第705話 ニャーダ族の女

 説得が効いたのか、男はすらすらしゃべってくれた。


 他にも幹部らしき男からも聞き、情報の照らし合わせをした。


 結構夜遅くまでかかってしまったが、かなり深いところまで聞けたと思う。


「ミヤマラン公爵と繋がりがなかったのが唯一の救いだな」


 でなければ公爵を殺しているところだった。まあ、自分の領地でこんなゴブリンを放置していたのはいただけないが、これだけ広いとクズやゴミが落ちているのは仕方がないこと。暇を見てコラウスやアシッカでクリーン活動するとしよう。


「マーダ。こいつらを地下に放り込んでおけ」


 不満そうなニャーダ族に無言でアゴで促した。


「殺さないのか?」


 戻ってきたマーダが代表して訊いてきた。


「最終的には殺すが、仲間を釣るエサにする。スラムのボスだけでこれだけのことはできない。必ず金を持っている協力者がいる。そいつも捕まえる。まあ、末端までやると手間がかかるから主だった者だけで納得しろよ」


 頭だけで納得してもらう。じゃないと異種族間戦争になってしまうからな。やるとしたらこの国が敵になったときだ。


「あのゴブリンはすべてを話したんじゃないのか?」


「そんな素直に話す男だと思うか? 言っちゃならないことを隠すためにどうでもいいことをそれっぽくしゃべったんだよ」


 ああいうクズはとことん性根が腐っていて悪知恵が働くもの。そして、諦めが悪いもの。絶対、なにか重要なことを隠しているものだ。


「下っぱをいくら殺そうともまた増えてくる。しっかり頭を潰して二度と現れないように法を決めさせる。自分たちの誇りを守りたいなら憎しみで動くな。理性的に動け。お前たちは獣じゃないんだからな」


 自分たちが獣じゃないってんなら理性的に行動しろ。頭を使え。自由と権利、そして、誇りはタダでは得られないものなんだからな。


「……わかった」


 まだ感情が勝っているが、獣に堕ちることは誇りに反する。不承不承ながらも頷いた。


「よし。では、金目のものを集めるぞ。今後の活動資金にさせてもらおうじゃないか。ここにあるものはすべてお前たちが得るはずだった利益だ。金目のものはすべていただくぞ。壁の裏まで探せ。木材は薪にしろ。ただ、静かにやれよ。仲間が眠っているんだからな」


 ニヤリと笑ってみせると、ニャーダ族の男たちもニヤリと笑い返した。


 夜遅くにも関わらずニャーダ族の男たちは精力的に動き、これゴミだよ! ってものまで集めてきた。


 まあ、この時代のゴミは燃やせるものばかり。化学物質のものもない。人体に被害を出すようなダイオキシンもそう出ないだろうから燃やしてしまえ、だ。


「タカト。ここを覗いていたヤツを捕まえたよ」


 さすがに眠くなってきたな~ってとき、メビが黒づくめの男を引っ張ってきた。


 プランデットで男の生体情報を入力したら縛って倉庫に放り込んでおく。


「マーダ。三人くらい休ませておけ。捕まえたヤツが逃げたら尾行しろ。アジトなら全員捕まえろ。どこか金持ちの家ならなにもせず情報を持ち帰れ。さすがにここで集めたものを片付けなくちゃならんからな」


 襲うなら計画的に。じゃないとミサロに怒られちゃうからな。


 ニャーダ族が集めたものをえっちらおっちらホームに運び入れ、さすがに限界がきたのでマットを持ってきて眠りについた。


 気持ちよく起きると、捕まっていた者たちも目覚めており、マーダたちが出した食事をモリモリ食べていた。


「マーダ。ニャーダ族の女性を連れてきたほうがいいか?」 


 意外と女性が多かった。


「いや、大丈夫だろう。ニャーダ族の女はそこまで弱くはない。逆に刃物は渡さないでくれ。恨みを晴らしに飛び出してしまうからな」


 こそっと訊いたらこそっと返された。そういや、コラウスでもニャーダ族の女性もゴブリン駆除に動いていたっけ。


「メビは特にニャーダ族の女の特徴がよく出ている。しっかり手綱を握っておけよ」


「父親ならなんとかしろよ」


「ニャーダ族の女に勝てる男はいない。タカトがなんとかしろ」


 なにカッコ悪いことを男らしく言ってんだよ! ちゃんと教育しろよ! なんとかしろじゃねーんだよ!


「クソ。ニャーダ族の女とはなるべく接触しないようにしないとな」


「メビとビシャが見張っているから誰も近づかんだろう。そのためにミリエルが二人をつけているんだからな」


「オレ、そこまで信頼がないのか?」


 そこまで女ったらしじゃないんだがな。


「……なるほど。確かに誰かが見張ってないとダメな男だな。ズレすぎなんだよ」


 はぁ? なにがだよ? って言おうとしたらメビがやってきた。


「とーちゃん」


 なにか冷たい声を出すメビ。とーちゃんと呼ばれたマーダがそそくさとどこかに逃げていってしまった。


「タカト。捕まえたヤツが逃げたよ」


 こちらを見たメビの顔はいつもの顔であり、先ほどの冷たい声はどこへやら。気のせいだったのか? 


「そ、そうか。じゃあ、情報を持ってくるまで捕まっていた者たちから事情を聞くとしようか。捕まってからのことも聞いておく必要があるからな」


「了解。そう話してくるよ」


 その背中がついてくるなと言っているようで、メビが帰ってくるまで大人しく待つことにした。

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