第700話 いただきます

 まあ、獣人がいたところで救い出そうと思うことはない。


 オレは正義の味方でもなければ種族差別撤廃運動家でもない。ましてやミヤマランの秩序を乱す気もない。が、獣人がそれをどう思うかも自由だし、どう動こうかも自由だ。ただちょっと、オレたちの関係が崩れないていどには協力はさせてもらうけどな。


 食堂に向かう前にホームに入り、手の空いているニャーダ族をミヤマランにくるようミサロからシエイラに伝えるようお願いした。


「ラダリオンのプランデットが道標になるから、そこからミヤマランに入ってくれ」


 プランデットは発信器の役割もあるし、請負員ならオレの気配がわかる。ニャーダ族なら城壁も軽々越えられるだろうよ。


 ミサロに伝言をお願いしたら外に出た。


 見張りをしているメビには悪いが、オレらは夕飯をいただくことにする。


 食堂にくると、なんともいい匂いが。テーブルを見たらこの時代とは思えない料理が並んでいた。


「凄いですね。この時代で白いシチューなんて作れないと思ってました」


 この時代のシチューはなんか茶色い。塩野菜スープと言ってもいい。元の世界のような白いシチューなんてどうやって作るんだ?


「ふふ。異世界の人から言われると嬉しいものね。この料理は代々うちに伝わるものなのよ」


 言われてみれば見覚えがあるものばかり。煮物とか完全に元の世界のものと遜色がない。大根まであんのかよ!


「ミヤマランで採れるものばかりなんですか?」


「魚や海藻は親戚に届けてもらっているわ」


「親族、結構いるんですか?」


「そうね。祖父が八人も娶ったそうだから各地にいるわ。わたしの子も五人いるわ」


 言葉は悪いが、繁殖力が高い一族なのか? ってか、歴代の駆除員が繁殖力が高いのか? その本人が短命ってのが悲しいことだけどよ。

 

 席につき、ミライさんが作ってくれた料理をいただ──く前に写真を撮らせてもらった。


 料理毎に撮らしてもらったらいただきますをしていただいた。


「本当にいただきますと言うのね。祖父がやっていたのを思い出したわ」


 やはりユウカさんは日本人なんだな~って思わせるセリフだな。


「まあ、一人暮らしをしていると言わないですけどね」


 オレも一人暮らしをしたときにいただきますご馳走さまなんて言いもしなかった。家族が増えていっていつの間にか言ってたな……。


「今は言える家族がいるのね」


 やはり年の功。わかってしまうものなんだな~。


 ミサロにも負けない味に、出された料理をすべて平らげてしまった。


「ワインをどうぞ」


 ここでは食事と飲まないのか、食べ終わってからワインが出された。水差しはあったけど。


「いいワインですね」


 この世界のワインなんてカインゼルさんとであったとき以来だが、なかなか美味いじゃないか。


「ブロープ産のワインで、従姉の娘が届けてくれるんですよ」


 ブロープがどこか知らんが、トウナカ一族、下手な組織よりデカいんじゃないか? いや、トウナカネットワークが凄さを感じるな……。


「トウナカ一族は王国に広がってそうですね」


「そうかもしれないわね。わたしも会ったことがない甥や姪、従兄弟がいるからね」


 どんだけだよ? ほんと、トウナカ一族は繁殖力が高いな!


 ミライさんも席につき、ユウカさんのことを知っている限り語ってくれた。


 ユウカさんは、今から四百年前にダメ女神に拉致され、魔力と交換に元の世界のものを創り出せるチートをもらったそうだ。


 ……ほんと、ダメ女神はいろんな能力を与えて放り出してんだな……。


「女性にはゴブリン駆除は大変だったでしょう」


「そうでもなかったみたいですよ。運よくハーフエルフの冒険者、曾祖父と出会ったそうなので」


 たぶん、ダメ女神が仕込んだんだろう。一般女性が山の中に放り出されて生き抜くなんてまず不可能だろうよ。男のオレですら大洪水を起こすほどの厳しさだったんだからな。


 放り出された地はここから遠い地で、もう名前も国も変わっているとか。そこから一年くらいはゴブリン駆除をしながら各地を回り、拠点を作ってそこで活動したとか。


 子供も二人産み、幸せな暮らしをしていたようだが、ゴブリン女王が現れて都市を滅ぼし、曾祖父さんと子供を逃がすために全魔力を使って爆発物を創って女王を殺したそうだ。


 母は強し、っていうんだろうか? なかなか思い切ったことをする。ってことは、ホームは与えられなかったってことだろうな。


 魔力と交換ながら元の世界のものを創り出せるんならやりようはあっただろうに、暮らしに満足して未来に備えなかったんだろうよ。


 生きれば生きただけ油断が生まれる。幸せが続くと勘違いしてしまう。オレが学ぶべきはそれだろうな。


 油断しない。幸せを当たり前と思わない。常に未来に備える。オレは絶対、老衰で死んでやる!


「とてもためになる話でした。なにかあればいつでも声をかけてください。ユウカさんが残した命がこれからも続くよう協力させてください」


 トウナカ・ユウカという人間が生きていた証を残してやるのがオレにできる唯一のお返しだろうよ。


「大丈夫ですよ。トウナカ家は昔も今も協力し合って生きてますから。あなたはあなたのために生きてください。あなたを心配する人は多そうですからね」


 もしかしたら、学ぶべきは今を生きている人かもしれないな……。


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 あと一月で二年か。今だに読んでくださる方々に感謝です。

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