第696話 ミヤマラン再び

 夕方、麓に到着できた。


 野営したところから約二十キロって言ったところだろうか? 歩くとなると結構時間がかかるものだ。


「マービル、ロクス、ここを均してくれ」


 ついてきてもらった二人の巨人にお願いした。


 ここはもうミヤマラン公爵領だが、事後承諾で開拓して広場を作らせていただきます。


 ラダリオンに物資を運び出してもらい、野営の準備に取りかかった。


 ミヤマラン公爵領側は川沿いに街道があるので水の心配はなく、木もたくさん生えているので薪にも困らないだろうよ。


「メビ、鹿だ。狩るぞ」


「了ー解」


 一日歩いたのに元気なヤツらである。


 オレはもう歩きたくない。三段階アップ(ダメ女神に二回。竜の血を浴びて一回かな?)したのに、サボるとすぐ体力が落ちやがるぜ。


「暗くなるんだから遠くにいくなよ~」


 とりあえずタワーライトを引っ張り出してきて設置した。


「ラダリオン。先に休んでいいぞ。オレが見張りに立つから」


 山に残してきた冒険者は五人。残りの十人で見張りをお願いしてあるので、冒険者たちにも先に休んでもらった。


 プランデットがあるので暗くなっても問題なし。デッキチェアに座りながらサキイカをしゃぶり、ブラックコーヒーを飲んだ。


 一時間くらいしてアルズライズとメビが鹿を二匹狩って戻ってきた。


「かなりの数がいるな」


「魔物がいなくなったのが原因か?」


「恐らくな。普通なら草食獣を狙って集まるようなものなんだが」


「アルズライズたちが暴れすぎたんだろう」


 ゴブリンを千単位で駆除して回れば大抵の魔物は逃げてしまうだろうよ。もう凶悪な竜が住み着いたようなものだ。


「ふふ。そうかもな。捌いて巨人にわけるとしよう」


 巨人にしたら一口サイズだが、肉があるだけで喜ばれる。なかなか食べられないものだからな。人間には羊肉を出しているよ。


 ライダンド伯爵領の道がよくなり、峠に宿場町ができたから往来が激しくなって羊も大量に流れてきているそうだ。


 ……この世界の羊、メッチャ繁殖力が高いんだよな。春先に連れてきた羊、もう仔ができて秋には産まれるんじゃないかって話だよ……。


 館にも羊は流れてきているので毎食羊肉が出ているよ。オレは、豚肉のほうが好きだな。


 何事もなく夜は深けていき、何事もなく朝を迎えた。


 ここからはパイオニアが使えるので、三号をアルズライズに任せ、冒険者を三人休ませ、五号にも三人。四人は馬車で休んでもらいながらミヤマランの領都に出発した。


 ラダリオンと二人の巨人にはここ残ってもらい、広場を作ってもらうことにする。あと、森の奥にルースカルガンの発着場も作ってもらうようお願いしておいたよ。


 道中、これと言った問題もなく、途中にある村で水をわけてもらい、夕方にはミヤマランの領都が見えてきた。


 去年から細々と流通はあったからか、北門側の広場にキャンプをした跡がちらほらと見えた。


 今日はここに泊まるとして、まずは主だった者を引き連れてコラトラ商会に向かうとする。


「アシッカの商人か?」


 入都税を払うと、門番がそんなことを尋ねてきた。


「いえ、コラウス辺境伯領の商人です。アシッカ経由でやってきました」


「そうか。通れ」


 なんだ? と思いながら城門を潜った。


「なんですかね?」


 ロウルさんに尋ねてみた。


「恐らく、我々がきたことを上に伝えるためでしょう。アシッカ伯爵様とミヤマラン公爵様は付き合いもありますし、コラトラ商会もタカトさんのことは伝えているはずです。常に情報を上げているのでしょう」


「ミヤマラン公爵様がやっているのか、部下がやっているかで話は違ってきますね」


 まあ、どちらにしても公爵は優秀ってことに間違いはない。伯爵からも公爵は優秀な人だと言っていたからな。


「公爵様が命じて部下にやらせているのでしょうね。コラウスも同じことをやっていますから」


「優秀な方はそつがありませんね」


 領主代理なら納得できるが、公爵みたいなかなり上の立場の人がやらせているならかなり切れ者なんだろうよ。


 オートマップを見ながらコラトラ商会へ到着。外観はあのときのままだが、人の出入りが多くなってないか? なにが起こった?


 店の者だろう人に声をかけると、オレ名前を口にし、店の中へ案内された。


 商談スペースに通され、人数分のお茶がすぐに出された。


 お茶を飲みながら待っていると、少し息を切らしたノーマンさんが現れた。どこかに出かけていたのかな?


「突然すみません。連絡を出す者がいなかったので見物がてらやってきました」


「いえいえ。お気になさらず。こうしてきていただけるだけでありがたい限りです」


「なにか問題でも?」


 オレの人生、平穏などない。問題があって当たり前の日常である。死なない問題なら笑って受け止め……ることはできねーな! 問題は勘弁して欲しいわ!


「回復薬をいただけませんでしょうか?」


「いいですよ」


 プレートキャリアから回復薬中を入れた袋を出してテーブルに置いた。


「ノーマンさんが有利に動けるよう使ってください。もちろん、いろいろ便宜を図ってもらいますがね」


 回復薬が問題を生むくらい予想はついていた。なら、それを利用してやるまで。そんな問題は想定内さ。

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