第731話 数百年前の駆除員

 しばらくして丸扉が動いた。


 どうなるかはわからんが、いきなり攻撃を受けても山崎さんからもらったインナーとプレートキャリアがある。頭を狙われない限りなんとかなる。


 そう自分に言い聞かせて武器には手をかけないで、脱力して佇んだ。


 丸扉が開き、緑色の肌をした女が出てきた。


 そんな予感はあった。ミサロの例があり、知能が人間並みに高い。さらになにか巨大な力が関与している影があったからな。


「こちらに戦闘の意思はないし、そちらに危害を加える気はない」


「こちらも戦闘の意思はないわ。交渉に乗りましょう」


 言葉をしゃべることも予想はしていたが、かなり流暢にしゃべるじゃないか。人間並みどころか人間以上の知能を持っていても不思議ではないのかもしれないな。


 ……三十前後の見た目だが、見た目通りの年代ではないだろうな……。


「ちなみに魅了の魔法はオレには効かない。下手なことをするなら即駆除させてもらう」


 魅了の魔法のことを黙っているのも手だが、交渉のためにカードを切っておくとしよう。


「女神の使徒にわたしたちの力が効かないことは知っているわ」


 そりゃ、五千年も前から送り込まれた天敵。知能を持つ者から受け継がれていても不思議ではないか。


「なにが望みかしら?」


「オレの配下になれ」


 オレの思いもしない言葉に女王が目を大きく開いた。


「……なんの冗談かしら……?」


「冗談でもなんでもない。ただ増えるだけしか能がないゴブリンを根絶やしにするために女王としての力が欲しいだけだ」


 女王を殺すのは簡単だ。だが、人間以上に知能があるなら使いどころはたくさん出てくる。まずはこの周囲にいるゴブリンが逃げないようにしてもらうとしよう。


「女神の意思に反するのでは?」


「反しているのならオレは排除されているし、女神の目的は知的生命体が一万年、あと五千年続くことだ。増えるしか能がないゴブリンがそれを邪魔しているから駆除したいだけだ」


 オレも最近まで気づかなかったが、ダメ女神の目的は知的生命体が一万年存続できたらいいだけ。目的とゴブリン駆除がどう繋がるか考えもしなかった。要は、ゴブリンがそれを阻害しているからオレに駆除しろと言っているのだろう。それならゴブリンを根絶やしにする必要はない。知的生命体があと五千年継続できるならゴブリンがいたって問題はないはずだ。


 ……ただ、それが難しいから根絶やしにしたいんだろうな……。


「あんたらが増えるしか能がないゴブリンを増やさないと約束するならあんたらの生存をオレが認めよう。さらに人間の敵にならないのなら生存圏を用意してやる」


「人間に飼われろというのか?」


「それはそちらのとらえようだ。オレは女神の命令に逆らえないが、すべてに従わなければならないってこともない。こうして女神の敵であるあんたらと交渉しているしな。要は、女神の目的に反しなければいいだけだ」


 仮にダメ女神の目的に反していたらミサロを率いれたときに排除されているし、助言もしなかったはずだ。


「オレの要求は、増えるしか能がないゴブリンを駆除するのに協力しろ。見返りに考えることができるゴブリンの生存権と場所を与えてやる」


 どうも相手がゴブリンなせいか、情が一切出てこない。損得でしか考えられないよ。


「で、そちらの要望と差し出せるものはなんだ? ちなみにペンパールの情報は女神からもらっている。それ以外を出してくれ」


 なんかいつの間にか頭に入れられてたよ。ほんと、神は人の権利を軽んじる存在だよ。


「わたしたちの要望はゴブリンだからと殺される未来をなくすことよ。それが叶うならあなたの下についても構わない。ペンパールが差し出せないのならこれしか差し出せないわ」


 と、纏っているマントの下からなんか某ライダーがつけてそうなベルトを出してきた。


「これは、我が一族に伝わる家宝。数百年前の駆除員から奪ったものだと言われているわ」


 だろうな! この世界のヤツが考えてたらびっくりだわ!


「……オレの前の駆除員たち、なんか恵まれてないか……?」


 いや、失敗を繰り返しての今なんだろうが、些細な能力に準備金十万円、あとはホームだけっておかしくね? チートとは言わないが、なんか特別な能力や武器をくれたっていいじゃねーかよ!


「まあ、いいだろう」


 そう言ってベルトを受け取った。あとでライダーシリーズを調べないとな。まあ、このゴテゴテ感から平成だろうよ。


 ……オレ、仮面とか戦隊とか見てなかったからそこまで詳しくないんだよね……。


「オレは増えるしか能がないゴブリンとは約束しない主義だが、考えられるゴブリンとの約束は守ろう。精々、女神から知的生命体だと認識されるよう生きるんだな」


「……ええ。そうするわ……」


「よし。これよりお前たち四人はセフティーブレットの一員だ。お前たちを害する者はオレの敵でもある。不当な扱いを受けたらオレに言え。セフティーブレットの者なら公平に裁く。セフティーブレット以外の者なら制裁を加える。いいな?」


 ゴブリンを仲間と言うには抵抗があるが、セフティーブレットの一員になったのなら別だ。感情を押し殺しても仲間とみる。でないと、セフティーブレットとしての結束が歪んでしまうからな。


「……わかったわ……」


 握手、なんて文化はないだろうが、賢い女王はオレの差し出した手をすぐに握った。やはり賢い敵は早々に引き込んでおかないとダメだな。


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 毎日投稿して二年。今も読んでくださる方々に「ありがとう」を。これからも( `・ω・´)ノ ヨロシクーです。


   2023年11月21日 火曜日 第15章 終わり

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