第745話 ロイス・ロンダグ
昼飯を男爵の家でいただき、食休みしていると、ロイスさんが戻ってきた。
なんでもロイスさん宅は少し離れた場所にあるそうだ。この家は寄り合い所的な場所に使われたりもするから男爵も住んでないんだってさ。
「妻のラシアと息子のラジアとコルカだ」
「ラシアと申します」
「ラジアです」
「コルカです」
なんとも礼儀正しいご一家だこと。男爵の教育か?
「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスター、一ノ瀬孝人です」
横にいるビシャの肩に手を乗せて自己紹介を促した。これから礼儀ってものを教えていかなくちゃならないからな。
「セフティーブレットの一員でビシャって言います。見ての通り、獣人です」
「オレの補佐として同行させています」
「すまないな。タカトに家族を紹介したくて連れてきてしまった」
まあ、お近づきになりたいから連れてきたんだろう。そこんところは貴族だよな。
「ラシア様。しばらくロイス様をお借りします。必ず生きて帰すのでご安心してください」
「いえ、男爵家の男として赴くのです。それで死ぬなら旦那様に才がなかったということ。タカト様が気に病むことはありません」
なんとも漢らしい考えをする奥さんだこと。
「ラシアはミントンカの女なのだ」
あー。道理で。ミントンカ男爵んところの女性は勇ましかったもんな。あれは血なんだ。
「ミントンカ男爵様の娘さんなので?」
「はい。父がお世話になったと手紙に書いておりました」
あー似てる~! とはならんが、そう言われると雰囲気が似ているように思えてきたよ。
「お世話になっているのはこちらのほうです。手隙なときに城へお越しください。伯爵夫人の話し相手になってくださると助かります。わたしの仲間が側にいますが、常に側にはいられません。女性にしかわからないこと、伯爵夫人に教えて差し上げてください」
伯爵ならなんとかしてやれるが、奥さんまでは無理だ。なにをしていいかわからん。もうミリエルに丸投げ状態だ。
「それはいい。わたしからもマレアット様に手紙を書こう」
さすが男爵。理解力が早い。そして、根っからの貴族だな。この人に宰相的立場になってもらいたかったよ。
「お願いします。ロイス様──」
「様はいらない。ロイスと呼んでくれ。貴族と言ってもそこまで敬われる立場でもないしな。言葉使いも雑で構わないよ」
「わかりました。いや、わかった。じゃあ、出発するとしよう。では、男爵様。帰りにまた寄らせてもらいます」
「ああ。無事を祈っている」
できればダメ女神ではなくどこかにいる幸運の女神にお願いします。
ロイスが連れていくのは三人の兵士で、小さい頃からの仲だそうだ。名は、マルレ、ヤルス、ライダだそうだ。
「四人をゴブリン駆除請負員としておく。ゴブリンを駆除すれば金が入り、オレが着ているものや酒なんかが買えるようになる。ロンダグに帰るまでしっかり稼ぐといい」
請負員カードを発行し、四人を請負員とした。
「あと、リュックサックと食料、水なんかを渡す。足りなくなれば巨人のダンに声をかけてくれ。食料と水は持たせてあるから」
皆のところまでに大体のことは教え、主要メンバーを紹介した。
「ダン。ロイスたちと行動してくれ。もし、人間と会ったらロイスに対応してもらえな」
「わかった。ロイス様、よろしくな」
「ああ、よろしく頼む」
コミュニケーション能力が高く、他種族に偏見を持たない。やはりこの人には未来のアシッカを担ってもらうとしよう。
「まずは靴を渡すので足を計らせてくれ」
なんだかんだで請負員にヒットしているのがタクティカルブーツだ。次に靴下ね。
四人の足を計り、サイズに合ったものをホームに入って買ってきた。
「いいな、これ。踏ん張りが凄い」
戦う者は特にタクティカルブーツのよさに気がつく。そして、走り出すんだよな。なんでだ?
「あまり走ると靴擦れを起こすぞ」
ついでに回復薬小を飲ませた。
この時代、なにかしらの病気を抱えていたりする。それは飲ませたあとの顔を見ればよくわかる。肌の張りや艶がまったく違うのだ。これで五十歳以上生きる人はバケモノとしか言いようがないよ。
「ロイス。オレたちは山の中を進んでゴブリンや魔物を蹴散らしながら進む。なるべくそちらに流すから駆除しながら進んでくれ。大量に出てきたら集合する」
ミーティングをして、オレとラダリオンは森の中に入っていった。
しばらく進んだらホームに入り、それぞれ武装を換えた。
ラダリオンは珍しくP90を装備し、オレは新しい──ってわけでもないが、気になっていたステアーAUGA1を装備した。
ちょっと古いタイプのブルパップだが、ゴブリン駆除にそう最新な銃は必要ない。ましてやオレはゴブリンの気配が正確にわかるし、プランデットをかけていれば熱源探知もできる。初心に返るにはこれで充分だ。
「ラダリオン。準備は?」
「おーるおっけー」
サムズアップするラダリオンに苦笑いを返した。
「よし。いくぞ、ラダリオン」
「うん」
拳をぶつけ合い、ホームを出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます