれるヤツはそうはいないし、サバイバルを続けられるわけがない。絶対、人と関わらないといけない。そんなとき、変身ベルトはなんの役にも立たないどころか邪魔でしかない。


 特化が悪いとは言わないが、特化を活かし切れなければ宝の持ち腐れ。足枷にしかならないだろう。


 この変身ベルトを選んだ駆除員も戦闘以外で死んだんだろうよ。でなければ変身ベルトが残っているわけがないからな。


「てか、残るようにしてたらダメだろう」


 ダメ女神らしいと言えばらしいが、ゴブリン側に利用されてはイカンだろうがよ。


 そんなことを考えて、どんな仮面なライダーなんやとライダー図鑑を買って調べたら、どれ一つ当て嵌めるものがなかった。


「著作権に配慮したのか?」


 異世界でも守るべきものがあるんだろうかとベルトを腰につけてみた。


 誰も見てないとは言え、三十過ぎの男が変身ベルトをつけるってのは恥ずかしいものである。これ、人前で変身するとか拷問だろう。恥ずかしくて死ねるわ。


 ベルトは仮面なライダーのものとしか見ないが、なぜかG-KONEKUTOって刻まれたボタンがあった。


 それを押すと、なにかワープしたみたいなエフェクトが起こった。え?


「ど、どこだ?」


 エフェクトが消えると、なんだかコクピットみたいな場所に座っていた。


「新たなマスターですか?」


 と、どこからか女性の声がした。だ、誰よ!?


「わたしは、コネクト。機動歩兵G型兵器とマスターを繋ぐ者です」


 き、機動歩兵G兵器? なんだ、それは?


「オレは、一ノ瀬孝人。女神によりゴブリン駆除をしろと命令されて異世界に連れてこられた、と言ってわかるか?」


「わかります。わたしを創造したのは女神リミットですから」


 リミット様?! 山崎さんに魔王軍を倒せと言っている女神様が!? なんでだよ??


「機動歩兵G兵器を簡単に説明すれば、このコクピットから外にいるGを操作します。正面パネルの赤いスイッチを押してください」


 言われるがままに赤いスイッチを押した。


 すると周囲が光り、岩壁が映し出された。なんだ?


「機動歩兵G兵器はペンパールの一室に格納されています」


 ペンパール? そんな話、リン・グーから聞いてないぞ。


「両手で操縦玉を握ってください。マスターに機動歩兵G兵器の情報をマスターにインストールします」


 インストール? え? ちょっ、ま──!


 止める暇なくいろんな情報が頭に入ってきた。


 また頭が──ってことにはならなかった。結構凄い情報量だったが……。


「ど、どうなってんだ?」


「マスター。魔力が低下しています。供給してください」


「え、あ、ああ、魔力な」


 操縦玉を握り、自身の魔力を放った。


 この機動歩兵G兵器、搭乗者の魔力がエネルギー源。搭乗者の魔力が少ないと動かせない難兵器だ。


 五割の魔力を籠めてやっと二十パーセントに届くかどうか。こんなのを選んだ駆除員が長生きできないのもよくわかるってものだ。


「初代マスターが何年生きたかわかるか?」


「約三ヶ月です」


 まあ、がんばったほうだな。


 竜の血を浴び、魔力増幅の腕輪をしても二十パーセントしか籠められないのなら初代さんは満タンにするまで数十日はかかるだろう。仮に二十パーセント籠めても稼働時間は十分ていど。とてもゴブリン駆除なんてできたもんじゃないわ。


「水の魔石を手に入れる理由がまた一つ増えたな」


 相性と言うものがあるのか、他の魔石からでは魔力を吸うことができない。まあ、まったくってわけじゃないが、割に合わないと感じてしまうのだ。


 機動歩兵G兵器を使うような状況になるなんて早々ないので、一日の終わりに魔力を籠めていきながら自己修復させ、要塞を襲撃する前日に完全修復させられた。


 襲撃の日は少し曇り空ではあるが、雨が降るような雲ではない。人工衛星から送られてくる情報でも雨が降る確率は低かった。降らないとみていいだろう。


「体調の悪い者は?」


 今日のために昨日は一日休みにしたが、体調はいつ悪くなるかわからない。万全でなければ参加は見合わせてもらう。


 全員を見回すが、声を挙げる者はいなかった。


「じゃあ、もう一度作戦の確認だ」


 作戦と言ってもそう難しくはない。囲い込んで攻めるだけ。ただ、お互いの位置を把握して、同士討ちしないよう気をつけてもらうために意識してもらうためにやるのだ。


「一匹も逃がすな。根絶やしにしろ」


 叫ぶとゴブリンに勘づかれてしまうので、頷きで応えてもらった。


「よし、作戦開始だ」


 それぞれの位置に配置するために動き出した。

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