第743話 ロンダグ男爵領

 ニャーダ族は三十人。巨人は十三人。セフティーブレットから五人で、総勢四十八人となった。


 この四十八人は先陣であり、道が確保できたら冒険者を雇った商人がくることになっている。


「大人数ではあるが、百人は欲しかったな」


 十キロ毎に広場を築いて二、三人は配置したかった。でもまあ、巨人が道を造ってくれるんだからよしとしよう。


「ミリエル。留守を頼むな。海に着いたら呼ぶから」


「任せてください。それまでに人を増やしておきますね」


 どこから? と問われそうだが、ミヤマランとのルートができたことが知られたようで、冒険者がアシッカに流れ始めている。冒険者は仕事を求めてやってくるのだから護衛の仕事も増えるはず。商人としても護衛がいるなら海を目指すだろうよ。


 その流れができれば冒険者じゃないヤツも流れてくるはず。そいつらを雇い、広場に住ませる計画が人を集められなかったときの次策だ。


 まずは先陣としてニャーダ族に向かってもらい、ゴブリンや魔物を払ってもらう。


 中陣は巨人たちで、道を切り開く者、道を整地する者、橋を作る者と続き、護衛の巨人がまた集まったきたゴブリンを駆除する。


 後陣はオレらセフティーブレットだ。ちなみに、オレ、ラダリオン、ビシャ、メビ、アルズライズの五人だ。


 とは言え、オレらは二手に分かれることにする。オレとラダリオン。アルズライズ、ビシャ、メビの二つだ。


 アルズライズは諸島出身で、海からアシッカにきて、それからコラウスに移った。その頃の経験をビシャとメビに教えてもらい、ルートの確保や土地勘を身につけてもらいたいのだ。


 組織が大きくなればオレが最前線に出ることは少なくなるだろう。そのとき中核となるのがビシャやメビであり、セフティーブレットが次へと繋がる人材である。故に金印のアルズライズから技術や心構えを学んで欲しいんだよ。


「なにかあればダンのところに集合だ。オレらはプランデットが使えるところにいるから」


 オレも初心に戻ってゴブリン駆除をしたいが、まだ若いダンに巨人を纏めろと言うのも酷だ。支えるためにもそう遠く離れられない。夜には合流できる距離でやるしかないのだ。


「わかった。おれたちはまずオーグが住み着いていた山にいってみる」


「そんな山があるんだ。それならバレットの弾をたくさん用意しておくよ」


「弾は買ってあるから大丈夫だ。それよりパージパールを撃ってみたい。いいか?」


「そうだな。アルズライズにも慣れてて欲しいから用意しておくよ。ただ、二発が限度だ。砲身が冷めるまで五分くらいかかるから注意しろよ」


 高エネルギーを撃つだけに連射は難しい。一撃必殺がパージパールなんだろうよ。携帯武器では、だけどな。


「わかった。注意しよう」


 まあ、アルズライズならそう心配することもないだろう。アルズライズの判断に任せよう。


「よし! 出発するとしようか」


 ニャーダ族は陽が昇る前に出発してもらい、巨人たち七時くらいに出発。オレらは七時半くらいにパイオニア五号で出発した。


 グロゴールが現れた十数年前までは海──ロンレア伯爵領まで街道が通っており、馬車で八から十日の距離だったそうだ。


 馬車の移動が一日二十キロだとして十日だと二百キロ。この時代では絶望的な距離ではあるが、もちろん、その間には小さな男爵領がある。


 ただ、ロンレア伯爵領が壊滅状態のようで、その途中にある男爵領も壊滅に近いとか。流通が完全に止まり、道も荒れてどうなっているかわかる者がいない状態だ。


 アシッカの寄り子たるロンダグ男爵領までは普通に街道が通っているが、その先はもう草木に生い茂っているそうだ。


 巨人チームとは三十分の差だが、ロンダグ男爵領に入るまでに追いついた。


「巨人が集団で歩いていると凄いな」


「そうだな。巨人を優遇したコラウスは賢いと思う」


 ただ悲しいかな、現コラウス辺境伯はそうでもなく、王都しか見てない。巨人優遇は辛うじてやってはいるが、領主代理に丸投げしている状態だ。


「そして、巨人を味方につけたお前は怖がられるだろうな」


 ニヤリと笑うアルズライズ。ちなみにパイオニア五号はアルズライズが運転しています。オレは助手席ね。


「そうだな。益々味方にしないといかんな」


 出る杭は打たれる。なら、打たれないほど飛び抜けてしまえばいい、は真理だと思う。


「ロンレア伯爵が生きていてくれると助かるんだがな」


 いないと一から築かなくちゃならない。是非とも生き残っていてオレたちと一緒に復興して欲しいものだ。


「タカト! 前方に兵士がいるぞ!」


 ダンの声が轟き、巨人たちが道の左右に分かれてくれた。


 その間を進み、集まっている兵士たちの前でパイオニア五号を停めてもらった。


「お久しぶりです、ロンダグ男爵」


 五十代の細身の男性で、武より文なタイプの人だ。まあ、だからと言って飛び抜けて才があるってわけじゃない。可もなく不可もなくってタイプだろう。


「ああ。元気そうでなによりだ」


 城でちょっと話したくらいの仲だが、親しみを籠めて握手した。

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