第704話 胸糞悪い

 外に出ると、アルズライズが戻っていた。


「お前はすぐ問題に出くわすな」


「反論できないのが悲しいよ。そっちは問題なかったか?」


「つつがなく身請けできたよ。ハーフの子の他に八人の孤児を連れてきた。今、メビにお願いして体を洗わせている」


「じゃあ、服や靴を持ってくるよ」


 ホームから運んできてミライさんにお願いして持ってってもらった。


 しばらくして孤児たちが入ってきた。


 上は十二歳で下は八歳のようだ。栄養が足りてないからか、そう差は見て取れなかった。


「オレはタカト。お前らを身請けした責任者だ。出発するまでよく食べてよく体を動かしておけ。そんな体じゃ働けないからな。ミライさん。こいつらに食事をお願いします」


 ルースカルガンで運ぶが、広場までは歩いてもらわなくちゃならない。そこまで歩ける体力を身につけてもらうとしよう。


 子供たちに食事をさせたら部屋に向かわせ、早々に寝かした。


「アルズライズはここを頼む。メビ。マーダたちのところにいくぞ」


 まだ寝るには早いしな、様子を見にいくとしよう。


「タカト。ベネリ貸して。街中はショットガンのほうが倒しやすいから」


 そうなのか? まあ、メビがそう言うならそうなんだろう。オレはマルチシールドを装備していこう。やはりマルチシールドは常に装備しておかないとダメなヤツだな。


 装備を整えたらオートマップを持ってマーダたちのところに向かった。


 マーダたちの気配はわかるので、マップを埋めながら向かい、プランデットにも覚えさせる。今度はちゃんと逃走経路を確保しないとな。


 逃げるときは周囲に目を向けられなかったが、オレが降りたところはスラム街的なところだったみたいだ。どおりで建物が簡単に壊れていたはずだ。


「結構暴れ回っていたんだな」


「416だと簡単に壁を突き破っていたよ。ここで戦うなら散弾がいいかもね」


「街での戦いを考えないとな」


 なるべく街での戦闘はしたくないが、捕まったニャーダ族を助けるには街に入らないといけない。それに適した武器を使いこなしたり戦術を考えたりしないといかんだろう。この世界は魔法を使えるヤツもいるんだからな。

 

「死体がないな?」


 結構な数のゴブリンを駆除したはずなんだが、血痕らしき跡はあっても死体はない。片付けられたのか? 


「タカト。いこう」


 硬い声でオレを促すメビ。危険と感じてすぐにその場から移動した。


 マーダたちの気配はスラム街の中心部。そこそこ立派な家があった。


 頑丈な扉の前にはニャーダ族の男が二人、返り血を浴びた姿で立っていた。


「ご苦労さん。ここがゴブリンの巣か?」


「ああ。粗方片付けた。今はゴブリンからお話を聞かせてもらっている」


「他から仲間はきたのか?」


「きてない。兵士や役人もくる気配はないな」


 完全にアンタッチャブルな区域ってことか。これは、ミヤマランの癌になっているかミヤマランと繋がっているかのどちらかだろうよ。


 扉を潜ると、血の臭いが充満していた。


「かなりの数がいたみたいだな」


 血の臭いってのはいつ嗅いでも嫌なものだ。水で洗い流せるかな?


「メビ。マスクをしておけ。血には触るな。不衛生すぎて変な病気が漂っているかもしれんからな。あと、ここを出たら回復薬小を飲んでおけ」


「了解」


 オレもマスクをして建物の中に入った。


 中は死体を片付けていないようで、惨殺された死体があちらこちらに転がっている。お話しするなら片付けてからして欲しいものだ。


 魔力は満タンなので壁や床、死体から血を集めて外に捨てていく。まあ、さすがに建物中をやるのは面倒なので、マーダたちがいる地下に向かう道に転がっているものだけを片付けた。


 破られた扉から階段を下りると、マスク越しにも異臭に満ちているのがわかった。


「マーダ。話なら上で聞け。ここは空気が悪い」


 もう防毒マスクをつけるレベルだぞ。病気より精神的に病みそうだわ。


「そうだな。よし。お前ら、上にいけ」


 裕福そうな格好をした者たちを蹴り飛ばして上へ移動させた。


 その中にはまだ少年と呼べる者や孤児くらいの少女もいた。なんとも胸糞悪いが、ここで許したらニャーダ族から怒りを買う。それだけはできないのだからまた酒の力を借りるとしよう。


「捕まっていた者は?」


「一番いい部屋に移して休ませている。怪我を負った者は薬で治した。今はこいつらから話を聞かせてもらっているところだ」


「代表者は?」


「こいつだ」


 だろうなって思っていた男を蹴り、オレの前に出してきた。


「なるほど。腐った顔をしているな」


 人とはここまで醜くなるんだな。まだ行商奴隷団のヤツらがマシに見えるぜ。


「マーダ。回復薬を一粒くれ」


 出された回復薬中を受け取り、ファイブセブンを抜いて男の太股に一発撃ち込んでやった。


「──ギャアァァァッ!」


 散々殴られたのにまだ痛覚があるようだ。


「ほら、飲め」


 騒ぐ男を押しつけ、回復薬中を無理矢理飲み込ませた。


「それは神の薬。どんな怪我も病気も治す。わかるか? 死なないていどにお前を壊し、精神が壊れる前に体を癒す。これの意味がわかるか? わからないならわかるまで教えてやる」


 ファイブセブンを少女に向けたらメビがさっと間に入り、なんの躊躇いもなく少女の脚に散弾を放った。


 少女の悲鳴が響き渡り、暴れる少女を押しつけて回復薬中を四粒飲ませた。


「あたしはタカトの銃。撃つなら任せて」


 メビに汚れさせたくなくてオレが撃とうとしたが、どうやらメビには悟られていたようだ。まったく、お前は……。


「さっさとしゃべるんだな。お前らの背後にいるクソどもも駆除しないとならないんだからよ」


 涙を流す男に優しく笑ってみせた。

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