第734話 エンディアル大陸

 ペンパールにいるゴブリンは駆除が終わったようで、強襲隊にもハイゴブリンを仲間にしたことを知らせた。


 ニャーダ族の男たちにも許せないなら抜けても構わないと言ったが、すんなり受け入れられてしまった。


「おれらは別にゴブリンが憎いわけじゃない。自分たちの立場を築くためにやっているだけだ。タカトがそう決めたのなら受け入れるまでだ」


 他の男たちもそうだと頷いた。


「お前はオレたちの名誉と誇りを守るために信念を曲げてまで守ってくれた。なら、おれたちはお前の名誉と誇りだけは絶対に曲げさせたりはしない。命を懸けて守る」


「オレが選んだことでニャーダ族には関係ないことだよ」


「なら、これはニャーダ族が決めたことだ。タカトには関係ない」


「…………」


 まったく、これだからニャーダ族は扱い難いんだよ。簡単に裏切ってくれるヤツなら簡単に切れるのによ……。


「片付けの状況は?」


「死体は集めたが、魔力を吸うのに手間取っている。もう燃やしていいか?」


 さすがのニャーダ族も死体の多さに辟易しているようだ。


「そうだな。数千匹も片付けていたら秋になりそうだし、その間にバデット化されても困るか。城のは集めて燃やすか」


 女王をこちら側に迎えたとは言え、時間は味方になってくれない。いつまでもミヤマランに時間をかけてられない。オレの主目的は海までの道を築くこと。


 強襲隊に任せ、オレはエレルダスさんに連絡を入れた。


 届くかな? と思ったが、なんか偵察ドローン的なものを飛ばしていたようで、すんなり連絡が届き、すぐに一号艇でやってきた。


「状況が変わったようですね」


 さすがエレルダスさん。ハイゴブリンたちを見て大体のことは察したようだ。


「ええ。エレルダスさんの考えを聞かせてもらいたくて呼びました」


 相談相手がいるって心強いものだよ。それも一都市を纏めていた人。この人以上の相談相手はいないだらうよ。もちろん、決断はオレがするがな。


「わかりました。別なところで話しましょうか」


 さすがに血の臭いが充満しているところではキツいわな。ってことで、リン・グーに話せる場所に案内してもらった。


「意外と充実してんだな」


 豪華ってわけじゃないが、ゴブリンにしては文化的な生活を送っているようだ。服は古代ギリシャ風なもので、染料技術がないのか白(薄汚れているけど)ばかりだ。騎士の二人は革鎧をしているよ。


「元いた場所には町があったから必要なものは揃えられたわ。ここほど発展してはいないけど」


「恐らくエンディアル大陸でしょう。わたしたちでも足を踏み入れることができなかった大陸です。人工衛星でも調べることができず、竜の巣とも言われていました」


「古代エルフの技術があっても無理だったのですか?」


「ええ。神の力で守られているようで、わたしたちには禁忌の場所とされていました」


「あの地は守護天使ライサル様が治めてある地。神でも干渉できないとされているわ。もっとも、勇者による侵攻のせいでなかなか発展しないけどね」


 ゆ、勇者はそのために存在してたんだ。もう、ご愁傷様でしかないな。


「ゴブリン駆除でよかったよ」


 いや、選ばれたことは不本意でしかないが、チート持ちでも勝てない場所に送り込まれるより、生き残れる確率が高い場所に送り込まれるほいが遥かにマシだわ。


 意外と充実しているとは言え、現代社会を生きてきたオレには質素でしかない。


「ミサロを連れてきます。少しの間、こいつらから話を聞いていてください。ダズグ。なにかあれば殺して構わない。エレルダスさんの命を最優先にしろ」


 一応、護衛の者は連れてきています。


「わかった」


 女王たちの命よりエレルダスさんの命のほうが重要だ。ここで失うわけにはいかないんだよ。


「下手なことはするなよ」


「この状況でなにをすると言うのよ? 自分たちの命を縮めるようなことはしないわ」


「そうであってくれ。オレはゴブリン相手だと冷たくなるんでな──」


 そう言ってホームに入った。


 タイミング悪くミサロはいなかったが、ミリエルが入っててくれたので外の状況を話した。


 しばらくしてミサロが入ってきたので同じことを説明し、ペンパールにきてもらうことをお願いした。


「わかったわ。ハイゴブリンのことは魔王軍の間でもウワサに上がっていたから興味があったのよね」


 そうなんだ。てか、魔王軍も謎だよな。どんな組織なんだ?


「じゃあ、ちゃんと武装して出ろよ。不信を感じたら殺しても構わない。お前の命を優先するんだぞ」


 ミサロは基本、武器を持たない。精々、なにか切るためのナイフくらいなのだ。


「大丈夫よ。これでも逃げ足だけは自信があるから」


 それでも武装をさせてダストシュートさせた。


「ミリエル。ラダリオンが入ってきたらイチゴを連れてペンパールにくるよう伝えてくれ。あと、シエイラにも伝えてくれ。いきなりミサロが消えたら驚くだろうからな」


 ミサロは奥様連中を纏めてもらっている。纏め役が突然消えては問題もあるだろうよ。


「わかりました。必要なものを買っておきます」


「ありがとな。じゃあ、オレも出るよ」


 ミリエルの肩を叩き、外に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る