第746話 前哨戦

 こうして道なき道を進んでいると、この世界に連れてこられたときを思い出すよ。


 いやまあ、あまりいい思い出ではないが、あの頃の苦しみが今のオレを築いてくれた。これからも忘れずに前に進むとしよう。


 先を歩くラダリオンはあの頃から全然変わっていない。ついていくのがやっとだぜ。


「タカト! 前方にモクダン! 数、八以上!」


 モグタン? 未来からピンクの獣でもやってきたのか?


「迎え撃つぞ」


 熱源反応がまっすぐこちらに向かっている。これは、完全に標的とされた動きだ。


 AUGを構え、ラダリオンに注意しながら引き金を引いた。


 反動はVHS-2やX95と大して変わらない。ただ、引き金が違うので戸惑うな。単発で撃つときは引き金は半分くらいで、連射のときは最後まで引かないとならない。


 まあ、ラダリオンと二人なので構わず連射で撃ち、空にしたマガジンはアイテムバッグに入れる。


「モグタンじゃなくモクダンだったな」


 猪の顔を持つ人型の魔物だ。久しぶりに見たよ。


「これならタボール7のほうがよかったな」


 なんて思いながらも冷静に撃てるんだからオレも成長したってことだ。モクダンごときではパニックになったりはしない。冷静に襲いくるモクダンを撃っていった。


 半分以上、ラダリオンの活躍でモクダンは沈黙。息のあるヤツの頭に止めを撃ち込んでやった。


「ラダリオン。オレが血を抜く。見張りを頼む」


 そして、ゴブリン以外のスプラッタにも慣れたものだ。干からびた胸を裂いてもリバースしなくなったよ。


「そう言えば、モクダンの魔石は紫だったな」


 確か、力の魔石だっけか? 身体を強化するものだったはずだ。


 ウエスで拭いてアイテムバッグに仕舞った。


「ラダリオン。モクダンの脚を切り落としてくれ」


 干からびた状態だからバデット化しても脅威とはならんだろうが、念のためだ。切り落としておくとしよう。


「わかった」


 サクッと脚を切り落とし、遠くに投げておく。


「んじゃ、いくか」


 方位磁石で方角を確認したら出発する──が、すぐにゴブリンの気配を察知した。


「ラダリオン、ゴブリンだ。数は数百。ダンたちのところに導くぞ」


 ロケット花火を出して三発空に打ち上げた。


 ダンたちは道を整備しながらなので、ややオレたちの後方になる。充分聞こえるはずだ。


 ホームから処理肉を運んできて周辺にばら撒き、臭いを立たせるために火を焚いて処理肉をぶっ込んだ。


「──ラダリオン、ゴブリンが動いた! 処理肉をばら撒きながらダンたちのところに向かうぞ!」


「わかった!」


 処理肉をばら撒きながら後退していくと、数百匹もの気配が切り替わった。


「狂乱化した! 走るぞ!」


 完全にこっちにロックオン。狂ったように走り出した。


 こちらもダンたちのところまで全力疾走。久しぶりで横っ腹が痛い。ほんと、少し動かないとすぐ鈍るよ。


「ゴブリンがくる! 迎え撃つ準備をしろ! ダンチームは防衛! モニスチームは遊撃! マーダたちは迂回して背後から襲え! ロイスたちは後詰めとして後方待機だ!」


 巨人の前に立つなど自殺するようなもの。大人しく後ろで待機してましょうだ。


「数は約四百! 稼ぎ時だ! 駆除しまくれ!」


「やるぞ!」


 ダンも興奮しているのか、大声を出した。


「まだ撃つなよ! もっと引きつけろ!」


 どこかでゴブリン駆除でもしたのか意外にも冷静なダン。誰か先生でもしたのか?


「ロイス! 耳を塞いでおけよ!」


 オレもプランデットを外し、首にかけているイヤーマフをかけた。


「──撃てぇぇぇっ!」


 二十以上ものショットガンが火を吹いた。


 イヤーマフの限界を超えた音に思わずイヤーマフごしに耳を塞いでしまった。


 ……ゴブリンが冷静さを取り戻しそうな爆音だな……。


 だが、耳を塞ぐこともできなかった哀れなゴブリンども。腰を抜かしたのや耳を押さえて踞るのやが阿鼻叫喚。もう音響兵器だな。


 巨人耳は頑丈なようで撃つことを止めない。玉が尽きないよう交互に弾込めをしながらゴブリンをなぶり殺し。二十分近く銃音を轟かせた。


「ショットガンの手入れと弾の補給だ」


 モニスのほうはまだ駆除を続けているようで銃撃音が今もしていた。


「ロイス! 生き残りを始末しろ!」


 この惨状で生きているのがいるか疑問ではあるが、そこを生き抜くのがゴブリンである。最後まで手を抜くことは許されないのだ。


「ラダリオン。体格のいいのから魔石を取るぞ」


 数が多くて食料は少ないようだが、何十年と生きたような体格のが何十匹といた。それはラダリオンに任せ、オレはマナ・イーターを抜いて小さいのを刺していった。


「ゴルグ! 少し休んだら穴を掘ってくれ!」


「ハァー。忙しくて堪らんな」


「文句を言うな! まだまだ忙しくなるんだからよ!」


 これは前哨戦。この先には何万ものゴブリンと王がいるのだ、これくらいで嘆いていたら本番のときは大号泣するぞ。


「だからきたくなかったんだよ」


 文句を言いながらも背負っている折り畳みスコップを外し、職人同士で声をかけあって穴を掘り出した。


 オレもスピードアップして死んだゴブリンから魔力を吸い回った。

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