第723話 タッチダウン

 朝、まずは職員やニャーダを乗せた一号艇が飛び発った。


「ヤカルスクさん、お願いします」


 わざわざ戦場から戻ってきてくれた二号艇を艇長様。責任感の強い元軍人さんだよ。


「ラー」


 駆除の疲れなどないかのように了解の返事をして、二号艇が飛び発った。


 ルースカルガンにすればミヤマランの距離などないにも等しい。一分も過ぎないうちに城の中庭に着陸した。


 後部ハッチが開き外に出ると、戦仕様の服を着た公爵とルジューヌさん、そして、ついていく護衛の騎士が十数人いた。


「お待たせしました。中へどうぞ」


 肝が座った公爵は、頷き一つして一歩を踏み出し、やや躊躇したルジューヌさんが続く。二秒くらい遅れて騎士たちも動いた。


 まあ、この時代じゃ空を飛ぶなど夢物語(オレからしたらこの世界が夢物語だけどな!)。竜の背にでも乗るようなものだろう。恐れるなってほうが悪い。それでも進んだミヤマランの者がおかしいのだ。


「ミヤマランがヒャッカスに負けなかった理由がわかったような気がしますよ。勇敢で優秀な騎士たちが揃っているからなんですね」


 そして、そんな騎士たちを統率している公爵のバケモノ具合も見えてくる。世が世なら歴史的偉人として歴史に残っていただろうよ。


「それがミヤマランの誇りだ」


 オレの意図を瞬時に見破った公爵。聞いていた騎士たちの気配が変わった。こうやって統率と信頼を築いてきたんだな~。


「では、ここにいる者をゴブリン駆除請負員とします」


 用意していた請負員カードを配った。


「それは請負員カード。名前を告げるとゴブリン駆除請負員となれます。なったからと言って制約はなにもありません。騎士としてゴブリンを駆除してもらい、倒した数に報酬が与えられる。まずはそれを頭に入れてもらえば問題ありません」


 騎士が副業していいのかわからんが、騎士だって給料もらって生きてんだから問題ナッシング。公爵なら取り上げたりしないだろうよ。


 到着するまで軽くマルダラの状況を説明する。


「マルダラにある村は残念ですが壊滅してました。特異体のゴブリンに襲われて数人しか助からなかったようです。銀印の冒険者でセフティーブレットに所属する者らが駆除に当たっています。ですが、数は約八千。その中にゴブリン女王がいます。女王がいるということは特異体や騎士に相当する存在もいるでしょう。まあ、それらはセフティーブレットが相手します。騎士たちには公爵様を守るとともにゴブリンを駆除してもらいます」


「一日だけで済むのか?」


「さすがに一日では無理です。山の中ですからね。まあ、公爵様は一日しか時間が取れないようですから、効率よく集めて効率よく駆除してもらいます。その辺は着いてから説明します。オレも状況を軽く聞いただけなので」


 昨日の夜、晩酌しながら資料を確認させてもらいました。


「目標地点まで約五分。周辺に数千の熱源。タッチダウンは二十秒だ」


 タッチダウンとはルースカルガンが着陸してその場にいられる時間のこと。後部ハッチは開いたまま降下していきます。


「ラダリオンとメビ、活路を拓け! 騎士たちは二人に続け! 恐れるな! だが、二人の前には出るな! 公爵様はオレと最後に出ます!」


 後部ハッチが開き、風が入ってきた。ロマン装置が働いているとバリアが張ってある状態になるので切らないとダメなんだってさ。


「タッチまで二十秒」


「ラダリオン、メビ、いけ!」


「わかった」


「了解」


 気張った感じはなく、ごく自然に返事をすると開放されたハッチを走って外に飛び出した。


 外は見えないが、二人なら大丈夫。オレはヤカルスクさんのカウントダウンに集中する。


「タッチダウン! ゴー!」


 ガコンとルースカルガンに衝撃が走り、ヤカルスクさんが叫んだ。


「走れ!」


 覚悟を決めた騎士たち。雄叫びを上げながら外に向かって走り出し、十秒もしないて外に出てしまった。


「いきます!」


「おう!」


 公爵様はもとより覚悟を決め、準備運動をしていたので、歳に似合わず機敏に走り出した。


「ゴーアップ!」


 ルースカルガンから出ると同時に叫ぶとルースカルガンが急発進。最大噴射に吹き飛ばされそうになり、危うく転びそうになってしまった。


 なんとか姿勢を立て直し、騎士たちに公爵を囲むよう指示を出した。


 騎士たちは盾を持っているので壁となってもらい、攻撃魔法が得意な者にはラダリオンとメビが取り零したゴブリンを薙ぎ払ってもらった。


「全方位にゴブリンがいます。公爵様はこれを使ってください」


 EARを取り寄せ、使い方と構え方を教える。


「おもしろいな」


 EARの扱いは簡単だし、反動もないに等しい。構え方さえわかればあとは撃つだけである。


「確実に殺す必要はありません。ゴブリンが密集しているところに向かって撃ってください。ただ、騎士には撃たないでくださいね」


「そんなマヌケはせんよ!」


 公爵の自由にさせ、騎士たちの分も取り寄せて扱いと構え方を教えていった。


「魔法の礫が途切れるまで撃て! 駆逐しろ! ミヤマランを守るのだ!」


 騎士たちを煽り、襲いくるゴブリンども駆除させた。

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