第721話 ハズカシィー!

 火が消えたらメビたちを麓の広場に向かわせ、遺体をニャーダ族の集落に運ばせるように手配した。


 獣化兵だった者は集落生まれではないが、魂の故郷的な感じで埋葬してやるのがいいだろう。ちなみにこの世界では火葬が一般的なんだとさ。下手に土葬すると、バデット(ゾンビ)化になるそうだ。


 ……人間もなるってことじゃん……。


「オレたちは城に戻りましょうか」


 メビがパイオニアを運転するのでラダリオンに護衛をお願いすることにした。


 パイオニア四号を出して城へ──の前に、ルジューヌさんの部下を集めて、村をしばらく見張るよう指示を出してもらった。ミヤマランが関わっていることを知らしめるためにな。


 もう暗くなっているのに働きな騎士団だ。ブラックなのかな?


 城に着いた頃には深夜になっていたが、城門は開いており、すぐに公爵(とノーマンさん)に会えた。


「終わったのか?」


「はい。すべてのゴブリンを駆除しました。聞き取りもしましたが、重要なことは知らないようでした。ただ、獣化兵という凶悪なものがいました。戦闘に特化したニャーダ族の男たちが束でかかっても苦戦する相手が五人。普通の兵士を投入していたら壊滅させられていたでしょうね」


 と言うか、なぜあんな凶悪な戦力を置いていたんだ? ミヤマランを滅ぼすには少ないし、兵士が押し入ったとき用にしては過剰戦力だ。なにか別の目的があって置いていたんじゃないか?


 でも、女の獣化兵は弱いみたいだし、考えすぎだろうか? なんか胸の奥がざわざわするんだよな……。


「どうかしたのか?」


「あ、いえ、なんでもありません」


 深く考えすぎだな。思考が悪いほう悪いほうに流れているよ。ヒャッカスがいないならミヤマランでなんとかできるだろう。公爵はヒャッカスの悪巧みに対抗してきた人なんだからな。


「ヒャッカスの犯罪をどう扱うかは公爵様に任せます。セフティーブレットとしてはあるていどかたはつけたので」


「こちらとしてもヒャッカスを片付けたことで終わりにする。あとは、二度と入ってこないようにすよ」


 法が強い時代でもなければ国でもない。公爵より上の者に覆されたらそれで終わり。下手に騒ぎ立てないのも手だろうよ。


「資料はすべて公爵様に渡します。セフティーブレットが持っていても仕方がありませんからね。こちらとしては人材確保、資金調達、物資調達ができればいいだけですから」


 ヒャッカスは敵だが、進んで壊滅させようとは思わない。ってか、手の出しようがない。都市型ゴブリンまで相手してられるか。報酬の出るゴブリンを相手しようと思います、だ。


「ミヤマランとアシッカを繋ぐ道も整備するのか?」


「もちろん、できればミヤマラン公爵様とは仲良くできたらいいと思っていますからね」


 さすがにコラウス、アシッカの生産力では完結できない。どこかと繋がってなければ早々に詰む。王国で一、二を争う力を持った公爵とは仲良くなっておくべきだろうよ。


「こちらとしても女神の使徒と争うことはしたくないな。とても勝てる気がしない」


「勝つ必要はありませんよ。オレは戦う気はまったくありませんので」


 なにが悲しくて大きな領地と戦わなくちゃならんのよ。仲良くなれないってんなら別の方法を取るまで。策はある。


「……本当に怖い男だ。さらに奥の手を持つか……」


 それを見抜ける公爵も怖いよ。どこをどう読めばわかったんだよ? あんたが一番バケモノだよ!


「切り札は見せるな。見せたならさらに奥の手を持て、ですよ」


 なーんてね! 一度言ってみたかったこと言っちゃったよ! ハズカシィー!


「ふふ。なかなかの名言だな」


 自分の言葉じゃないからさらにハズカシィー! 三十秒前に帰って自分を殴りてー!


「あ、そうだ。セフティーブレットが確保した土地と建物を使わせてもらってよろしいでしょうか? ちゃんと税は払うので」


「ああ。好きに使って構わない。女神の使徒が領地に関わってくれるのなら心強い。可能な限り協力しよう」


「高い出費になりそうだ」


 好意から協力してくれるわけじゃない。どこまでも冷静に計算した結果だろう。情はあるが情には決して溺れない。この人の芯を見たかのようだよ……。


「出費に見合う協力はさせてもらうよ」


 ニヤリと笑う公爵。チビリそうだ。


「ところで、駆除請負員とやらは誰にでもなれるものなのか? ルジューヌを駆除請負員にしたいのだが」


「ルジューヌさんを、ですか?」


 公爵の娘と言ったらかなり高貴な立場じゃね? いや、騎士にさせている時点で娘もミヤマランを守る駒として使っているか。


「ああ。協力の証としてもあるが、ミヤマランもゴブリンの被害に苦しんでいる。マルダラのこともだが、すぐに集まってきて被害が大きいのだ」


 どこも同じなのにゴブリン駆除に力を入れない。生活がかかってんだから四の五の言わずやれって言いたいよ。


「わかりました。何人でも構いません。なんなら公爵様もどうです? コラウスの領主代理様も駆除請負員になっていますし、楽に稼げる場を用意しますよ」


「ほぅう。楽にか。そんなことができるのか?」


「ゴブリンは最終的に殺した者が総取りです。今ならマルダラに用意できますよ」


 まだ八千匹はいる。五百匹くらい集めるのなんて造作もないだろうよ。


「一日でもよいか?」


「はい。朝に出て夜には帰ってこれると思いますよ」


 ルースカルガンなら余裕だろうさ。


「一日待ってもらえるか?」


「わかりました。二日後にやりましょうか」


 オレも一日時間が欲しいしな。


「では、二日後に」

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