第699話 聖光魔法

 とりあえず、部屋を借りて一息することにした。


「メビ。外に出るときは注意しろよ。ミヤマランで獣人は珍しい存在だからな。誘拐されそうになったら素直に捕まって隠れ家を静かに潰せよ」


 いや、フリではないが、殺るなら静かに殺れって言っているだけだからね。


「了ー解!」


 なんかやる気満々で不安だが、ミリエルたちがランダーズで見つけたものを整理しなくてはならない。買い物したりユウカさんのことを考えたりしてらんないんだよ。


「アルズライズはどうする? 酒を飲むなら持ってくるぞ」


「いや、おれは冒険者ギルドにいってくる。ロンダリオたちや魔物のことを聞いてくる」


「そうか。帰りに市場に寄って野菜や果物を買ってきてくれ。ミサロが欲しがっているからさ」


 ミヤマランでどんなものが栽培されているか知りたいってこともあるが、ミサロが純粋にミヤマランの食材でなにか作ってみたいって言うからアルズライズに買ってきてもらうとしよう。


「わかった。夕食はこちらで済ませるのか?」


「ああ。さすがに初日に食事をしないのは失礼だからな」


 ミライさんにはもっと話を聞きたい。駆除員の子孫の話は価値があるからな。


 ホームに入り、ランダーズから運び込まれたものを確認してから出しやすいように整理する。


「マナックが増えたのはいいが、その分、消費も増えたな~」


 ルースカルガンを飛ばすのにバカみたいに消費する。古代エルフが魔物を大量に生み出したのがよくわかる。一都市を回すのに竜クラスの魔石がないとやっていけんわな。


「それで自分たちが暮らせなくなるなんて滑稽でしかないな」


 エレルダスさんの話では竜を増やし過ぎたせいでなんかエルフを殺す毒がこの地に充満したそうだ。


 その毒に打ち勝ったエルフだけが生き残り、毒が消えるまで眠っていたエレルダスさんたちが次を残せる種(たね)となったわけだ。


「ミサロ。今日はミヤマランに泊まるからあとを頼むな。アルズライズが食材を買ってきたら持ってくるよ」


「わかったわ。料理の写真もお願いね」


「ああ。じゃあ、いってくるよ」


 時刻は十七時前。アルズライズたちは帰ってきているだろう。


 宿の部屋に出ると、部屋中に食材が置かれていた。どんだけ買ってきたんだよ?


 このままだと部屋を出れないので食材をホームに運び入れた。ほんと、買いすぎ!


 三十分かけて食材を運び入れると、軽く汗をかいてしまった。ハァー。疲れた……。


「お、出てきてたか」


 ベッドに座り、水を飲んでいると、アルズライズが入ってきた。


「ああ。随分と買ったな。一人で運んだのか?」


 アイテムバッグもないのによく運んできたものだ。


「孤児に囲まれて恵みを要求されたから仕事をさせた」


 やはりいたか、徴税人。てか、よくアルズライズに声をかけられたな。今はこうして話してられるが、初対面で声をかけようと思わなかったぞ。


「目が見えない子供だった」


 あーなるほど。見えないんじゃこの顔を怖がったりしないか。


「目が見えないのによく生きていられるな」


 この時代を考えたら地獄でしかない。いや、両脚がなかったミリエルが生きてきたんだからこの時代の人間のメンタルは強いってことか? 


「恐らく、ミリエルと同じ系統の魔法を持っていると思う」


「回復魔法か?」


 意外と回復魔法を使える者はいるそうで、教会はそういう者を見つけて囲い込むそうだ。


「いや、少し違うものだな。聖光魔法、命に働きかける魔法を教会は聖光魔法と呼んでいるんだが、聖光魔法にはいろいろ系統がある。教会がほとんどを握っているのでなにがあるかはわからんのが実情だ」


 まあ、組織を維持しようとしたら有益な情報は隠すもの。教会の力がよくわかるというものだ。


「気になるなら勧誘してもいいぞ。徴税をしているならまだ教会に知られてないってことだろう? なら、今のうちにもらっておけばいいさ」


 見た目は凶悪なアルズライズだが、結構子煩悩なところがある。ラダリオンやメビを相手しているとき、本当に優しい顔をしているからな。


「いいのか?」


「いいだろう。別に教会と仲良くしているわけじゃないしな。有益な人材は早い者勝ちさ」


 迷っているアルズライズの背中を押してやる。


「コラウスの孤児は先約があるからもらえないが、他の領地ならなんの遠慮もいらない。必要ならごっそりもらってこい。麓の広場まで移動させたらルースカルガンでひとっ飛びだからな」


 その資金として金貨十枚を渡した。孤児を引き取るならそれだけあれば足りるだろうよ。


「……わかった。ごっそりもらってくる」


「ああ、頼むよ。セフティーブレットとしても人材は欲しいからな。あ、世話をできる年齢のヤツも頼む。いきなり知らない土地に連れていかれたら子供が怖がるからな」


 ってことで、明日は別行動にすることにした。


「そう言えば、メビはどうした?」


 まさかフラグを立ててないよな?


「孤児院を調べさせている。メビは隠密行動に長けているからな」


「なにか問題でも?」


 調べるってなにを調べるんだ?


「孤児院に獣人のハーフがいた」


 それで理解した。ミヤマランに獣人がいるってことに。

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