第719話 ヒャッカス(再生)
メビたちの姿が見えた頃、後方で爆発が起こった。
「残念だよ」
自ら選んだ道。諦めてダメ女神の下にいってくれ。そして、中指を立ててファーなユーと叫んでちょうだいな。
「ご苦労さん。やはり強かったか」
かなり精神と体力を消費したんだろう。マーダたちは地面に腰を下ろしていた。
「ああ。情けないよ」
なにが情けないのかオレにはわからんが、ニャーダ族としては恥になることなんだろうよ。
それ以上は突っ込まず、倒された獣化兵を見た。
パージパールで倒したときは余裕がなくて標的としか見てなかったが、獣化兵は女だったんだ。男だと不味かったのか?
「男性は別の場所で使っているのでしょう。女性を置いていたということは、ここはそれほど重要ではなかったのかもしれませんね」
やってきたエレルダスさんの言葉に絶句してしまった。
女性であの強さをしていて、重要でもない地に五人も配置できるとか、どんだけデカい組織なんだよ? 公爵はそれほどの敵ではないってことかよ!
「もしかすると、背後にわたしたちのような存在がいるかもしれませんね。冷凍睡眠装置はそう難しい技術ではありませんでしたからね」
五千年前は、エルフがこの世界の主だった。長命種なだけに人口は少なかったみたいだが、全大陸に広がっていたそうだ。冷凍睡眠装置が難しい技術でないのならエレルダスさんと同じことをしていても不思議ではないか。
「この国はエルフが市民権を得てるそうですからね、その可能性もありそうです」
人間の国なのにエルフも一緒に暮らしていて差別も受けていない。ユウカさんが元でないならその前から目覚めたエルフがいるってことだ。
「……なかなか強敵な臭いがしますね……」
表に姿を現さない組織ほど厄介なものはない。まあ、オレもそこを目指しているんだが、自分がやろうとしているだけにヒャッカスの強者感が身に伝わってくるのだ。
「ヒャッカスって、エルフの言葉なんですか?」
エルフが関わっているならエルフの言葉ってことか?
「そうですね。エルフの言葉も大陸によって違うときがありますから、確証はないのですが、仮にエルフの言葉ならヒャッカスは再生と言う意味ですね」
「再生、ですか。それだったら古代エルフの可能性が高まりますね」
今の段階では確証は得られないが、古代エルフの可能性は高いな。まずはその方向で対策を考えるしかない、か……。
「……悪いな、助けられなくて……」
知っていればミリエルに眠らせたのに。急なことで殺すしかなかったよ。
なんて思っても仕方がないか。オレはそこまで有能じゃない。できないことのほうが多いんだよ。
「マーダ。他に仲間はいたか?」
「まだ確認はしていない」
「そうか。なら、生きている者に訊いていけ。答えないなら殺して構わない」
恐らくまだ百人くらいは隠れているはず。それだけいれば誰かがしゃべるだろうよ。
「オレらは村を見て回りましょう。いただけるものはいただきます」
どっちが悪党かわからないが、こいつらの財産はニャーダ族が生み出したもの。いなくなればニャーダ族に返るのだ。
護衛はメビとルジューヌさんに任せ、オレとエレルダスさんで金目の物や古代エルフの技術がないかを探していった。
あちらこちらから苦痛の悲鳴が響き渡る中、一番豪華そうな家があったのでここから攻めていくことにした。
オレたちの襲撃で慌てたようでかなり散らかっており、逃げるために荷物を運んでいた様子が見て取れた。
「農業をやっている家ではありませんね」
村長の家ってより貴族の家って感じだ。建物も立派だし、置いてあるものも立派だ。かなり身分のある者が住んでいたことがわかった。
部屋を一つ一つ見て回るが、金目の物も古代エルフの技術も見つからなかった。どうやら貴重なものは運び出したみたいだな。
「外と通信できるものはないですね」
「都市が主導で眠る準備をしていれば通信機器くらい用意するでしょうが、個人や有力者ではプランデットが精々でしょうね。難しくない技術とは言え、それを用意するには都市長クラスの権限がないと無理ですから」
言われてみれば確かにそうだな。数千年保てる施設を用意しなくちゃならないし、目覚めたあとの用意もしなくちゃならない。運よく目覚めても旧世界になっている。そこから再生するなんて至難技だろう。個人なら眠った人数も少ないだろうからな。
「人工衛星にアクセスする権限も都市長クラスでないと無理ですか?」
「魔力があるなら一般通信も可能でしょうが、受けても同じくらいの魔力がないと返せません。相互通信をするには発電機は必要ですね。もちろん、マナックも」
「冷凍睡眠って、賭けに近いんですね」
オレなら素直に死を選んだろうよ。滅びが見えている時点で未来に希望なんて持てないわ。
「そうですね。自分でもよく選んだなと思います。あのときは柄にもなく神に願いましたよ」
「まあ、人は追い込まれると神に願いたくなるもの。そうならないよう、万全の態勢を築いておくとしましょう」
オレは絶対に神などに願ったりしない。必ず自分の力で未来を築いてやるさ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます