第720話 宣戦布告
村を回っていると、イチゴが大人数の集団が近づいていることを報告してきた。
「恐らく父上が向けた兵だろう」
ニャーダ族には徴収できる物を探させ、オレたちは集団がくるほうへ向かった。
しばらくすると、馬に跨がった騎士らしき集団が見えた。
「わたしの部下のようだ」
「そう言えば、ルジューヌさんは騎士なんですか? 兵士なんですか?」
その違いはオレにはわからんけどさ。
「騎士だ。父上からは騎士団を一つ任されている」
「公爵ともなれば騎士団が持てるんですね」
コラウスでは兵士団すらなかった。兵士隊が二つだけとカインゼルさんが言っていたよ。
「そうだな。メセリアス王国との戦争でどの領地もたくさんの騎士や兵士が失った。まだ豊かなミヤマランは他よりは恵まれているな」
メセリアス王国とはミリエルの国だ。戦争に負けて三分の一の国土を奪ったとか聞いたよ。
その戦争もなにかと裏がありそうな感じだったっけ。ミリエルの話ではモリスの民を排除する戦争だったかもと言っていたよ。
「団長!」
あ、団長と呼ばれてんだ。
「ご苦労。父上からの指示か?」
「はい。団長を補佐し、賊を根絶やしにしろと命令されました」
「そうか。では、村から逃げた者がいないか探ってくれ。村はわたしたちがやる。一人として逃がすな」
「ハッ!」
なかなか統率がとれた騎士団のようだ。ルジューヌさんの命令に即座に従ったよ。
「ありがとうございます。時間稼ぎしてもらって」
騎士団が加われば徴収したものがミヤマランに渡さないといけなくなる。なかなか察せられる団長様だよ。
「わたしにできることはこのくらいだし、父上からはなるべくタカトに寄り添えと言われているからな」
「ミヤマランが続いている理由がわかる気がしますよ」
血なのか教育なのか、脈々と続くものがあるからミヤマランはこの国でも一、二を争う有力者なんだろうよ。
公爵とルジューヌさんの配慮に応えるため、運よくホームにいたミリエルをダストシュート移動させ、ニャーダ族が集めた徴収品をホームに運び入れた。
ミサロに睨まれながらも夜までかなりの量を徴収できた。が、やはり人数が足りないのですべては無理だった。
「ミリエル、ありがとな。あとは外に出してくれ。ラダリオン。悪いが手伝ってくれ。村を破壊する」
バールをラダリオンに渡し、ダストシュート移動させた。
「二度と使われないよう徹底的に破壊する。セフティーブレットに敵対したらこうなると教えるためにな」
連絡が途絶えれば様子を見にくるだろうし、破壊されたウワサが飛び回るだろう。謂わばヒャッカスに対する宣戦布告だな。
「ヒャッカスは敵だ。あちらが潰れるか屈するかしないとこの戦いは終わらない」
これはニャーダ族に向けての言葉だ。ヒャッカスのやり方を否定する気はないが、ニャーダ族を味方にしている以上、ヒャッカスを受け入れることはできない。受け入れるときは屈したときだろうよ。
「マーダ。獣化兵になったヤツらは?」
ほぼ肉体は残ってはいないだろうが、葬るためにも棺を買って集めさせたのだ。
「集めてトレーラーに積んだ」
「わかった。メビ。村から運び出して一望できる場所で埋めてくれ」
マーダたちによると見知らぬ者ばかり。きっと強制的に産まされた者たちだろう。ゴブリンどもの供述があったからな。
「ラダリオン。やってくれ。疲れたら交換だ」
「わかった。このくらいの規模ならあたしだけで充分だよ」
腕輪を使って元に戻り、バールを振り回して破壊を始めた。
さすがに近くで見ていると危険なので、少し離れてラダリオンが暴れる姿を眺めていた。
「……いいのですか? まだ使えるものがあったのに……?」
「なにより大切なものを守れるなら惜しくはありませんよ」
オレが守っているのはニャーダ族の誇りだ。あとは、そうだな。同情だな。誰かに利用されて死んでいった者への、な……。
「いや、自分への哀れみですかね。誰かに自分がいたことを覚えてて欲しくて、誰かに葬ってもらいたいって……」
この世界にオレを知る者はいない。帰ることもできない。オレはこの世界で生きて死んでいくしかないのだ。
「……そうですね。生きた者しか死者を思い出すことはできません。生きているの間は、忘れないようにしないといけませんね……」
エレルダスさんも別の世界に放り込まれたもの。まあ、自らの意志で選んだからまだ覚悟もあろうが、それでもたくさんの仲間を置いてきた。心情察するに余りあるよ。
ラダリオンが暴れるのを黙って見守り、破壊し尽くしたらラダリオンがこちらにやってきた。
「これでいい?」
小さくなったラダリオンにうんと頷いて水を渡した。
「あとはオレがやるよ。休んでてくれ」
装備を外せるだけ外し、用意していたポリタンクを二つを持って巨人になった。
破壊された村にガソリンをばら撒き、マルダートを放り投げて村を出た。
さすが三、四倍になったマルダート。かなり離れたのに爆風と爆圧が凄かった。巨人になっていても押されてしまったよ。
巨人化を解き、ラダリオンたちがところに戻り、装備をつけ直した。
「クソ女神。次は平和な世界に生まれさせてやれよ」
輪廻転生させられるか知らんが、別の世界からオレを連れてこれる力があるんなら平和な世界に転生させろ。お前が創った世界なんだからよ。
花でも添えられる状況ではないので日本酒とコップを五つ用意して酒を注いだ。
神には祈らない。だが、五つの魂が安らかに眠れるようには祈った。
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