第738話 死体片付け

 何事もなく朝を迎えた。


 何度やっても徹夜は辛いものだ。もう歳だってことなのかね?


「ビシャ。先に寝ろ。騎士団の連中が起きたらオレも寝るから」


 イチゴがいるから寝ても問題はないんだが、そこまで騎士団とコミュニケーションをとれるほど能力は高くない。よくも悪くも戦闘特化型なのだ。


「わかった」


 ごねることなくパイオニア三号の後部座席に横になり、すぐに眠りに落ちていった。


 こういうところもビシャを高く買うところだ。ちゃんと状況を読め、休めるときに休めるんだからな。オレのほうができてないくらいだ。


 しばらくして騎士団の連中が起きてきたので、交代をお願いしてパイオニアの運転席で眠りについた。


 目覚めると、時刻はお昼前くらいになっており、騎士たちが汚れた装備を洗っていた。


 ……手入れ、大変そうだな……。


 この時代なら大量生産されたものじゃなく、オーダーメードしたものだろう。それなら簡単に捨てるなんてできない。手間隙かけて綺麗にするんだろうよ。


 オレは大量生産された一万円以下のものが汚れたら捨てるようにしている。手入れする手間を考えたらゴブリンを駆除することに時間を使ったほうが有意義だからな。


「タカト殿」


 缶コーヒーを飲みながら騎士たちを見ていたらルジューヌさんがやってきた。さすがに団長は装備手入れに参加しないか。


「疲れは取れましたか?」


「ああ。美味い酒を提供してくれて感謝する。団員が喜んでいたよ」


「それはよかった。請負員カードで同じものが買えますから、気に入ったら買ってみてください」


「それは騎士の仕事を放り出してゴブリン狩りをしてしまいそうだな」


 もちろん、それが目的だとは言えない。が、二千匹は取り逃がしたことを伝えておく。


「オレは戻りますんで、騎士団にはもう少し残ってゴブリンの片付けをお願いします」


「わかった。父に話を通しておいてくれ」


「ええ。任せてください。食料や物資は運びますので」


 帰りは歩きになるが、ミヤマランの民に凱旋する姿を見せなくちゃならないんだからがんばってください、だ。


「あ、これを渡しておきます」


 ヒートソードをルジューヌさんに渡した。


 なんだか外れ枠みたいになっているヒートソードくん。また当たったそうなのでルジューヌさんにもあげておこう?騎士団の遠征にヒートソードは使い勝手がいだろうからな。お湯を沸かすのも楽だろうよ。


「あとの判断はルジューヌさんに任せます」


「ああ。気をつけてな。大事に使わせてもらうよ」


「女神製だから乱暴に扱っても大丈夫ですよ。仮に壊れてもまた新しいものを渡しますから」


「女神製? 神代の武器ではないか!」


 驚くルジューヌさん。ミシニーもそうだが、この世界の者は女神製をありがたるんだな。


「神代の武器でも壊れるときは壊れるものですよ。それに、道具は使ってこそ。大事に飾っていても意味はありませんよ。使い潰してください。では、オレたちはペンパールに戻ります」


 ビシャとイチゴを呼び、出したものを片付けてパイオニア三号をホームに戻した。


「よし、戻るぞ」


 それぞれブラックリンとマンダリンに跨がり飛び立った。


 すぐにペンパールが見てきて、城にマイセンズ系のエルフがたくさんいるのが見えた。


 ……あんなにきて大丈夫なのか……?


 二、三百人くらいだったと思ったのに、軽く百人はきている感じだ。三分の一もきたりして大丈夫なのか? マイセンズの森の中に町を造ったっていうのに……?


 すっかり綺麗になった中庭に着陸(着亀か?)。ルースカルガンはコラウスかな?


「マスター!」ちょうどよかった」


 と、アリサが駆けてきた。


「ちょうどよかった。リン・グーが会いたいそうです」


 顔合わせをしたのか、乳母のリン・グーを名前で呼んでいた。


「どうかしたのか?」


「ゴブリンの死体を片付けるためにペンパールを動かしたいそうです」


 死体を片付ける? どういうことだ? と首を捻りながらリン・グーのところに向かった。


 リン・グーはペンパールの制御室的なところにおり、ミサロやラダリオンもいた。てか、集まりすぎだろう。


「死体を片付けるんだって?」


「はい。正確にはペンパールに食べさせます」


 ん? 食べる?


「あんなデカい口でゴブリンを食うのは大変じゃないか?」


 全長百メートルはたり、口はダンプカーを丸のみできそうなくらいある。一メートルくらいのゴブリンを食うには難しすぎないか? 人間にしたら床に落ちた豆を食うようなもんだろう。


「問題ないわ。ただ、下にいる者はペンパールに上げるか遠ざけてちょうだい。ゴブリンと人間を区別はできないので」


「下にいる者はいるのか?」


「いない。仲間には上がるように言った。騎士団が近くにいるかもしれないからタカトに訊いてからにしようと思った」


 そうだったのか。そんな配慮もできたんだな。ちょっと見誤っていました。ごめんなさい。

 

「なら、やってくれ」


「わかったわ」


 制御室的な部屋の壁にある魔法陣に手を当てた。


 ダメ女神は魔法具的なものは発明されてないと言っていたが、それは人間の時代では、ってことなんだろうな。いや、守護天使とやらの力か? 謎が多そうなところらしい。


「動きます」


 震度2くらいの揺れを感じた。


「結構揺れるんだな」


 日本人にはなんてことのない揺れだが、他の者には驚くくらいの揺れみたいだ。


「まだマシなほうよ。移動時はこんなものではないわ」


 どうやらオレが思うよりペンパールでの暮らしは大変そうだ。

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