第16章

第732話 守護天使

 ペンパールの制御室的なところから出てきたゴブリンも人間型をしていた。


 ……どんな理屈で人間型になるんだ……?


 ミサロによれば特異変種らしいが、どうもそうとは思えない。なにか原因があるんじゃなかろうか?


 女王の次に強い気配を持つ二人。こいつらは男であり、片方はニャーダ族並みに体格がよく、近接戦闘タイプ。もう片方は法衣のようなものを纏った魔法使いタイプだ。


 そして、疑問だった四人目は十代前半の少女型。女王の娘か? それにしては似てないが……。


「お前たち、名前はあるのか?」


 まるで興味は湧いてこないが、呼び名がないのも不便だ。セフティーブレットの一員としたなら名前で呼ぶことにしよう。名前があったら、だけど。


「わたしは、リン・グー。女王の騎士であるマゼ・アーとロガ・シー。そして、女王のライプスよ」


「いや、お前が女王じゃなかったんかい!」


 思わず突っ込んでしまった。


「わたしは、乳母です」


 乳母なんかぁーい! 紛らわしいな! もうお前が女王にしておけよ!


「……まだ幼いように見えるが、子を産める年齢なのか……?」


 とても産めるような体には思えないんだが。


「まだ産めるような年齢ではないわ。そもそも女王が子を産むのは一生のうちに二回か三回よ。ライプスが子を産むのはまだまだ先となるわ」


 やはり見た目年齢なんだ。てか、よく滅ばないでいられてんな。滅ぶしかない種族じゃないか。いや、繁殖できてんのかも疑わしいな。


「ま、まあ、子供のことはそちらでやってくれ。数が増えないならこちらとしては好都合だからな」


 ポンポン増えたら間引きする必要がある。セフティーブレットの一員にして子供を間引くとか恨んでくださいと言っているようなもの。不和を抱えて老後まで生きられる自信がないよ。


「あと、これを渡しておく。それに名前を告げろ」


 ゴブリンがゴブリン駆除請負員になれるかわからんが、同族殺しなど珍しいことじゃない。オレだってゴブリンに堕ちた人間を殺したしな。


 それぞれ請負員カードに名前を告げると請負員になれた。ほんと、ダメ女神を表すかのような雑な作りだよ……。


「増えるしか能がないゴブリンを倒せば報酬が入る。その報酬でオレがいた世界のものを買える。って、言ってもわからないか」


 こいつらがどこにいたかは知らんが、売買がある世界とは思えない。てか、こいつらどうやって生きてきたんだ? 自給自足か?


「わかります。勇者が攻めてくる前は人間並みの社会体制は維持していましたから」


 ん? ゴブリンってそこまで知能が高かったのか? いや、増えるしか能がないゴブリンと考えられるゴブリンとは違うってことなのか? どういうことだ?


「わたしたちは、原初の命。この世界で知的生命体として進化するべく産み落とされた種族よ」


「はぁ? 女神は適当に創ったと言っていたぞ」


 妄想を真実にでもしたのか?


「そう。神が疎かにしたため我らが守護天使、ライサル様がわたしたちを本来の姿にしてくれたのよ。ただ、神の力は強力。本来の姿に戻れたのは極少数。女王と呼ばれる種のみ。女王が産む子も代を重ねるごとに劣化していく。女王種を維持するためには竜の血を飲むしかないのよ」


 もしかして、竜の血伝説はそこからきてんのか?


「ほんと、この世界はダメ女神を体現したかのような世界だよ」


 なにもかもが不完全。いや、神ですら不完全なのだから世界が不完全になっても仕方がないか。それが正しき世界ってことなんだろうよ。


「まあ、なんにせよ、遺伝子が悪いってことなんだろう。なら、これを飲め。これも女神の力で作られたもの。遺伝子障害も治したし、お前らにも効果がるはずだ」


 ん? もし治ったら竜の血を浴びたオレも竜の力は消えるってことか? まあ、消えたら消えたで構わんか。前の駆除員が残した変身ベルトがあるんだしな。プラマイゼロだ。


 回復薬大を飲ませると、なんかゴブリンとしての気配が和らいだようになった。


「見た目は変わらんが、気配からしてなにかには効いたみたいだな。もうしばらくしたらもう一つ飲んでみろ」


 回復薬大と言っても病気や怪我が一発で治るわけでもないだろう。ましてや神の力は強力っていうんだ、定期的に飲んでいけば効果も出てくんだろうよ。


「なぜ、そこまでしてくれるの?」


「オレは別にゴブリンが憎いわけじゃない。そうしないと生きられないからやっているまでだ。やらないで済むならのんびり暮らしたいよ」


 それこそダメ女神の力が強くて逃れられないだけだ。


「お互い、神に翻弄された者同士、幸せな未来を築くために協力しようぜ。知的生命体が一つでなければならないってわけでもないんだからな」


 人類が平和でありますように、なんて大層なことを願えるほどオレはできた人間じゃない。オレとオレの周りにいる者が幸せであってくれって願う心の狭い人間だ。見も知らないヤツにまで心を向けられるかってんだ。


「まずは、仲間たちにお前らを紹介する。絶対、魅了の魔法なんて使うなよ。使ったら公正に裁くからな」


 組織内で派閥を作るのはいい。だが、不正はダメだ。オレは組織ルールを重んじるタイプなのだ。


「わかっているわ。自分たちの立場はよくわかっているからね」


「それはなによりだ。組織内で上手く立ち回ることだ」


 とりあえず、皆が集まれる場所に向かった。

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