第737話 勝利の美酒

 ラダリオンにダストシュートしてもらい外に出た。


 ニャーダ族の戦いは肉を裂き、叩き潰すだからか、血の臭いが辺りに充満していた。


 ……嫌な臭いだ……。


 すぐにマスクを取り出して口にかけた。


 気配から各自バラバラになって駆除しているようだ。もっと組織的な駆除をしてもらいたいものだが、ゴブリンも組織だって動いているわけじゃない。狂乱化でもしてなければ各個撃破が効率的か。


「残り、約二千匹ってところか」


 女王の魅了でゴブリンどもは逃げないみたいだが、組織だって動いてない以上、少なくなるにつれて駆除が困難になるだろうよ。どこかで終わりを告げるしかないな。片付けもあるんだからな。


「てか、どうやって片付けるんだ?」


 ミジャーを駆除するために魔力の八割は使った感じだ。とても血を吸い出すことはできない。やってもほんのちょっとだろう。


「タカト。まだゴブリンいる?」


 装備を換えたラダリオンがホームから出てきた。


「残り二千匹だが、かなり分散した感じだな。請負員の気配と混ざって正確な位置はよくわからんよ」


 ゴブリンと請負員の気配は違うものの、混ざり合うとよくわからなくなる。処理できなくなる感じだ。


「よし。終わりにしよう。ラダリオン。ロケット花火を上げてくれ」


 一応、終わりの合図は伝えてあるが、血に飢えたニャーダ族に伝わるかどうか。まあ、やるだけやってみよう。


 巨人に戻ったラダリオンがロケット花火とコーラの空瓶を持ってきて空に打ち上げた。


 ニャーダ族が集まるまで二人で周辺のゴブリンを集めることにした。


 二、三百匹ほど集めた頃にニャーダ族が集まり出した。


「ご苦労さん。特にデカいゴブリンから魔石を取り出してくれ」


 体のサイズから数十年は生きたもの結構いた。これは、魔力を吸うより魔石を取り出したほうが早いだろう。


 十六時くらいまで魔石を取り出し、ニャーダ族の一人に騎士団へ連絡を頼んだ。


「ペンパールに移動してくれ。今日はお疲れ会だ。たくさん酒を出すから死なないていどに飲むといい。ラダリオン。ホームから酒を出してやってくれ。オレは騎士団のところにいくから」


 物資を運んだとは言え、そこに酒はない。慰労を兼ねてよく冷えたビールを出してやろう。


「ビシャ、イチゴ、タカトについていって」


「ビシャはペンパールにいってもいいぞ。ずっと動きぱなしだったんだから」


「大丈夫だよ。あたしは全体を把握するために動いてなかったから」


「……そっか。お前はそこまでできるようになったんだな……」


 ビシャは戦士より指揮者に向いていると思って集団を任せたりしたが、まさか自分でも意識してやっているとは思わなかった。


「わかった。護衛を頼むな」


 せっかくの機会だ。いろんな人に会わせておくか。伝手もまた力だ。


 ブラックリンとマンダリン二台を引っ張り出してきて騎士団のキャンプ地に飛んだ。


 騎士団にもロケット花火の音は聞こえたようで、気配がキャンプ地に向かっていた。


「結構取り零しがあるな」


 長く生きただけに生命力が高いのだろう。


 キャンプ地に降りると、見張りの騎士がいた。そりゃそうか。


「ゴブリンの脅威は去りました。騎士団の方々が戻ってきます。食事の用意をお願いします。ビシャとイチゴは周辺のゴブリンを片付けてくれ」


 ホームからキャンプ用品を積んだパイオニア三号を出し、ビニールプールを広げて水を溜めた。


 溜まる頃、血にまみれた騎士団が戻ってきた。


「まずは汚れを落としてください。今、お湯にするんで」


 ヒートソードでお湯にした。


「ルジューヌさんはそちらを使ってください」


 女性であり他は男だ。下手な刺激を与えないほうがいいだろうと、ルジューヌさん用に衝立を作っておいたのだ。


「お前たち、ありがたく使わせてもらえ。従騎士は装備の手入れだ」


 従騎士はキャンプ地にいた騎士のようだ。


 騎士たちは装備を外して下着姿になり、桶でお湯を掬い、お湯を浴び出した。


「石鹸もあるので使ってください。体を拭くものはここにありますんで」


 今の段階で一千五百万円くらいは稼いだ。ちなみに元のを足せば二千八百万円。石鹸やタオルをどんだけ使っても構わないさ。


 体を綺麗にした騎士に別のビニールプールに入れていた缶ビールを封を切って渡した。


「酒です。見張りはオレたちがするので遠慮なく飲んでください」


 たくさん動いたからだろう。恐れるより喉を潤したいと、騎士はビールを口にし、その美味さに一気飲みしてしまった。


「美味い!」


「たくさんあるから飲みたいだけ飲んでください」


 他の騎士たちも興味を持ったようで、封を切って渡すと一気に飲み出した。


「勝利に!」


 一人の騎士が缶ビールを掲げて叫ぶと、それに呼応して「勝利に!」と叫び出した。


 ……ノリがいいな……。


 まあ、このノリは大切であり、団結を生むものでもある。大いに叫んで大いに飲むといいさ。


「すまないな。酒は本当にありがたい」


 さっぱりしてきたルジューヌさん。やはり騎士団を纏めるに酒は必要なようだ。


「いえ、騎士団のお陰でたくさんのゴブリンを駆除できましたからね、そのお礼ですよ。ルジューヌさんもどうぞ。ただ、飲みすぎないでくださいね」


 缶ビールを渡してやった。


「勝利に」


「ええ、勝利に」


 飲みたいのをグッと堪えてルジューヌさんに応えた。

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