第703話 剣闘士

 なんとか木漏れ日亭へ到着。子供はメビにちょっと見ててもらい、オレはホームに入って軽くシャワーを浴び、ライガ用の着替えとタオル、盥、ヒートソードを持って戻ってきた。


 回復薬と饅頭で怪我は全快している。まずは汚れた体を綺麗にしてやろう。


「メビ、この子は男か?」


 なんだろう。三十を過ぎたら子供の性別が区別できなくなっている。これってオレだけなんだろうか?


「男の子だよ。ライガくらいじゃないかな?」


「十二歳なのか? にしては幼すぎないか?」


 ライガも八歳くらいに見えるが、この子は六歳くらいに見えるぞ。


 ……ニャーダ族は三年生き抜いたら歳を数えるから見た目でわからなくなるんだよな……。


「獣人は成長期が遅いから伸びるときは一気に成長するんだよね」


 確かにビシャとメビも一気に成長したっけ。ビシャなんて半年くらいで二十センチは成長したものだ。メビはまだ十センチ伸びたくらいだけど。


「まあ、真っ当に食べられてないようだし、小さいのは仕方がないか」


 背も低いが、肉もついていない。何日も食べてない感じだ。


 とりあえず、男ならロリコンの罵りを受けることはない。木漏れ日亭の水場を借りて体を洗ってやった。


「ちょっとデカいが、今はこれで我慢してくれな」


 子供のサイズなんてわからない。ボロ布を纏っただけよりはマシだろう。あ、足はライガと違って人間の足なので、メビに子供用のサンダルを買ってもらって履かせた。


「うん。今はこれで我慢してくれな。落ち着いたらちゃんと合う服を用意するから」


「……あ、ありがと……」


 と、子供がお礼を口にした。あ、しゃべれたんだ。


「どう致しまして。さあ、次は食事だ。腹を壊さないていどに好きなだけ食うといい」


 ミライさんに食事を用意してもらい、子供に食べさせた。


 獣人の胃は本当に丈夫にできているようで、その小さい体のどこに入ったのか、三人分もの料理が消えてしまった。


 満腹になれば眠くなるのは生物共通。電池が切れたようにテーブルに突っ伏してしまった。


「ミライさん。新しい部屋を借りていいですか?」


「構いませんよ。うちは泊まるお客さんはそういませんからね。好きな部屋を使ってください」


 と、ありがたいお言葉。感謝を述べて適当な部屋に子供を寝かせた。


「メビも休んでいいぞ。昨日はよく眠れなかっただろう?」


「大丈夫だよ。マットを敷いて横になりながら見張ってたからね。まあ、マットは無駄になっちゃったけど」


「エルガゴラさんにアイテムバッグを創ってもらわんとな」


 レッグバッグよりリックサック型のアイテムバッグのほうが使いやすいわ。


 ここを離れるわけにもいかないので食堂で休んでいると、ニャーダ族の男が一人やってきた。


「タカト。子供を襲っていたのはあそこを仕切っていたマルゼカと言う一家のようだ。今、あの一帯を調べているところだ」


「他にも捕まってそうなのか?」


「ああ。どうもこの国では獣人同士を戦わせる見世物があるらしい。ミヤマランの金持ちが一チームを抱えているようだ」


「剣闘士か。どこの世界も同じだな」


 映画でしか知らんが、人間は命を賭けた戦いってのが好きな生き物のようだ。臆病なオレには理解できんよ。


「ミヤマランでは魔物と闘わせているとか。恐らくあの子供は魔物のエサにされて、場を盛り上がらせようとしたんじゃないかとマーダが言っていた」


 外の世界を知るだけに人間を知っている考察だな。


「じゃあ、そいつらを捕まえて魔物のエサにしてやるか。どこかに山黒いないかね?」


 って、オレも大概だな。ゴブリンが食われるところを見たいってわけじゃないのによ。


「そいつらはおれらが殺す」


「そうだな。山黒を捕まえるのも手間だし、ゴブリンはさっさと殺したほうがいいな」


 ニャーダ族のガス抜きに使ったほうが有益か。


「ただ、情報は吐き出させてくれよ。この国で、ってんなら他にもお前たちの同胞がいるってことだからな」


「すまない」


「お前たちが謝ることじゃないよ。あと、少々派手に動いても構わない。ミヤマラン公爵はオレの価値を理解できる人のようだからな。その金持ちかオレか、どちらを取るかは火を見るように明らかだ」


 回復薬を求めたことでオレのことに興味を持っていると言っているようなもの。必ずオレと接触してくるだろうさ。


「あ、回復薬を持っていけ」


 回復薬中の瓶を渡した。


「……いいのか……?」


「必要なときに必要なだけ使え。なくなったらミリエルを呼ぶ。一人でも多く同胞を救ってこい」


 そう言って送り出した。


「メビ。少しここを頼む。たくさん救出したときのために用意してくるよ」


 これまでの流れからしてかなりの数を連れてきそうだ。あ、アルズライズのほうもあったんだっけ。


「木漏れ日亭だけでは収まらなくなるな」


 仕方がない。孤児はノーマンさんのほうに預かってもらい、オレたちは木漏れ日亭にいるとしようか。


「あ、木漏れ日亭に迷惑をかけないようにしないといけないな」


 やはり、ミヤマラン公爵と会う必要はあるか。どうせなら伯爵も同席してもらいたかったが、ノーマンさんに同席してもらうか。


 あれこれ考えながら用意を始めた。

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