第741話 アシッカへ

 次の日は快晴だった。


 昨日の雨は完全になくなり、葉も地面も乾いていた。


「暑くなりそうだな」


 まだ六時半だってのに、気温は二十度になっている。こりゃ、平地は三十度近くになるんじゃないか?


「タカトさん。用意できました」


「では、出発しましょうか。ラダリオン、頼むな」


 巨人になったラダリオンが先頭になって出発。オレらは最後尾に立つので、それまでこの広場を管理してくれる元冒険者に声をかけた。


 この麓広場は正式な許可の下、セフティーブレットの管理下となった。まあ、アシッカとの交流が増えれば人も増え、いずれ村か町となるだろう。そうなればミヤマランに返して管理はそちらにやってもらうがか。


「では、頼みますね」


 オレらもパイオニア五号に乗り込んで馬車の後を追った。


 ゴブリンの気配はちらほらとあるが、その気配から緊迫した感じはない。危険な魔物がいない証拠。これと言った問題もなく山頂のキャンプ地に到着できた。


 麓の広場にいた巨人が帰りがけに建物を増やしたようで、さらに村感が出ていた。


 商人たちが野営の準備をしている間に管理している冒険者から話を聞かせてもらうことにする。


「ビシャ、メビ、周辺を見てきてくれ」


 山頂付近にはゴブリンがいないので、他の魔物がいるかわからんのよね。


「任せて」


「了解」


 獣人姉妹が駆けていくのを見送り、冒険者たちに話を聞かせてもらった。


 話が終わって缶コーヒーで一服していると、なんかチンパンジーみたいな猿を引っ張って戻ってきた。なんやそれ?


「食人猿だよ」


 なんか物騒な言葉が出てきたよ。


「……こんなものまでいるんだな……」


 この世界は命に満ちてんな。まあ、ダメ女神が関わっているから碌な命がないけどよ……。


「たくさんいるのか?」


「うん。でも、ほとんど殺した」


 物騒なのはこの獣人姉妹か。食人猿に合掌。


「下手になにかを滅ぼすとまた別のなにかが集まってくるんだな」


 まあ、それで山に生き物がいなくなるのも困るが、この世界の生き物は物騒なのしかいないから困るぜ。


「ニャーダ族でここに住んでくれるヤツいないかな?」


「なら、とーちゃんに言っておくよ。ニャーダ族も増えなきゃダメだからね」


 ニャーダ族内でもそういう話をしているんだ。


「そうだな。お願いするよ」


 その夜は雇った冒険者たちに見張りに立ってもらい、オレも早めに眠りにつき、午前一時に起きて見張りを交代した。


 何事もなく朝を迎え、ホームに入って休ませてもらい、ミラジナ男爵に着いたらラダリオンにダストシュートしてもらった。


「こっちは涼しいんだな」


 気温は二十度か。こちらにミジャーが流れてこないのは気温が関係しているのか?


 ここまでこれば安全なので商人たちとは別れ、ミラジナ男爵に挨拶しに向かった。


「作物は順調に育っているようですね」


 麦だろう若葉がたくさん広がっていた。アシッカよりゴブリンの被害は少なかったとは言え、人手は少なくなっていた。よくこれだけ種を蒔いたものだ。


「ああ。魔物を恐れる必要がないというのはいいものだ」


 それだけ危険が隣り合わせってことなんだろうよ。


「広場も広げたんですね」


 今は落ち着いたのか、井戸を掘っている姿も見えた。


「ここは水だけは豊富だからな。まあ、そのせいで芋が育ち難いがな」


 それでいて大きな川がないのが不思議だよな。あ、地下に流れているのか。古代エルフがなんかやったんだろうか?


「もしかすると今年は他領で食糧不足があるかもしれません。買い取りにくる他領の商人には注意してください」


 その前にミヤマランで起こるだろうが、山脈のこちら側まで知られてないだろうとやってくる商人がいるとも限らない。注意しておいて損はないだろうよ。


「わかった。注意しておこう」


「今回、奴隷は買えませんでしたが、セフティーブレットの職員に少しずつ買うように頼んできました。少しずつ流れてくるでしょうから、いいのがいたら女性を紹介してください」


 ミラジナ男爵領の野郎どもには申し訳ないが、この地にモリスの民を根づかせるために我慢してもらうとしよう。


「ああ。任せてくれ」


 その日はミラジナ男爵の家に泊めてもらい、昔のことを夜遅くまで聞かせてもらった。


 もちろん、寝るのはホームで、借りた部屋には獣人姉妹に使ってもらった。


 朝、借りた部屋に出ると、見知らぬ女性がベッドで眠っていた。誰や?


「おはようさん。どちらさんだ?」


「部屋を間違えた人だよ。あたしたちは床でも構わないから貸してあげたの」


「そ、そうなのか」


 なんかそれ以上追及してはダメなような気がして流しておいた。


 朝早く発つとミラジナ男爵には言ってあるので、挨拶はしないでパイオニア五号に乗り込み、アシッカを目指した。


 三十分もしないで到着。城壁の外にあるセフティーブレットの拠点に向かうと、ミヤマランにいった商人たちがルースカルガンに荷物を積んでいた。


「そんなに急ぎなのか?」


 ルースカルガンを使うかはエレルダスさんの判断に任せてある。この時代で生きるなら金は必要だからな。流通が破壊されないていどなら好きにやってくれと言ってある。


「ビシャ、メビ。オレは城にいくが、どうする?」


「あたしもいく。メビはコラウスに戻るよ。かーちゃんたちにお土産あるし」


 ビシャが残ってメビが帰るのか。まあ、しばらく帰ってないしな、親に顔を見せるのもいいだろう。


 職員に声をかけてから伯爵に会うべく城に向かった。

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